Home > ニュースレター バックナンバー > ニュースレター35号 > 【研究室紹介】東北大学大学院医工学研究科 田中 真美

【研究室紹介】東北大学大学院医工学研究科 田中 真美

東北大学大学院医工学研究科
田中 真美

東北大学大学院医工学研究科 医工学専攻 医療福祉工学分野
/ 東北大学大学院工学研究科 バイオロボティクス専攻 バイオメカトロニクス分野 

研究室紹介

  我々の研究室では、メカトロニクス、センサ、信号処理を柱として、医療福祉分野や工業分野に有用な計測システムの創出を目指しております。当研究室は工学研究科バイオロボティクス専攻に所属し、2008年4月からは日本で初めて新設された医工学研究科にも所属しております。そのため、研究室には工学研究科(機械系)の学生と医工学研究科の学生がおり、機械系学生の一部は医工学研究科にも進学可能です。医工学研究科の大学院生は基礎的な医学の講義を受け、自らの研究に生かすことができ、将来の医工学研究者、技術者としての土壌をしっかり固めることのできるシステムになっております。また、研究室のルーツは振動の解析および計測制御にあり、今でも我々の研究室の重要なキーワードのひとつです。

  近年、さまざまな観点から生活の質(QOL)を考慮した社会の構築が求められており、新しいメカトロニクス技術を利用した医療福祉機器への期待が高まっています。医療福祉工学の発展には、新たなセンサやアクチュエータの創製、システムや情報処理技術の高度化が重要な課題となっています。そこで、ヒトの高度な計測システムに着目し、ヒトと同様な巧みな人工システムとしてヒトの触覚感性を計測するセンサシステムの開発および医療福祉機器の開発を行っています。以下に、我々の研究室で行っているいくつかの研究を紹介いたします。

研究内容
ヒトの触覚感性計測用センサシステム

  触感はヒトの生活において必要不可欠な感覚であり、とくに指先は単にものに触れるという動作だけでなく、「撫でる」、「触る」などの触動作を行うことによって質感や手触り感などの触感を収集しています。近年、工業分野では製品自体の評価をはじめ、機能以外の付加価値としての手触り感の設計などヒトの触覚感性への関心が高まっております。しかしながら、触覚感性を計測し評価することのできる計測システムはいまだ実現されていません。当研究室では、触覚感性が指の感覚受容器からの振動圧覚が影響していることに注目し、高分子圧電材料の一種であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)フィルムをセンサ受感材に用いた触覚感性計測用センサの開発を行っています。センサの動作はヒトの手指動作を調査し、模擬しています。

図1 布の風合い評価用センサシステム 図2 毛髪手触り感計測用センサシステム
   

図3 前立腺触診センサシステム

図4 小型皮膚性状計測用センサ

  図1は布の風合い評価用センサシステムです。布の上をセンサで走査し、出力波形に周波数解析などの信号処理を施し、ヒトの触覚感性に対応する評価を行うセンサシステムです。現在のところ、「じっとり」「さらさら」のような感性ワードと相関の高い評価パラメータを抽出に成功し、システムの有効性を確認しています。このセンサシステムは客観的に触覚感性を評価できるシステムとして期待されています。その他、評価対象としては、毛髪についても研究を行っています。

 図2は毛髪手触り感計測用センサシステムです。本センサシステムは、毛髪の手触り感(傷み度合いやシャンプーコンディショナーなどの処方感)の評価を行うものです。センサを用いて毛髪上を走査させ、得られたセンサ出力に信号処理を施すことで、手触り感を客観的に評価することができます。これまで、毛髪のダメージ感と相関の高い評価が可能であることが示され、現在、様々なヘアケア処方による詳細な手触り感の違いを評価する試みを行っています。

医療福祉機器の開発

  上述したヒトの触覚感性を利用した診察方法として、触診がさまざまな部位に幅広く用いられています。触診は医師の状態や経験による影響が大きいといわれており、我々の触覚感性計測技術を応用し、触診デバイスを開発することで客観的な評価指標が得られると期待しています。一般的に医師は触診によって表面性状、柔らかさなどを検査しています。前者は前立腺の柔らかさを、後者は皮膚の滑らかさ、柔らかさを検査するシステムです。

  図3に前立腺触診センサシステムを示します。現在、前立腺癌および肥大症の診断にはPSA(前立腺特異抗原)血液検査を行い、詳細な診断が必要な場合は超音波画像診断と直腸内触診法を行います。触診は医師の指感覚に依存するため、ヒトの指に代わり柔らかさを判別できる触診センサの開発を行っています。開発した触診センサは、PVDFフィルムを用いたセンサを指に装着し触診と同様に直腸から前立腺に触れて検査します。センサを装着した指根元に振動モータを取り付け、対象物に触れたことによる振動の変化を測定し、柔らかさを検査します。これまでに、この触診センサを用いて臨床実験を行い、有効性を確認しています。

  次に、図4に小型皮膚性状計測用センサシステムを示します。皮膚の性状計測センサです。皮膚性状計測は、医療分野のみならず、スキンケア分野においても注目されている研究テーマです。小型皮膚性状計測用センサは手動で対象物に押し付け、走査することで計測を行うシステムを開発しました。これまで、皮膚表面の滑らかさや柔らかさの計測が可能であることを確認しています。現在、さらにさまざまな表面性状情報を評価できる計測システムおよび信号処理の創出を行っています。

  また、振動計測を応用した福祉機器の開発も行っています。図5が小型点字読み取りセンサ、図6が筋状態計測用筋音センサです。携帯できる小型点字読み取りセンサは点字コミュニケーションに貢献し、視覚障害者のQOL向上に有用であると期待されています。視覚障害者の方にも実際に使用してもらう操作実験を行いながら改良を行っています。最後に、筋音センサについてです。筋音は筋繊維の収縮に伴う圧力波が起源で、体表面の微小な振動として現れます。近年、リハビリテーションや身体障害者支援の場で筋の活動状態を非侵襲に計測する手法として筋音が注目されています。当研究室で開発した筋音センサが腕の筋肉について損傷および回復過程を評価できる可能性を示し、さらに、筋肉の疲労についても評価を試み、リハビリテーションなどにおける怪我の削減に役立つ計測システムの開発を行っています。

図5 小型点字読み取り用センサ 図6 筋状態計測用筋音センサシステム

その他詳細は、研究室HPアドレス:http://rose.mech.tohoku.ac.jp/ へお越しください。

Last Modified at 2009/24