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JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。
会長を含めて3人程度が交代で一年間を通して執筆します。


No.14 『理科系 いいじゃない!

大島まり(東京大学生産技術研究所) 


 冬のとある土曜日の午後、駒場リサーチキャンパス内にある私の研究室に25名ほどの中学生が訪れた。ここ7年ほど、「研究を通しての科学技術教育」として中高校生を対象とした東京大学生産技術研究所の公開や出張授業を行ってきている。その関連から、東京都の主催するサイエンススクールに参加した中学生が、生研と私の研究室の見学に来たのである。
 公開講座の題目は、「見えない「ながれ」をみよう!−飛行機を飛ばす空気の「ながれ」,からだの中の血の「ながれ」―」。せっかく研究室に来てもらったのだから、ただの講義ではつまらない。そこで、研究室で開発したポータブル風洞を用いて実験を行い、翼の原理や車の空力について説明した(写真1)。次に、今度はコンピュータを用いて現在研究している血液の流れについて講義。約2時間、TAの学生と実験をしながら、授業をした(写真2)。

写真1 ポータブル風洞を用いた実験
(翼の浮く原理を説明中)
写真2 血液の流れについてパワー・ポイントを用いて説明
(頭を掻きつつ(?)質問に答えている最中)

 中学生にとって比較的難しい内容だったようだが、授業が進むにしたがい、質問も出るようになってきた。今まで幾つかの中学校や高校に出張授業にいっているが、総じて女子生徒が活発である。この日は、約1/3が女子生徒であり、質問のほとんどは彼女たちからだった。授業が終わってからも、4〜5人の女子生徒が集まり、講義に関連して色々と質問を始めた。随分長い間質疑応答で話し込んでいたのではないだろうか。一通り質問が終わり、私が何気なく一番元気の良い女の子に
「将来は、科学の分野に進むの?」
と質問したところ、急に下を向いて押し黙ってしまった。そして、しばらくして、ぼそっと
「おとうさんがお前はむりだから、やめとけというの」
「え〜、だって質問にもきちんと答えてたし、色々と質問してたし、理科や数学好きなのでしょ。」
「好きだけれど、おまえには物理なんて無理だから、やめとけというの」
そうしたら、別の子が
「うちのパパも同じことをいう」
また、別の子が
「そうそう、うちも理科系なんかお前に向いていないから、やめとけというの」
というではないか。
「信じられない!未だにそんなこと言っているの?私が学生だったころと変わってないねぇ〜」
と思わず、目をむいてしまった。
 私が高校生だったころ、大学への進学先は工学部ですといったとき、進学指導の先生が「工学部に行ってどうするの?実験もあるし、女の子には大変だよ。」とコメントされたことがあった。でも、それもウン十年前のこと。最近は、工学部で女子学生の姿をよく見かけるし、機械学会の講演会でも女性の参加が随分増えたように思う。しかし、今回の公開授業に参加した女の子の半数が、おとうさんに辞めとけと言われている状況を見ると、意識に温度差あるのも事実のようだ。
 科学技術の発展は、現象の普遍性を追求し、それらの原理を多様な面に拡げていくといった2つの側面をもっているように思う。そうやって考えてみると、今後更に科学技術を発展させていくには、国籍、人種や性別に関係なく多様な人材が必要だと考えられるし、実際にそのような方向に向かっているのではなかろうか。
 と、公開講座も終わり、ひとり考えていた。そこで、はたと気づいた。彼女たちのおとうさんって、ひょっとして40代、30代なのでは。若い世代の意識が思ったより変わってないじゃないの、と少なからずショックを受けた。科学技術の進歩や社会の動きに比べて、人間の意識って、そうそう急激に変わるものではないようだ。
 彼女たちは、これからどのような道を歩んでいくのだろうか。おせっかいとは思いつつ、理科が好きなら、好きな道にすすんでほしいなと、陰ながらエールを送りたい。でも、一番のエールは、きっとお父さんからの「理科系!いいじゃない、やってみたら」の一言なのだろうな。

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Last Update 2003.6.23

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