第75期材料力学部門賞の報告


第5技術委員長 本間 恭二(電通大)

 本年度の材料力学部門賞に7氏の受賞が決まりました。受賞者の方々をご紹介いたします(各賞毎に年功順に掲載)。贈賞式と記念講演が第75期通常総会(4月2日14:00〜17:00、東京工業大学)で行われる予定です。


【功績賞】
岡村 弘之氏(東京大学名誉教授、東京理科大学教授)
受賞理由:破壊力学、信頼性工学の研究の発展及びその啓蒙活動に貢献した功績。
 氏は破壊力学、信頼性工学の研究ならびにその啓蒙、学会活動の企画、運営を通じた材料力学分野の活性化により、我が国の材料力学の学術研究の発展と啓蒙に多大な寄与をされた。

(岡村先生のコメント)
 安全確保というやや実務寄りの地味な仕事に従事してきた身にとっては、このたびの材料力学部門「功績賞」の受賞を大変うれしく思います。また使命と生き甲斐を十分感じた生活を送りながら、たいした業績を挙げられなかったのはなぜかと自省しているところです。才能を嘆くのは別にしましょう。信頼性工学も破壊力学もその激しい研鑽は30歳そこそこまでで、あとは余勢だったのではと感じるのが第一点。つぎは一匹狼的な性向のためかなと思う点で、これでは体系的、系統的な大研究は不可能でしょう。学位論文の成果を除いては先生との連名の論文がほとんどないことを今では反省していますし、大学院終了後まもなくもらった機械学会論文賞は、大学院在学中に密かにやっていた研究だった次第。なにはともあれ、40代以降の研究成果はほとんどすべて同学の若い人達との共同の仕事であり、おおいに楽しませてもらったことを心から感謝します。

【功績賞】
阿部 博之 氏(東北大学総長)
受賞理由:広範囲に渡る材料システムの体系の発展に寄与した功績。
 氏は従来の学問分野にとらわれない学際的な研究として、地殻熱抽出、生体軟組織の力学など多数の独創的かつ先駆的な研究を行い、材料力学の新しい発展の方向性を示した。

(阿部先生のコメント)
 本居宣長は、当時大学者であった賀茂真淵から一夜の教えを受け、開眼して、わが国を代表する国学者となった、といわれている。このように、比較的短時間ないし短年月ではあるが、大先生の謦咳に接し、学問の道に邁進した研究者は少なくない。しかし同じ大先生の教えを受けた学生が、すべて開眼しているわけではない。まさに卒啄同時である。
 研究者の卵にとって、大先生よりも、助手や助教授のような、一般に若い先生との接触が高密度であり、指導の内容も濃い。鬼軍曹的指導者もいる。名をなした後、このような若い師からの恩恵をあまり語りたがらない学者が見受けられることは残念である。
 研究者の卵にとって、大先生の一声も、若い先生による日常的指導も、共に大切な養分であることを改めて述べ、受賞のコメントとさせていただきたい。

【功績賞】
Horst Lippmann 氏(ミュンヘン工科大学教授)
受賞理由:広範囲な研究活動と啓蒙ならびに国際交流に多大な貢献をした功績。
 氏は塑性理論を始めとして、各種材料の力学的性質、コッセラ連続体理論、構造の不安定性解析など、固体力学全般に渡る研究を行ってきたほか、本学会のInt. J. の顧問委員として活躍された。

(Lippmann先生のコメント)
 During many years of fruitful scientific and personal relations with the scientific and the engineering communities of Japan I got acquainted with the extraordinary success of this country in the fields of research and technology. Only after a little more than one century Japan developed from a status of mere agriculture and craftsmanship to the top industrial level in the world. I am proud of belonging to one of the nations having helped to start this process at its beginning. Now we have to realize without envy that the former "student" has overtaken the "instructor", thus teaching him a lesson about how to overcome the difficulties immanent to any highly technological society. It is admirable to observe how people in Japan stand together even in periods of economical stagnation, while people in other countries eagerly try to safeguard as much as possible for their own pockets, consequently causing the situation to worsen even more.
 The greater is the honor to those foreigner being considered by the members of Japan Society of Mechanical Engineers as worthy the Annual Prize of the Materials and Mechanics Division. When writing this message I do not yet know details about the reasons upon which I was included into this circle so that I cannot comment them. However I am well aware of the fact that, should I ever have contributed to the status of knowledge in engineering science in a satisfactory way I could not have done so without any international exchange. In particular, while my students and I benefited greatly from our visit to Japan I was always glad to learn that some of my numerous visitors from Japan have also profited from their work with my group and me. I am grateful to all of them for their invaluable co-operation.

【功績賞】
市川 昌弘 氏(電気通信大学教授)
受賞理由:材料力学、信頼性工学の研究の発展及び学会の活性化に寄与した功績。
 氏は破壊力学、機械材料及び構造物の強度信頼性工学の分野での多数の独創的かつ先駆的な研究活動とその啓蒙に寄与し、部門発足時に多大な貢献をされた。
(市川先生はただいま御療養中です。)


【貢献賞】
隆 雅久 氏(青山学院大学教授)
受賞理由:国際会議の主催など部門の国際交流の推進における多大な貢献。
 氏は部門初の国際会議 APCFS'93 の実行委員長として、同会議を成功裏に終わらせ、部門の国際化に大きな貢献をされた。その後も国際会議を主催され、部門の国際交流の中心となって活躍されている。

(隆先生のコメント)
 この度は、名誉ある「材料力学部門貢献賞」受賞にご推挙いただきましたこと、部門長や部門運営委員会の皆さまをはじめ、部門登録者の皆さまに厚く、感謝申し上げます。私への贈賞は、部門を中心とした国際交流推進をご評価いたただいたことによると部門長から伺っております。私のこの方面での活動は、まさに「材料力学部門実験力学研究会」を通してなされたものであります。この研究会の発足を促しかつその後も大いなるご助力をいただきました小林英男先生や米国ワシントン大学のAlbert S. Kobayashi教授(当時、米国実験力学学会(SEM)のPresident Erect)をはじめ、多くの先生方のご協力に、むしろ私の方から感謝申し上げねばならないものと考えております。加えて、欧州実験力学連絡会議(EPCEM)との交流、実験力学先端技術国際会議(ATEM)など、今後ともに部門における国際交流の実が結ばれますことをお祈り申し上げます。


【業績賞】
城野 政弘 氏(大阪大学大学院工学研究科教授)
受賞理由:疲労強度および疲労き裂進展の分野での独創的な研究業績。
 氏は一貫して、種々の変動荷重条件下での材料の疲労き裂進展挙動を調べてきた。とりわけ、2段繰返し、ランダム荷重などの疲労き裂進展速度の推定法は設計指針として高く評価されている。

(城野先生のコメント)
 材料力学部門業績賞をいただけるとのお知らせをいただき、大変光栄に思っている。大学院時代から今まで対象はかなり変わりつつも一貫して材料疲労の研究に従事してきたが、破壊の研究は、事故が起ると世間から注目されるなどどうしても後追いの研究になり、また地道な努力が求められることから派手さがない。昨今のように外部資金を導入しなければ研究をやっていけない状態になってくると、いよいよ研究が難しくなってきているが、この折りに専門に関係の深い機械学会材料力学部門で評価していただいたことをありがたく思っている。しかしながら、企業においてもリストラから強度研究のようなすぐには目に見えない基礎研究部門が縮小されつつあるように思われ、従来からの貴重な経験の蓄積がうまく生かされないのではないかと懸念している。基礎研究の重要さを主張するとともに、大学においても産学共同研究を積極的に推進し、役に立つ研究を進めていかなければならないのではないだろうか。管理や雑務に時間をとられることが多くなってきたが、これを励みにさらなる研究を続けたいと思っている。

【業績賞】
村上 敬宜 氏(九州大学教授)
受賞理由:疲労強度、応力解析、トライボロジーの分野での独創的な研究業績。
 氏は疲労強度に対する金属材料中の欠陥の定量的評価や、応力拡大係数、圧子圧入などの応力ひずみ解析及びその実験、さらにはトライボロジー分野において新しい考えを提案するなど、幅広く多数の研究業績を上げられた。

(村上先生のコメント)
 MURA先生の功績賞受賞の文に次のようなのがあります。「P.E.Peierlsが彼の自伝”渡り鳥”の中でこういっています。いい問題を提供することがむつかしく、問題を解くことはそんなにむつかしいことではない。寅彦がその随筆集の中で、人の頭のいいわるいは大変むずかしいことで、むしろ悪いのがいいのではないか、といっています。」私も年をとるにつれてそう思います。30年前大学を出たときには「もう落穂拾いしかないか。」という気分でした。しかし、短いけれど企業経験は貴重でした。それから、丁度その頃に発表されたElberのCrack closureの発見は衝撃でした。自分の不明を恥じました。大学は時代を先取りした研究をしなければならないのに、それに応えているだろうかといつも思います。今回の業績賞は私自身だけでなく、一緒に研究を行ってきた研究室のスタッフ、多くの学生諸君にとっても大変勇気づけられるもので、光栄であるとともに感謝しています。


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