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日本機械学会のリーダが気軽に話題を提供するコラム欄です。
会長を含めて3人程度が交代で一年間を通して執筆します。


No.8 『技術屋の好奇心

(株) 日立製作所 ライフサイエンス推進事業部 田口裕也

 
 

デュッセルドルフ研究事務所に駐在中、コンコルド(パリ→ニューヨーク)に乗るチャンスがあった。
定員100名で、やや狭苦しい機内の正面を見ると壁にマッハ(M)ナンバーが表示されており、思わず鞄からメモ帳の方眼紙を出して30秒毎にM数を記録しグラフを作成した。
この作業は、機内食とシャンペンを取りながらであり、かなり多忙だった。
離陸8分後、ジャンボの巡航速度M0.8に達し、M0.9を超える頃からかなり強い振動が始まった。壁やシートに振動が伝わり、シャンペンがこぼれる程ではないがシートベルト着用のサインが点く。
数値はM0.94〜0.97を行きつ戻りつして音速の壁に抗しているようだった。
振動が弱まった頃、M数は、1.0を過ぎて急にM数の増加が早くなった。50分後に最高速度M2.04になったが、その前にも同様の振動が発生した。(図参照)

この二度の振動は何だったのか気になりだして、客室乗務員に機長への面談を頼んだ。
暫くしてコクピットへ入る許可が貰え、方眼紙を出して機長に尋ねた。機長は、グラフを興味深げに眺めて、振動の原因はアフターバーナの点火で生じたもので、M1.0と1.7でアフターバーナを作動させ17%の推力増加を図ったと説明してくれた。
ついでに空力加熱について尋ねると、翼先端温度は、110℃で最高127℃以下にコントロールしているという。このため、主翼などに使用する耐熱チタン材を最少に抑えられるわけである。
些細なことだが新たな知識を得て、何か凄く得をした気持ちで、今でもこのフライトは忘れられない。

好奇心とは、"ヒト"ならではの引継がれた遺伝子によるものではないだろうか?
仮にあるとすれば"好奇心遺伝子"が発現することにより、新たな事実/知識が得られ、つぎの発想・工夫へと発展し、さらに好奇心が活発になる"好奇心スパイラル"とも言えるものがヒトを進化させてきたのではないだろうか。
但し、好奇心だけではかえって危険に遭遇するリスクが増えて生き残れない。
上手く"好奇心スパイラル"を活用して、バイオ、ナノテクなど新分野で勝ち残れる日本になりたいものである。

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Last Update 2002.12.16

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