LastUpdate 2010.7.5

J S M E 談 話 室

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No.88 「商業車の安全雑感」

日本機械学会第88期財務理事
狼 芳明((株)いすゞ中央研究所 取締役)

狼 芳明

 大学を卒業し、自動車会社に入社し、30有余年経ったが、その間、ほぼ一貫して研究開発業務に携わるとこが出来た。又、その殆んどの期間を自動車の安全性の評価・開発に関する分野に身をおくことが出来た。この間、自動車の安全分野も大きく進歩した。本題に入る前に、「乗用車」「商業車」を含んだ「自動車の安全」がどう進歩したか、概説してみると、先ず、この30年の間に、安全性を高める各種の装置が開発され、市場に投入されてきた。衝撃吸収ボディ、エアバッグ、ABSなどが代表的なものである。一方、こうした技術のみならず、メーカー側、消費者側の「自動車の安全」に対する意識、考え方も大きく変化してきた。1960年台の米国におけるラルフネーダー氏の一連のキャンペーンが代表的なものである。又、日本でも1990年前後にNHKによる安全装置の内外格差問題を取り上げたキャンペーンが記憶に新しい出来事であった。これらの動きを経て、自動車の安全法規が整備されてきた。2000年以降も、依然として、自動車の安全性確保は最重要課題として捕らえられていると考えている。

 さて、本題の「商業車の安全」であるが、ここでは「コンパチビリティ」について述べたいと思う。「コンパチビリティ」の意味は一般的には「融和性、共存性」であるが、自動車の安全では「車格の異なる車両同士の衝突安全性の調和を図ること」と定義することが出来る。

 混合交通の中で、商業車は本来持っている「重い」「大きい」といった特徴から、一度他者(歩行者、2輪車、乗用車)と衝突した場合は、物理の法則を持ち出すまでも無く、他者への攻撃性が問題になる可能性が高い。既に「乗用車」「商業車」ともセルフディフェンスについては様々な改良がなされてきているが、今後は、各々の車両が相手に対する「コンパチビリティ」を考える時代に来ていると考える。現在、商業車メーカーはこの問題に対する対策を、他者との調和を図りつつ、模索している。この場合の基本的な考え方は、物理的により弱いもの(小さいもの)を強いもの(大きなもの)が助けるという考え方である。つまり、相互に衝突した場合はより強いものが、事故による被害を最小化する為に、具体的な対策を施すことである。この考え方は結果的には、社会全体としてみた場合、より低いコストでより大きな効果をもたらすと思われる。又、交通事故対策に限らず、あらゆる場面で弱いもの(小さいもの)を強いもの(大きなもの)が助けるという考え方は普遍的に認知されるのではと思っている。

 今後も、微力ながら商業車の安全性向上を通して人と車が共生できる安全な社会の実現に努めていきたい。

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