LastUpdate 2014.2.3


J S M E 談 話 室

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No.122 「新学術誌への移行について」

日本機械学会第91期編修理事
花村 克悟(東京工業大学 教授)

花村 克悟

 ここ2年間、第90期と91期の編修担当理事を仰せつかり、その期間に、従来の日本機械学会論文集および部門英文ジャーナルを見直し、新学術誌へ移行する、といった大事業を検討および遂行する役割の一端を担うこととなった。発案は第89期の会長による“和文・英文の統合誌”であるが、実質的に作業を進めたのは、この2年間の編修担当副会長および編修担当理事、後の幹事会メンバー、準備会メンバーである。当初、この課題を受け継いだ副会長はじめ編修理事(第89期、90期の合同会議)のメンバーとしては、それまでの議論を理解することから始め、この提案を進めるか、打ち切るか、といったニュートラルな立ち位置から議論を始めた。場合によっては、移行せず従来の学術誌を継続する、選択肢も残されていた。しかしながら、「JSME International Journal から、11誌の部門英文ジャーナルへ移行し、インパクトファクター(IF)の取得を目指していたにもかかわらず、それに向けての創意工夫が現状では見うけられず、たった2誌が、IFを取得しているに留まっている現状を見過ごしていいのか」、さらに「今後5年間以上、このまま続けても他の9誌が取得できる見込みもなく、本当にそれでいいことなのか」といったやや激しい議論の末、新学術誌への移行についてこのタイミングを逃さないほうがよい、として進められることとなった。また、当初は和文・英文をも統合し、将来的には和文の投稿数が減ることもあるいは消滅することも致し方ない、といった考え方であった。というのも、この議論の発端は、そもそも和文論文集の投稿数の減少が問題視され、今後若い技術者や研究者による、IFが付与された英文誌への投稿がますます増加することを避けられないだろう、といった危惧からである。それであれば和文と英文を統合し、行く行くは和文論文が消滅しても仕方がない、といった議論がなされていた。しかしながら、このような論文集へ企業からの投稿が一切なくなることを危惧し、むしろ企業からの貴重な成果を速やかに公表する論文でなくてはいけない、とも位置付けた。一方で、IFを取得する戦略も明確にする必要があった。そこで、いずれも全ての分野を統合した、4つの学術誌(Mechanical Engineering Reviews (MER)、Transactions of the JSME (in Japanese)(和文誌)、Mechanical Engineering Journal (MEJ)、Mechanical Engineering Letters (MEL))を独立に定期刊行雑誌とし、これら4つを合わせてBulletin of the JSMEとした。独立した4誌は、それぞれIFの取得を目指すものとした。MERは、幹事会メンバーが編修を担当し、国内外の著名な研究者によるReview誌を収録、2014年1月1日にNo.1がすでに発刊されている。まずは年2回発行されるこのReview誌のIF取得を目指す。手前味噌ではあるが、なかなか読みごたえのあるレビュー論文が掲載されていると思う。和文誌、MEJ、MELについては、現在の部門を12に分類されたカテゴリーごとに編修委員会を構成し、和文誌については毎月発行(2014年1月No.1発行)、MEJについては隔月発行(2014年2月No.1発行)、MELについては2015年1月からの発刊を目指している。この独立4誌が、同じBulletin of the JSMEの枠内に収められていることから、読者は、まずReview誌に魅力を感じ、他の3誌にも興味をいだくことが期待される。MEJは英文誌であるので、国内外を問わず、アクセスするものと思われるが、和文誌に興味を持つかどうか、あるいはIFの取得が可能かどうか、が注目される。この和文誌については、大きな編修方針の変更を行った。その1つは、従来の一般論文と技術論文の分類を廃止し、同じ原著論文としたことである。いままで「完結性」を重視するあまり、説明不足といった評価を受け、必ずしも完結していないものの貴重な成果が本学会からは発信できていないケースが少なからず見うけられたように思う。それらの論文はIF付の他誌に掲載されたものもあった。これが上手くいくかどうか、エディターの裁量にもよるが、従来の「…は掲載否の対象となる」といった文章の羅列による評価方法(減点法)ではなく、工業的あるいは学術的に優れた点を評価するよう、校閲者にお願いしたいところである。同時に著者が校閲者を推薦できるようになっており、少しでも正しい評価ができるような仕組みが導入されている。また、著者にも、和文誌ではあるが、IF取得を目指すため、英文概要はしっかり結果を記述いただくこと、さらに図の英文説明文を長くし、英文概要と図の説明文のみで、海外からアクセスした読者に理解いただけるような配慮をお願いしている。さらに、面倒ではあるが、参考文献にいたっては、和文と英文の併記をお願いしている。これらはIF取得のための明確な戦略であり、トムソン・ロイターとも相談しながら進めている。現在、日本語により記述された論文集は数件ほどIFを取得しているようであり、機械学会和文誌も取得できることを願っている。

 こうしてまとめてくるに当たり、この移行を推進してきた幹事会メンバーや準備会メンバーなど、当事者の意識は高く、自ら投稿しようとする空気がうかがえる。一方、我々の広報活動や説明が会員に行き届いていないのか、どこか他人事のような、あるいは評論家のような話を耳にする。「IFが取得できれば投稿する」ではなく、「IFが取得できるように、いい論文を投稿する」といった姿勢が会員の中になければ、この移行はうまくいかない。また、減点法により論文を校閲するのは比較的たやすく、むしろ、完結してはいないが貴重な内容であることを見抜ける校閲者あるいはエディターがいなければ、魅力的な学術誌とはならない。エディターあるいは校閲者(会員)の能力が試される移行であることを会員に理解いただくことが必要に思う。

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