LastUpdate 2006.12.18

J S M E 談 話 室

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No.51 「数字で考える論文集」

日本機械学会第84期編修理事
堤 正臣(東京農工大学・大学院共生科学技術研究院教授・副院長)



【和文論文集の現状】
和文論文の投稿数・掲載数・不採択率の変化及び会員数の変化 論文集をとりまく環境は,筆者の理事在任中の2年間,幸いにも大きく変化するようなことはなかった。執筆者・校閲者の倫理指針の制定とそれに伴う執筆要項の改訂が行われた程度である。ところが,論文投稿数や掲載数に関する数値を長いスパンで見ると大きな変化が起こっていることに気づいた。和文論文集の投稿数,掲載数,不採択率の変化,及び会員数の変化を調べると右図のようになっていた。これらの数字の変化を見ると機械学会で発行する論文の数は,このまま減少し続けるのだろうか,下げ止まるのだろうかなど,いろいろ考えてしまう。会員数の動向と論文投稿数の変化が妙に一致していのも気にかかるところである。

【論文投稿数の変化】
 論文投稿数が1900編を超えたのは92年のことである。それまでは右肩上がりで増加してきた。94年には2061編と初めて2000編を超えた。92年から98年までの7年間は高原状態が続いた。この間の平均投稿数は1985編であった。
 ところが,99年になると投稿数は急激に落ち込み,さらに翌年も同程度落ち込んだ。この2年間で350編,約20%も投稿数が減ってしまった。00年以降も減少を続け,05年には1332編になってしまった。ピークからの減少率で見ると35.4%と1/3もの投稿数が減ってしまったわけである。分野によってその率は多少異なるが,どの分野も大きく減少していることにかわりはない。

【掲載論文数の変化】
 91年から99年までの9年間に掲載された論文数は,ほぼ一定で,年平均1667編あった。ところが投稿数が大きく落ち込んだ00年から掲載数も急激に減って,05年には1127編になってしまった。投稿数がピークであった94年を基準に計算すると05年には,投稿数と同じく35.4%が減った。

【掲載否の論文数】
 不採択数,つまり掲載否と判定された論文数は,04年で380編,03年で274編と変動してはいるが,98年以降の平均不採択数は321編であった。投稿数が減少し,掲載否の件数が一定であるということは採択率が落ちているということになる。
 そこで,同一年における投稿数と不採択数との割合を調べることにした。この計算は,投稿した年と掲載否になった年とを同じにするには無理があることを承知の上で行った。その結果をみると,不採択率は90年を底として直線もしくは指数関数的に上昇していることがわかる。特に,ここ5年間の不採択率が平均28.4%とかなり高くなっている。最も高かったのは04年で32%を超えた。この年は3編に1編が返却された計算になる。この割合を見ると機械学会はかなり厳しい校閲を行っているといえるのではないだろうか。

【投稿数減少について考える】
 投稿数の減少は,会員の活動の不活発さを表すものとは考えられない。その理由はいくつもある。90年頃から多くの大学に博士課程が設置され,その学位授与の基準としてピアレビューのある雑誌にある一定数以上の論文投稿を義務づけるようになったこと,競争的資金獲得のための様々なプロジェクトが公募され,各大学ともこれらの競争的資金を獲得するために一層研究に打ち込むようになったこと,教員個人の評価が行われるようになったことなどから,今まで以上に論文を書かざるを得ない環境になってきているからである。
 それでは,なぜ投稿数が減ってしまったのか,思いつくままにあげると次のような要因が考えられる。

  1. 機械工学は科学技術基本計画に直接的に関係する分野が少ないために魅力がなくなり,多くの研究者が研究分野を変えた。
  2. 新規研究分野の拡大によって,機械学会で発表する場がなくなった。
  3. 機械工学は,成熟した分野であり,論文が出にくくなった。
  4. 研究者の業績評価が,論文の被引用数・インパクトファクターなどによって評価されるようになってきたために,国際雑誌に投稿するようになった。
  5. 研究者の評価が,論文だけでなく,特許,外部資金獲得件数などでも行われるようになった。
  6. 産学連携による共同研究が活発になり論文として発表することを企業が認めなくなった。
  7. 国際会議での発表が奨励されるために,日本語にしてまで論文を発表する必要がなくなってきた。
  8. 機械学会の校閲は厳しいので投稿を避ける会員が増えた。
  9. 投稿数の15%を占める企業会員が投稿しなくなった。
  10. 投稿していた会員が退会した。
  11. 機械学会論文集は読まれていないので魅力がなくなった。

 筆者の周りで研究分野を変えた研究者がいるにはいるが,3人に一人が変えたという状況ではない。また,発表する場が別の新規分野に移っていったとしても,やはり3人に一人が発表しなくなったとも考えにくい。機械工学は成熟した分野であり,論文が出にくくなったとも考えられるが,修士課程や博士課程の学生数は減っているよりもむしろ増えていることからこれも当てはまらない。
 となると,4〜11に上げたような要因などが考えられる。これらの要因のうち学会で対応できるのはインパクトファクターである。インパクトファクターが付くように和文論文集を改革した。そのために,論文集名の英語表記を行い,論文要旨の語数増加,引用文献の書き方の変更を行った。07年1月号からトムソン社のWeb of Scienceに登録されるよう準備を進めており,今後は,実際にインパクトファクターが付くのを待つだけになっている。
 すでに述べたように採択率は約70%であり,機械学会が特に厳しいとは思えない。ピアレビュー制度がよく機能していると思っている。企業会員からの投稿数もピーク時と比べて55%減の約200編減少している。大学等の研究者からの投稿数は540編減少している。図示したように会員数の動向と投稿数の変化とが同じ傾向を示していることから関係がありそうではあるが確認したわけではない。論文集の個人購読数,発行部数も減少している。ただし,論文集は図書館等では閲覧されており,引用される状況を見ると魅力がないとはいえない。それどころか,筆者の経験から,海外の雑誌に投稿したときの校閲のレベルと比較すると機械学会の校閲はレベルが高く,建設的なコメントが多いと断言できる。これは大きな魅力である。

【投稿数減少の原因調査を】
 論文投稿数が劇的に減った要因について,あれこれ考えてはみたが本当のところはわからない。今後,原因を究明し,分析すれば,今後の論文集のあり方について大きな示唆が与えられものと思われる。そのためにアンケート調査,ヒヤリング調査をとおして,機械学会論文集に対する意識,会員の論文投稿の動向などを総合的に調査・分析し,その結果を受けて論文集をどうすればよいか,考えていく必要があるのではないだろうか。

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