LastUpdate 2012.10.3

J S M E 談 話 室

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本会理事が交代で一年間を通して執筆します。

No.109 「ボリビア見聞録 ‐驚きの連続‐」

日本機械学会第90期財務理事
久村 春芳(日産自動車(株)フェロー)

久村 春芳

 普通の海外出張ではあまりびっくりするようなことはおきないのだが、2011年3月の経産省主催のボリビア経済セミナーへの参加では驚きの連続であった。

中空レンガの家

 セミナー開催地のラパス近郊のエル・アルト国際空港に降り立つと、息苦しい。それもそのはず、標高は4060m!迎えの車には大きな酸素ボンベが複数のせてある。市街地を抜け中心部に向かうが、家がなんだか変だ。レンガでできているのだが、よく見るとそのレンガが中空構造!3階建てもあるが、こんなものでつぶれないのか?と機械屋としての疑問が。泊まったホテルはさすがにコンクリだったけど。

中空レンガの家


 南米でもっとも貧しい国のひとつであるボリビアのモラレス大統領は、任期の2014年までに豊富なリチウム資源を生かして自国内にLi-i電池産業を興そうと計画している。そのゴールは、電気自動車を自国内で製造することで、国を豊かにすることにある。豊富な地下資源を有しているが、これまでは欧米に採掘利権を渡してきてしまったため、関連産業が発達せず、国として利益を十分得ることが出来なかった。そこで、彼らとしては膨大な国家予算をつぎ込み、今度こそまだ手付かずで残っているリチウムで関連産業を興そうと必死である。

 このセミナーの最終的な目的は、ボリビアの産業の発展に日本が貢献することで関係を深め、豊富な地下資源や蒸発資源(塩湖にあるリチウム資源を彼らはこう呼ぶ)の確保の可能性を高めることにある。自動車会社代表としてEV用Li-i電池産業全体の状況の説明とアドバイスやボリビアの産業に対するアドバイスが私の主な役割であった。国策をうけて事業を推進している企業の幹部に、「電池産業を興すということは機械工業や化学工業など様々な産業が必要だから、そんなに簡単には完成製品は出来ない。高品質のリチウム塩の精製と輸出を目標にしたらどうか」と説明し説得するも、当たり前のロジックがまったく通じない。数時間論議したが結局納得してもらえず、お金で産業を買うような方向で国家予算をつぎ込むのであろう。周りが見えていないとはいえ国営に近い企業の経営者を説得することがこんなに難しいとは思わなかった。日本としては長い眼で見てサポートするしかない。

 数少ない機械系産業の自動車部品製品を見たが、最低限の車用補修部品を何とか作っているレベル。ブレーキパッドは一見してアスベストを使っているのがわかる。正直に材料組成を見せ説明しているところにまたびっくり。登れないような急坂の多いこの道路状況では必要なことのようで、規制はないとのこと。町を走るトラックも黒煙をもうもうと上げており、これもまた排気規制が無い。ところ変わればルールも変わることを実感。

ウユニ湖へ向かう

 未明にエル・アルト国際空港を飛び立ちウユニ湖に向かう。リチウム塩を精製する実験プラントを見学しに行くのだ。何も無いアンデス山脈の真ん中に降り立ち、リャマしか見かけない未舗装路を四駆で1時間余り走る。到着したものの、建物はあるが、設備は簡単な実験装置しかなく、量産という感じではまったくない。リチウム以外の塩を多く含むため効率の良い分離は難しそうだ。

ウユニ湖へ向かう


ウユニ湖に写る雲

 ウユニ湖はすごかった。これは本当に感動もので、まさに幻想の世界。代表的な写真を添付するが、暫く見ていると自分がどこにいるのかわからなくなる。巨大な水鏡だ。こんな場所が世界にあるのかと。人生感が変わるという人がいると聞くが、わかる気がする。

ウユニ湖に写る雲


サンクリストバル鉱山(ねずみ色が鉱脈)

 帰りに住友商事が出資するサンクリストバル鉱山を見学。露天で亜鉛、鉛、銀を掘っている。マネージメントもうまく行っているようで、日本の資源確保にかなり貢献している。採掘現場は写真のようにものすごく壮大。トラックが豆粒のように見えた。このくっきりした鉱脈は一体どのようにして出来たのか?地質学に興味を持つ人の気持ちが少し理解できた気がする。

サンクリストバル鉱山(ねずみ色が鉱脈)


 夕食は現地のレストランへ。アルパカの肉は意外にいけるが、リャマは臭くて固い。伝統的なダンスを見学したが、ダンサーがこれまたすごい。町の標高は3600m強で、少し階段を登るだけでも息が切れるのに、仮面をつけた上ぐるぐる回りながら激しい動きをしていても息が乱れていない。慣れれば出来るのかもしれないが、驚異的。

 ウユニ湖の赤土は細かく、靴につくと簡単に取れない。ホテルのハンドタオルで少し拭いたら、洗っても落ちないので弁償しろといわれ、フロントと暫くやりあったが、結局小さなタオル1枚で結構取られた。物価は安いのに。。。

 後味が悪いままホテルを後にし、急峻な山岳路をタクシーは空港に向かう。いろいろあったな〜と思っていたら空港直前でまったく動かなくなってしまった。どうも市街地でデモをしているらしい。発砲音らしき音がする中、我々の横を現地の人が歩いていく。空港までは結構あるし4000mを超えている。巻き込まれたら大変なので、Uターンして町まで戻り違う道で行くように頼んでもらう。運転手は降りて歩けといっているようだ。言い合いをしている間にも時間だけは過ぎていく。チップを弾むからとか何とか言って何とか説得してくれた。ぎりぎりで空港に着いたが今度は飛行機が飛ばない。何のアナウンスも無い。4060mでは座って待っているだけでも苦しく、気分が悪くなる人が結構いた。機材故障のようだが、いつになるのかさっぱりわからないまま、夜中の3時ごろ突然キャンセル。一度ホテルに戻ったものの、フライトがうまく取れず事務局は大変な思いをされていた。一日遅れで出発し、結局自宅に着くまで60時間近くを要した。他のメンバーはもっと遅くなったと聞く。

 ミッションを果たせたかどうかは多いに疑問だが、資源確保のためとはいえ、関係者は思いもよらない苦労をしていることを実感。面倒を見てくれたJOGMECのメンバーがいなかったらどうなっていたことか、深く感謝。ところ変われば我々の常識が通じないことも実感。世界は広いし、知らないことがたくさんある。興味は尽きない。

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