LastUpdate 2011.6.15

J S M E 談 話 室

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本会理事が交代で一年間を通して執筆します。

No.97 「大震災を契機に感じたこと」

日本機械学会第89期財務理事
桑野博喜(東北大学 教授)

桑野博喜

 「頑張ろう、東北」、「地震・津波になんて負けらんね」などの張り紙やステッカーがあちこちに貼られ東北人の心根を示す。もう3カ月が過ぎる。震災は各地に大きな傷跡を残し、そして原発事故も含めて今なお、進行中である。海岸沿いの大津波の被災地域の瓦礫の始末は遅々としたものだ。まだ10万人以上の方々が避難を余儀なくされている。自治体、警察、消防、自衛隊、各地から駆けつけてくれたボランティアの皆さんなどの懸命な努力には本当に頭が下がる。私がセンタ長を務めている工学部附属マイクロ・ナノ研究教育センタの被害は大きく、復旧も容易ではないが、これらの状況については他にゆずり、本コラムではこのような状況下で感じたことを述べる。

 インターネットの力について:地震発生から一時間半程、雪が舞い散る中、テニスコート場へ避難した。どこで何が起きているか殆ど何もわからない。わかっているのは自分が立っているこの地が大きく揺れた、ということである。オフィスは停電でデスクトップPCは使えない。私のノートパソコンは20分ぐらいで電池切れ。人のノートパソコンやワンセグを見ながら全体を把握する。テレビに流された映像も含め次々にアップされてくるYouTubeによる映像やツイッターなどが状況の把握に大いに役に立った。断片的なものも多いがこちらで取捨選択ができるのが強みである。これらの媒体では視聴者であるとともに取捨選択ができることで我々は編集者でもある。場合によっては都合の良い情報を取り上げ、逆のものは無視する、ということも起こりうるのだろうがしかし、この場合は多面的で多くの場所、人達からの情報であることが重要である。
 福島の第一原発に関する情報についても、真偽を疑うべきものもあったが自分で取捨選択できるものとして、インターネット上の情報が役に立ったように思う。直ちに危険はない、などの発表が続く。被災地にいる者にとって気休めにはなっているのだろうか。海外からの情報も含めて、詳細で正確な情報をインターネット上で手に入れることができた。今になって発表されていることであるが、「メルトダウン」、「風向きによる放射性物質の飛散」など重要なことは殆ど、インターネット上で専門家というべき人たちのホームページにて事故発生直後に指摘されていたものであった。留学生など含め外国から来た人たちはインターネット上で、手に入るあらゆる情報を得て自分たちの判断を行っていたようである。
 自分や家族が被災地でのギリギリの状況下で迅速に、どの情報によって行動するかという話である。インターネット上では、正しい情報を探そうと思えば探せた。正確に言えば、インターネットは単なる媒体であり、インターネット上に誰もが情報を掲載することができ、その情報の中で正しいものがあった、ということである。探し方や真偽の判断はそれなりの知識や嗅覚が必要なのは当然である。また、私の研究室では携帯メールも含めてSOSメールシステム(あるアドレスにメールをすると登録している人達全員に同一メールが届く、という簡単なもの)を立ち上げており、安否確認や各種の連絡に大いに役立った。大学でもHP上で学生、教職員の安否を確認するシステムを立ち上げており、これも大きな力となった。今後もこれらインターネットの使い方はさらに開発が進められ、威力は向上することであろう。

 電力の生産地と消費地について:東京への一極集中が電力消費に関しても及んでいた。東京は大電力消費地、それを支える福島、柏崎刈羽の原子力発電所という構図である。オール電化、5、6階まで吹き抜けとし大容量空間に空調システムを導入するビルディングや、過剰なまでの照明など豊富な電力が東京とは離れた所で大きな危険と隣り合わせで生産されていることが明らかになった。そして実際に破綻した。電気を自由に使えないリスクよりも原発事故のリスクにプライオリティがあるのは当然であろう。私自身、30年近く東京で暮らし、電気の恩恵を充分に受けていたが、それが危険と隣り合わせでしかも自分達とは遠い所で生産されていたことを明確に認識していなかった反省もある。安全な発電技術が開発されることを切に願うものである。
 被災地の東北の人達が極めて困難な状況下にあっても冷静で理性的な行動をとり続けていることは今後の復興にとって大きな光明である。悲しみを乗り越えた、若者達のボランティア活動を始めとした行動力を目の当たりにして大いに感謝するとともに本当に胸が打たれた。私達はこれらを力として前に進んでいくことができるという確信を持った。そして必ずや、新しい東北、生き生きとして活気があり暮らしやすい東北を実現することが、大震災で犠牲になられた多くの方々への供養ともなるものと思う。このような東北を支援していただくとともに、実感していただくためにも豊かな自然と人情味溢れる東北においでになりませんか。


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