「平成10年度 材料力学部門 部門賞の受賞者のお知らせ 」

下記の通り功績賞および業績賞について,それぞれ3名の先生方が受賞されました.
各先生からコメントをいただきましたので,ここに掲載いたします.

【 功 績 賞 】
○ 大路 清嗣 氏 (大阪大学名誉教授,龍谷大学教授・理工学部長)

受賞理由  材料の疲労強度,高温強度,延性破壊強度の破壊力学への適用に対する顕著な業績のほか,後進の指導・育成など材料力学の発展に多大な貢献をした功績.氏の研究業績は疲労強度や高温強度におけるき裂伝播機構の解析とその寿命評価法の提案,微視的観察による延性破壊機構解析,逆問題の解析など国内外で高く評価されている.また,長年に渡り学協会で指導的な役割を果たすなど,材料力学の進歩・発展に貢献された.

受賞者からのコメント  平成10年度日本機械学会材料力学部門功績賞を頂くことができましたこと,誠に名誉なことと思っています.材料力学の分野にかかわって46年,心から尊敬できる師に巡り合え,また優秀な多くのよき協力者に恵まれたことは,誠に幸運でした.どちらが欠けてもこの受賞はなかったものと思います.常にトップランナーでありたい,先頭集団に手が届く位置で仕事を続けたいと思って過ごしてきた私にとって,研究生活は決して楽しいことばかりではなく,振り返ってみて,苦しみの連続であったようにも思います.残念ながら今はトップ集団の背中も見えない,はるか後方に下がってしまいました.「日暮れて道遠し」ですが,終わりのない研究の道,たとえていえば,大河小説は無理としても,せめて人の心を打つ短編小説・随筆のような研究に,今しばらくは挑戦し続けたいと思っています.

○ 村上 澄男 氏 (名古屋大学大学院教授)

受賞理由  非弾性変形の解析・構成式の定式化および連続体損傷力学の構築に関して,主に理論面で材料力学の発展に貢献した功績. 氏の研究業績は,円板の弾塑性曲げ,構造要素のクリープ解析,クリープ損傷理論,非弾性構成式の定式化,連続体損傷力学の高度化などが高く評価されている.また,著名な国際ジャーナルのエディターを始め,翻訳出版を通じて,新しい研究分野の啓蒙につとめるなど国内外に渡り材料力学の発展に貢献された.

受賞者からのコメント  長い間仰ぎ見ておりました高名な先生方に続き,この度は非才な私にも,材料力学部門功績賞をお授け下さり,思いがけない光栄に心から喜んでおります.80年代からのアメリカ経済の復興の原因の一つに,CAEを駆使した産業技術の発達があげられておりますが,損傷・破壊を含む非弾性変形理論とそのモデリングはCAE技術の重要な基礎と考えられております.かつては,一部の先端技術分野でしか顧みられなかったこの問題が,現在では多量生産品の強度設計と加工過程のシミュレーションにまで応用されるようになり,その発達の大きさに隔世の感を禁じ得ません.現在わが国でも,この分野では若くて有能な人々が国際的な活躍をしておりますので,その優れた成果を期待したいと思います.最後に,今回の栄誉もひとえに,国内・海外の恩師・先輩,ならびに研究をともにした多くの同僚・学生諸氏のお蔭であり,心から感謝しております.

○ 志田 茂 氏 (東海大学教授)

受賞理由  斯界にあって材料基盤技術の高度化につとめ,発電プラントの変圧器・タービン・原子炉格納容器・配管系漏洩評価技術など実用的な面で信頼性の向上に寄与した功績. 氏は構造解析,応力ひずみ測定,弾塑性破壊力学を駆使して,変圧器の巻線の座屈強度の解析を始め,タービン発電機フレームの剛性向上,飛来物体に対する衝撃強度,半導体の信頼性向上など,広く材料強度分野の発展に貢献された.

受賞者からのコメント   材料力学部門の功績賞をいただき,名誉ある受賞に恐縮するのみですが,一方では子供のように喜んでおり,これも年のせいかなとも思いますが,率直に部門の皆様に心より感謝申し上げます.企業の研究部門にあった35年間を振り返ってみますと,発電プラントや産業機械の大型化,原子力発電プラントの新設,そこでの新しい材料の採用,さらには電子デバイスの小型化・高集積化などが材料力学発展の大きなモウティヴフォースになったように思います.研究を通じて,破壊させてみては強度の本質を知る楽しみがありました.もちろん機器が社会へ出てから破壊するのでは問題が大き過ぎますが,しかし破壊したらそれまでの全ての開発を止めてしまうという最近の開発姿勢には大きな疑問を感じます.文明の上手な利用の古来からの知恵は,教育・開発・行政にあったように思います.例えば火は危ないもの,だから子供の頃から扱い方を教え,危なくない利用法を開発し,万一の場合に危険が拡大しないように消防署があるという具合です.自動車も然りです.教育・開発をパスして,すぐにPLや行政にいってしまう社会ではなく,教育・開発に力を入れる文明利用社会に向けて微力をつくしたいと考えています.


【 業 績 賞 】
○ 田中 啓介  (名古屋大学大学院教授)

受賞理由  X線による各種部材の残留応力測定,微小き裂の進展並びに混合モード下での疲労・破壊について研究における業績. 氏は金属材料,複合材料をはじめ先進材料の疲労強度の研究,微小き裂の開閉口挙動の理論的・実験的研究を行った.またX線法によって,セラミックス,薄膜などの新しい残留応力測定法を開発するなど,多くの独創的業績をあげられた.

受賞者からのコメント  実際にはいろいろな様相を示す材料の疲労破壊を,何かシンプルな原理で説明できないだろうか」というのが,私の疲労研究の始まりだった.X線を用いた疲労のミクロ構造観察から入って,破壊力学,それから微小き裂と進んできた.ある時はすべて分かったという気がしたが,対象を広げるとまた難問にぶつかるという繰返しで,それが今も続いている.ふと「疲労の科学はできるのだろうか」,「経験を越えた予測はできるのだろうか」と考える.疲労を数年研究すると疲れてくる.疲れると方向を換えて,X線による残留応力の解析をする.X線によってミクロ構造を考えていると,不思議と疲労破壊研究への活力が戻る.アプローチの異なる近いテーマを複数持つことは,常にレフレッシュするために有効かもしれない.今回の授賞は光栄で,これを励みに一層の精進をしようと思っている.

○ 庄子 哲雄  (東北大学大学院教授)

受賞理由  金属材料の劣化ならびに破壊機構の観察手法の開発とそれによる機器・構造物の強度評価研究における業績. 氏は再結晶法によるき裂端強変形域の観察・延性破壊の評価,環境助長割れの解明,電気化学的手法による劣化計測と寿命予測などの分野において多数の学際的な研究業績をあげられた.

受賞者からのコメント 破壊力学は,き裂先端をブラックボックス化することにより,実学として大きな発展を遂げた.一方では,このブラックボックス内の現象を詳細に解明することが必要な時代になってきている.新しい手法も色々と開発され,分子,原子レベルでの取扱も徐々にセミマクロ的な挙動予測に役立つようになりつつある.ミクロとマクロの相関が解明され,基礎と応用が直結する事が期待される新時代の幕開けを感じる.受賞の光栄と新時代への再出発を心して,受賞のコメントとさせていただきます.

○ 新田 明人  (電力中央研究所金属材料部長)

受賞理由  広範な耐熱金属材料を対象として低サイクル熱疲労に関する系統だった実験的検討を行い,実機の寿命予測に貢献した業績. 氏はボイラー・タービンなどの高温機器の健全性確保を手がけた.低強度・高延性材から高強度・低延性材まで20 種類の耐熱金属材料の熱疲労特性を明らかにし,これらの熱疲労寿命を予測しうる統一的なき裂伝播則を見いだすなど,顕著な業績をあげられた.

受賞者からのコメント   この度,私が現在の研究所に入所以来20年近く手掛けてきました低サイクル疲労の実験的研究に対し,材料力学部門業績賞を頂きました.地道な研究だけでさほど業績らしいもののない私をこのような名誉ある受賞に推挙していただきましたこと,身に余る光栄と感じるとともに,部門長はじめ関係の皆様には大変感謝しております.ところで,最初に業績賞の話を伺った時には,一瞬耳を疑いました.それは,これまで受賞された方々は皆様高名で偉大な先生ばかりであり,民間の研究所に身を置く私には無縁のことと考えていたからです.しかし,昨今の経済不況,リストラや競争激化など,厳しい社会情勢が続くなかで,民間の研究者達もややもすれば意気消沈しがちですが,こういう状況であるからこそ大いに活性化しなければなりません.そのためにも,今回の受賞が,私と一緒に研究をしてきた仲間だけでなく,広く民間で研究に従事する人達の励みとなることを望んでいます.また,私自身もこれで満足するのではなくさらに精進したいと思っています.ありがとうございました.


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