LastUpdate 2011.1.17

J S M E 談 話 室

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JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。
本会理事が交代で一年間を通して執筆します。

No.94 「ふたたび、鉄道の話です」

日本機械学会第88期副会長
森村 勉((株)東海旅客鉄道 専務取締役)

森村 勉

 新しい年を迎えました。今年のお正月は関東地方は比較的あたたかでしたが、西日本、東北、北海道と各地方は厳しい寒さと大雪に見舞われました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。

 さて、前回のコラムは奇しくも同じ鉄道関係の鈴木主管研究員が執筆されています。そこですこし変わったタイトルとなりましたが、今回もまた鉄道の話を書かせていただきます。はじめに自己紹介から。私は1972年に当時の国鉄に就職し、電車の保守・設計・事故担当等の業務に従事してきました。その後1987年の国鉄の分割民営の際、現在のJR東海に移りました。ここでは主として東海道新幹線に関する業務に携わってきました。たとえば、「のぞみ号」(300系)による270km/hへの高速化、300km/h以上の高速試験のための300X試験車の開発、自社の研究施設の開設、中越地震後の東海道新幹線の新しい脱線・逸脱防止対策の開発等といった業務です。

 高速化に関係していたからでしょうか、最高速度について時々質問を受けます。「外国では500km/h以上の最高速度で試験していますが、日本ではできないのですか?」 たしかには日本の試験時の最高速度記録は300Xの443km/hです。しかしこの最高速度の制約となったものは実は技術的問題ではありません。東海道には高速鉄道としては急な曲線が多く、京都―米原間のもっとも条件のよい直線区間で可能な最高速度がこれであったということ。ですから、鉄輪の粘着確保のために乾燥時を選ぶなど試験条件を上手に作れば、もっと高い速度記録を作ることは可能です。しかし粘着は、速度が高くなると低下し、また湿潤時では乾燥時とは様変わりするという宿命がある。もはや出力を大きくしてもそれを有効に使うことができません。高速域になればなるほど、加速するのに時間と距離を必要とします。鉄輪系鉄道システムの試験最高速度にはデモンストレーションとしての意味はあるかもしれませんが、実用性という観点から意味があるかどうかは疑問です。その点、粘着に頼らない超電導リニア方式には、たとえば350km/hを超えるような高速域においても高加減速が可能という大きな長所があるのです。

 さてその超電導リニアによる東海道新幹線バイパスについてです。現在首都圏―中京圏―近畿圏をつなぐ高速鉄道のうち、首都圏―中京圏を2027年に開業することを目標として、計画が進められています。このためまずは、今の山梨リニア実験線18.4kmを2013年度末までに42.8kmに延伸し、そこで営業線仕様の第一世代となる新しい新型車両を走らせる計画です。文章よりごらんいただいたほうが早いでしょう。初めの2枚はトンネル区間と橋脚の延伸工事風景、次の2枚は新型車両L0系(エルゼロ:Linear 0)の絵です。

 最近の日本は経済の状況も混迷の中にありますが、このような夢のあるプロジェクトで少しでも元気を取り戻せたらと思います。

トンネル区間(秋山トンネル掘削中) 明かり区間(橋脚施工中)
新型車両L0系の先頭形状 客室イメージ
車体断面形状

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