半導体技術者として材料力学に期待すること

安生 一郎((株)日立製作所 半導体事業部)

 私は長年半導体パッケージ開発に従事して、今まで材料力学研究者の方々の多大なる研究成果を利用させて頂いているものであります。
 私の経験が少しでも次世代の研究者のお役に立てばと思い、以下半導体パッケージ設計と材料力学の関わりならびに今後の半導体に対する材料開発に期待している点を述べます。
 私と材料力学との出会いは、1978年のセラミックパッケージのペレットクラックから始まりました。当時半導体パッケージは外界からシリコーンチップを隔離する気密封止が主体で、本件はチップとパッケージとの接合不十分な接合界面に熱応力が集中し、クラックが発生するものでした。
 その後、樹脂封止パッケージへの移行や小型パッケージ開発に伴って、温度サイクル時のレジンクラック、はんだ付けリフロー時のパッケージクラック、ワイヤ断線さらに実装基板へのはんだ付け部の温度サイクル時疲労破壊等さまざまな信頼度不良を経験しました。
 これらはシリコーンチップとパッケージ材料の物性値(線膨張率)の不整合や界面剥離に起因するものであり、信頼度要求に対して構造設計が不十分であった結果です。このような現象に対してその都度メカニズムを割り出し、さらに安全な材料物性を計算し、寿命予測もできるようになり、現在ではパッケージ開発時に最適物性を持つ材料を予測開発するようになりました。半導体パッケージ開発の歴史は材料力学に基づく構造設計の歴史といっても過言ではありません。
 今後は本開発技術の延長としてチップ内の配線構造設計が研究対象の宝庫です。パッケージ構造と比べて遥かに複雑でありかつ薄膜のため材料物性値が正確に把握できないという困難があります。その上チップ内デバイス構造は、3年で4倍の集積度の向上に伴い、益々脆弱になっていきます。分子レベルに近い研究が望まれます。
 また、製品の高性能化や環境対応などパッケージにおいても新たな課題が生じてきております。電気特性や放熱性の優れた材料の使用が必須であり、脱鉛など違った観点のアプローチも必要です。またより複雑な実装システムとしての最適化設計が要求されます。機械的な材料力学の知識だけでなく、市場ニーズを理解できる電気や熱などマルチな知識を持った研究者が望まれます。
 まだまだ材料力学研究者とのお付き合いは続きそうです。今後とも宜しくお願いします。


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