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Materials and Mechanics Division Newletter Sep. 2000

MATERIALS
and
MECHANICS No.23

日本機械学会材料力学部門ニュースレター No. 23 (2000年 9月 30日)ISSN
1340-6620

(C)著作権:2000 日本機械学会 材料力学部門



部門運営の転換期に寄せて

第78期部門長

幡中憲治(山口大学)

日本機械学会第二世紀将来構想実施計画委員会の答申(1998年12月)は“部門活性化委員会(後に支部・部門活性化委員会に統合)を早急(1999年4月)に設置し,部門の点検・評価方法,新設・統合・改廃等のための基準および規定の検討を開始する”ことを提示しました.これに伴い,第二世紀将来構想実施計画委員会が描いた実施計画を具体的に実行する方策を検討し,これを理事会へ答申することを任務として部門活性化委員会とは別に1999年度(第77期)に限って活動する支部・部門制検討委員会が設置されました.
現在,部門協議会ではこの検討委員会の理事会への報告書 (2000年3月)の内容に関する議論が行われています.これはこれまでの部門運営のあり方の変更を伴う重要な内容を含んでいます.本部門登録会員の皆様にその内容を周知していただくことが重要と考え,この機会を借りてここにその概要を述べさせていただく次第です.
 第二世紀将来構想実施計画委員会答申書に盛られた部門に関連した論点は大別すると次に示す二つにまとめられます.
 I. 部門活動の更なる活性化を促進し,支援するため『部門の点検・評価方法』 ,『部門の新設・統合・改廃のための基準および規定』について検討し,具体的な実施案ならびに実施手順を示すこと.
 II. それにしたがって派生する本部財政問題についても具体的な対応策を示すこと.
 部門を機械学会の学術活動の基幹組織として位置付け,これら I. および II.を具体化するため,支部・部門制検討委員会は,1.部門交付金制度と部門会計制度の改革,2.部門活性化委員会の設置,3.部門会費徴収制度について,4.部門からの学会本部への業務委託制度の導入,および 5.部門評価制度の導入,を提示しています.これらは次の基本的考え方に立脚しています.
 (1) 部門が活動を拡大し,発展していく上で必要と考えられる自由裁量権を出来るだけ多く部門に委譲する.
 (2) 「第二世紀将来構想実施計画委員会答申書」に示された提案に従い,部門に対する直接交付金の総額を支部に対する直接交付金の総額と同額になるまで引上げる.
 (3) 部門運営に対する本部からの無償の援助を順次有償に切り換え,部門の経済的自立を求める.
 (4) 部門の活動実績全体を定期的に評価し,活動実績が一定の水準に達していないと判断される部門に対しては,早急な改善を求める.
 (5) 一定の猶予期間を経た後も,活動実績を一定水準以上に改善することが出来ない部門,あるいは経済的に自立できない部門に対しては,他部門と合併,準部門あるいは特定分野研究会への転換等を求める.
 上述した 1.〜 5.のうち部門運営に特に大きく影響を及ぼすであろう 1.,4.および 5.につきその概要を紹介いたします.
 1. に関する支部・部門制検討委員会の基本方針は次に示すとおりです。
 (1) 部門活動の更なる活性化を支援するため,部門への直接交付金を支部への直接交付金と等しい額まで増額し,部門運営に関る経済的自由度を高める.
 (2) 従来,部門が実施する各種事業に関連して,本部事務局が部門より徴収していた業務代行経費の直接賦課制度を廃止し,収支予算の立案と実行,事務管理業務の外部委託あるいは自力処理など,部門事業の実施に関する部門の自立裁量権を認める.
 (3) 部門運営のために,これまで本部が提供してきた無償の業務代行サービスの予算枠を,2000年度(第78期)以降減額し,順次,有償のサービスへ転換する.
 (4) 採算をとりにくい部門事業を支援するための部門間の相互支援制度を導入する.
 (5) 機械工学発展のために重要ではあるが,現在,萌芽的であって当面の経済的自立が困難な分野を担う部門を支援する制度を導入する.
 (6) 以上の方策の実施を通して,部門の運営,部門事業の実施等に要する費用とその負担のあり様を,部門登録会員,事業参加者にも,解り易くする.
 4. に関する支部・部門制検討委員会の提言は次の6項目から成っています。
 (1) 部門が事業を実施するにあたって,学会本部にその業務を委託する場合,部門は当該業務に要する経費を学会本部に支払う.
 (2) 業務委託に伴って部門が学会本部に支払う経費の価格は別表に定める.この価格表に定める金額の適否については,部門協議会と部門活性化委員会との間で定期的に協議する.
 (3) 収入の少ない事業も実施可能とするため,全体的に業務委託費はできる限り低く設定する.
 (4) 収入の多い部門事業で余剰金が生じた際には,その一定割合(30%)を『部門事業支援基金』として学会本部にプールして,育成を必要とする部門事業の支援を行う.
 (5) 上記『部門事業支援基金』の運用は部門協議会に委ねる.部門協議会は,2000年度(第78期)末までにこの運用制度を定め,理事会へ報告し,承認を得る.
 (6) 部門協議会は,毎年度,予算編成時に次年度の上記『部門事業支援基金』の運用計画を『部門活性化委員会』に提出する.
 5.は部門の活性化を図るべく,部門の新設,既設部門の統廃合,既設部門の評価等を実施するにあたっての基準,手順を示すもので,支部・部門制検査委員会は次の3項目からなる実施案を提示しています.
 (1) 部門活動実績を評価するための別記制度(部門活動実績評価方法)を導入し,3年毎に全部門の活動実績評価を実施する.
 (2) 提案する方式に基づく評価が一定の水準に満たない部門に対しては,直ちに,改善計画の立案,改善計画の実行を求める.
 (3) 2年以内に改善の実効が見られない部門に対しては,他の部門との合併,準部門・特定分野研究会への転換等を求める.
 現在、支部・部門制検討委員会報告書の内容のうち主として上述した 1., 4.および5.項につき部門協議会で審議がなされています.そして特に本部から各部門への交付金算定の基礎となる登録会員係数,部門活性度係数の導出方法,部門活動実績評価方法,部門事業支援基金の運用制度,部門から本部への業務委託料金等につき具体案が固まりつつあります.これらにつきましては部門運営委員会で適宜議論をいただいております.なお,第78期第2回理事会(平成12年7月4日)は第二世紀将来構想実施計画委員会答申は2001年度から2年間で軌道に乗せることを決めました.これに伴い,本年度から支部部門活性化委員会による部門活動の評価が実施されることになります.
 以上,第二世紀将来構想実施計画委員会答申のうち,部門に直接係わると思われる事項の概要とその実施に向けての準備状況を報告させていただきました.これより明らかなように,本年度からは本部門の実績が評価点として数値化され,これが次年度の部門の財政に直接反映されることになります.また,業務委託料金の詳細は未だ決っていませんが,この価格如何によっては部門の運営が,財政上,これまで以上に厳しい状況となることも予測されます.何れにしましてもこれから益々,本部門が社会に対しいかに良質の企画を量的に十分に提供し得るかが問われることになります.幸いにして本部門においては第二技術委員会で副部門長の久保司郎先生(大阪大学教授)を委員長として部門の将来構想が検討されております.今後の本部門のあり方につき忌憚のないご意見を広くお寄せいただきたければ幸いです.

          表1 第78期材料力学部門の委員会

委員会 担当 委員長 幹事
部門長 幡中 憲治(山口大)
副部門長 久保 司郎(大阪大)
幹事 中曽根 祐司(東理大)
総務 予算・庶務 坂 真澄(東北大) 石井 仁(静岡大)
広報 広報 荒居 善雄(埼玉大) 三浦 直樹(電中研)
第1技術 2000年次大会 大野 信忠(名大) 琵琶 志朗(名大)
第1技術 2001年次大会 服部 修次(福井大) 飯井 俊行(福井大)
第2技術 将来構想 久保 司郎(大阪大) 中曾根 祐司(東理大)
第3技術 2000材力講演会 白鳥 正樹(横国大) 于 強(横国大)
第3技術 2001材力講演会 小林 道明(北見工大) 藤木 裕行(北見工大)
第4技術 シンポジウム 中曾根 祐司(東理大) 松村 隆(電通大)
第5技術 学会賞,部門賞 中村 春夫(東工大) 岡崎 正和(東京大)
第6技術 国際交流 北條 正樹(京都大) 藤山 一成(東芝)
第6技術 CREEP7 新田 明人(電中研)
第6技術 APCFS '01 庄子 哲雄(東北大)
第6技術 ATEM '01 坂 真澄(東北大)
第7技術 講習会 野口 裕久(慶應大) 向井 稔(東芝)
第8技術 登録会員 桜井 茂雄(日立) 武正 文夫(IHI)
第9技術 年鑑・出版 中井 善一(神戸大) 菅田 淳(大阪大)
第10技術 JCOSSAR 酒井 信介(東京大) 木村 雄二(工学院大)




材料力学部門の将来構想および材料力学に関連したJSME Int. J., Ser. Aに対するご協力のお願い 

副部門長 久保司郎(大阪大学)


平成12年4月より第78期材料力学部門の副部門長として,幡中部門長の補佐役を務めさせていただいております.幡中部門長の挨拶にもありますように,部門を取り巻く環境は急速に変化しております.その一例として,部門活動の活性度評価が導入され,その結果が交付金に反映されることになりました.このような情勢をも勘案し,第2技術委員会では部門の将来構想に関する議論を行っております.その中の議論のテーマとして,(1) 材料力学関連の研究の近未来像を描くための材料力学研究のロードマップ作成,および材料力学分野の戦略の構築,(2)部門の活動を示すための,学会誌,論文集,Int. J.の特集号等の企画,テーマを絞った講演会の企画,(3) 部門登録のメリットを引き出すための,ホームページ,E-mailによる情報伝達の充実などがあがってきております.前回のニュースレターに引き続き,材料力学部門の将来構想に対し,多くの方々よりご提案をお寄せいただきたく,お願い申し上げます.部門の将来あるべき姿と関連して,各分野の研究者にとって学会の重要かつ恒久的な役割に情報の収集と情報の発信があります.
 各企業,研究機関,大学では,いかに情報を発信したかが問われ,そのため自己評価あるいは第三者評価が盛んになされてきております.評価の対象は単に各研究者,各組織にとどまらず,学会の各分野を担当する部門,学会そして国際社会の中の日本とさまざまです.
 日本機械学会には国際的に通用する学術誌として,Bulletin of JSMEの流れを汲むJSME International Journalを擁しております. 材料力学部門はその中のSer. Aに対し主要な役割を演じているといってもよいでしょう.小生はこのJournalのEditorの一人を務めておりますが,残念なことにSer. Aに対する投稿件数が他のSer.に比べて多くありません.Ser. Aを盛り立てていくことが,Ser.Aに対し主要な役割を期待されている本部門にとり,また材料力学の研究分野にとり,しいては日本機械学会にとって,大きな意味をもつのではないかと考えられます.国際的な競争の中にあって,このような日本の学会による国際的学術誌を確保・維持していくことは重要です.これまでの関係者のご努力により,Ser.A は学術誌の世界的評価指標であるインパクトファクターでも1999年で0.405という良好な値を示しております.このことは,Ser. Aが世界的にも認められており,投稿される方々にとって大きなメリットがあることを意味しております.材料力学関係の研究の活発さを考えれば,Ser. Aの質を保ちつつ,これをさらに発展・充実させるだけのパワーがあるものと思われます.
 JSME International Journal, Ser. Aに積極的に投稿することにより,各研究者の実績を上げるとともに,日本の材料力学分野,部門,機械学会そして日本の研究の評価を高めようではありませんか.そのことは皆様のご協力により容易に実現できるはずです.



No.00-19 M&M2000
材料力学部門講演会
開催日 2000年10月6日(金)〜9日(月)
会 場 横浜国立大学 工学部講義棟A
日 程
10月6日(金)10:00〜16:40
チュートリアル(大学院工学研究棟)
「強度設計の基礎と応用」
1. 有限要素法による強度設計(10:00〜11:40)
横浜国立大学  白鳥正樹 教授
2. リスクベースの工学/技術(13:00〜14:40)
東京工業大学  小林英男 教授
3. 疲労設計(15:00〜16:40)
九州大学    村上敬宜 教授

10月7日(土)9:20〜17:20 
学術講演、ワークショップ

10月8日(日)9:20〜15:00 
学術講演、ワークショップ、先端技術ポスターセッション
15:10〜16:00 特別講演(第10室)
16:10〜17:00 部門表彰等(第10室)
18:00〜20:00 部門懇親会

10月9日(月)9:20〜15:30 学術講演

特別講演
日時 10月8日(日) 15:10〜16:00
会場 第10室
題目 経験を語る − 立命の産学連携 − 
講師 田中道七教授(立命館大学BKCリエゾンオフィス)

オーガナイズド・セッション/オーガナイザー
OS1 先進材料分野/影山和郎(東大)、河井昌道(筑波大)
OS2 材料の変形・損傷・破壊/岸本喜久雄(東工大)、北村隆行(京大)
OS3 計測検査/坂真澄(東北大)、阪上隆英(阪大)
OS4 強度設計/岡部永年(愛媛大)、座古勝(阪大)、山川宏(早大)
OS5 エネルギー関連機器の構造健全性、信頼性、安全性/安藤柱(横国大)、鹿島光一(電中研)、武正文夫(IHI)
OS6 自動車における強度信頼性問題、構造最適化問題/荒木敏弘(日産)、吉村忍(東大)
OS7エレクトロニクスにおける強度信頼性/宮崎則幸(九大)、川上崇(東芝)
OS8 設計・生産技術にけおる強度・信頼性/林真琴(日立)、川上崇(東芝)、武正文夫(IHI)
OS9 材料力学と規格/小林英男(東工大)、高橋由紀夫(電中研)
OS10 機器・構造の損傷・破壊事例のデータベース構築/小林英男(東工大)、八木晃一(金材技研)、小川武史(青学大)
OS11 材料力学教育/原田昭治(九工大)、林真琴(日立)、阪上隆英(阪大)、山村和人(新日鉄)
OS12 先端技術ポスターセッション(優秀技術表彰対象セッション)/渡辺勝彦(東大)、奥田洋司(横国大)、井上裕嗣(東工大)

ワークショップ/コーディネータ・司会
(1)「実機における疲労や破壊は単純ではない」−多軸・混合モード疲労・破壊力学のすすめ−/田中啓介(名大)、菊池正紀(東理大) 、菅野智(日立製作所) 、青木満(東京電力)
(2)「ビッグプロジェクトフォーラム」/白鳥正樹(横国大) 、奥田洋司(横国大))
(3)「産官学連携 ―機械技術のルネッサンス―」/川上崇(東芝)
(4)「−技術者に求められる素養とそのための教育−」/原田昭治(九工大) 、阪上隆英(阪大)
(5)「破壊力学―既知のことと未知のこと―」/岸本喜久雄(東工大) 、北村隆行(京大)
(6) 「エネルギー機器における劣化の検出、対策、回復そして治癒」/安藤柱(横国大) 、鹿島光一(電中研)

懇親会
日時 10月8日(日) 18:00〜20:00
場所 横浜ブリーズベイホテル
(電話(045)253-5588))
会費 5,000円(学生2,000円、ご同伴の婦人は無料)

M&M2000問合せ先
〒160-0016 東京都新宿区信濃町35番地,信濃町煉瓦館5階/社団法人 日本機械学会/材料力学部門担当/高橋正彦/電話(03)5360-3505/FAX(03)5360-3609
/e-mail masahiko@jsme.or.jp
M&M2000ホームページ
下記にアクセスされますとM&M2000に関するすべての情報が得られます。
http://www.me.ynu.ac.jp/swan/mm2000



登録会員増加アピール
桜井茂雄((株)日立製作所 機械研究所)

現在、部門の第1位あるいは第2位の登録者数は、4794名(平成11年12月現在)であります。材料力学に関連する業務に携わっている方々の数を考えると必ずしも多くありません。会員の皆様には登録会員増加に向け、ぜひ積極的にご勧誘をお願いいたします。会員登録者数は、部門の勢力を示します。部門の重要性と将来性をも示唆するものであります。変化の激しい社会にあって学会の中の部門も聖域ではありえません。時流に従い部門の独立性の強化と財政的な自立が求められてきております。学会活動も社会組織の活動のひとつとして、長期的安定的な財政的基盤が不可欠であります。健全な財政をもとに、自由な学術・技術の発展と独自性のある活動の充実化が保証されます。このような側面からも会員登録者数の増大が不可欠であり、重要であることを認識していただき、登録会員増加にご協力をお願いいたします。

もちろん、財政的な側面だけではなく真の創造的な学会活動としても会員の増加は、必須であります。変化の激しい社会の中にあっても、学会活動では常に学術・技術の先行性と普遍性を維持しなければなりません。このためには、材料力学に関する知識資産の蓄積と拡大およびその活用の担い手となる多くの会員が必要な訳であります。多くの方が集まって知識を共有し、情報と知恵を交換するスペースであるこの部門を拡大し成長させなければなりません。学会とはまさに経験や知識を共有し、それを活用し、また新しい価値を創造するためのバーチャルなスペースともいえます。その意味では、最近のナレッジマネジメントいうところの知識資産の活用と知識創造のプロセスをダイナミックスに連動させる場でもあります。これには多くの会員の幅広い知識知恵が必要であります。

数は必要条件ですが、当然十分条件ではありません。目的は、社会の発展に寄与する新しい産業の創出に貢献することであります。このためには金太郎飴のような画一的な方がただ集まるだけではなく、経験や組織環境の異なる多くの方々が自由に議論し、相互作用を及ぼし合うことが必要であります。問題はグローバルな世界での独創性です。これには、とくに変化の激しい競争の厳しい産業界からの方の参加と学界の意欲的な若い方々の積極的な交流が不可欠であります。以上の観点からもとくに企業会員の方々には登録会員勧誘のご協力を切にお願いいたします。



平成12年度 材料力学部門功績賞を受賞して
坂田 勝 氏 (拓殖大学 学長)
 平成12年度の材料力学部門功績賞を戴けるから、感想文を書くようにと広報委員会より通知を受けました。有り難いと同時に申し訳ないとも思っています。機械学会には、勉学と研究活動の場として長年御世話になったにもかかわらず、貢献するところが少なかったと思うからです。

私は研究者として放浪の人生を過ごしたように思います。1956年に大学を卒業して重工業会社に就職しましたが、一年足らずで退職して東京工業大学の助手になりました。大学での研究の第一歩は高温高速回転試験機の試作とそれによる回転体のクリープの研究でした。恩師故谷口修先生が、当時開発が要請されていたジェットエンジンやガスタービンの回転部の強度を調べるために回転試験機の試作を手がけられました。私はその実務を担当するように命じられたのが初仕事でした。機械力学の研究室に所属していたので、強度の研究をする必要はなかったのですが、高額の研究費と労力を投じて試作した試験機を性能試験の検証が終ったままに放置するのは、国家予算の浪費のように感じました。戦中戦後の貧しい、その日暮らしの青少年時代を過ごしたためかも知れません。結局、振動の研究と並行してクリープの研究を行なうことになり、友人などから「二兎を追うものは一兎を得ず」と笑われましたが、その傾向は今でも改めることが出来ません。

1960〜1970年代はわが国の工業の発展期で、航空工学、船舶工学、原子炉工学などとも関連して、機械学会の材料力学部門には多くの研究者が集まって、活発な研究が行なわれました。この時代には、疲労の研究発表が多かったのですが、有限要素法と破壊力学の手法が導入されるようになりました。私自身は多くの研究者が注目する分野でなくても、自分の興味に従って研究をしたいと思っていました。当時の破壊力学の主流は静的荷重に適用される線形破壊力学でした。しかし、破壊の実験をしてみると脆性材料では亀裂が急速に進展し、金属材料では塑性変形を伴って破壊する場合が多いので、私の興味は破壊の動力学と弾塑性破壊力学に向かいました。慣性力、体積力、塑性ひずみの影響などを導入して、経路積分の適用範囲を拡大する研究を行ないました。その後、セラミックスとセラミックス系複合材料の高温強度に関する研究を手がけて現在に至っています。研究室では、優秀なスタッフと学生諸君のお陰で、充実した日々を過ごしました。1977年に材料力学部門の委員長に任命されて、講演会、講習会などを企画したときには、多くの同学の方々と親しくして戴き、毎年泊まり込みで開催するシンポジュームでは夜を徹して語るなど、多方面の勉強をさせて戴いたのは得難い経験でした。
 70年代後半からは、我が国の研究レベルは格段に上がり、国際誌への投稿も急増し、多数の日本人研究者が国際会議を組織する仕事や基調講演で活躍するようになりました。破壊力学が発展する時期に研究生活が出来たのは幸いでした。最近は、材料力学の各分野が学問的にかなり成熟しているので、新しいブレークスルーが必要な時期と思われます。現在の科学技術の主役は情報技術(IT)と報じられ、製造を中心とする従来型の工業が退潮傾向にあることは否めません。特に、国内ではウラン精製の事故、宇宙ロケットの打ち上げ失敗などがあり、国外ではコンコルド機の墜落が報道されるなど暗い面が目立ちます。しかし、工業的生産に直結する機械工学は人類の生活の向上に不可欠です。
材料力学部門の皆様方の幅広い御活躍を期待します。


功績賞受賞のコメント
河合 末男 氏 (日立工機(株))
 このたび、機械学会材料力学部門の功績賞を頂くことになりました。身に余る光栄であり、恐縮している次第です。
 私は立命館大学で田中道七先生の下で疲労の基礎を学び、同大学の修士を終えて、日立の機械研究所に入り、鯉渕 興二先生の下で強度、信頼性の研究を始めました。
 最初はターボ機械の羽根車溶接部強度の研究を行い、次に鯉渕さんの進めもあって、腐食疲労の研究を行いました。機械の起動・停止などの低―中サイクルではき裂進展速度に及ぼす応力波形の効果が、また運転中の振動応力に対する強度では高繰返数領域の疲労強度が重要になると考えて研究を行いました。特別仕様の発振器を設計して波形効果を詳細に調べ、世界的に注目されました。新規性のある実験装置を用いたことの威力を実感しました。高サイクル領域の研究では孔食から発生する疲労破壊の問題を研究しました。これらの研究のまとめとして、「腐食疲労の許容応力に関する考察」と題して機械学会論文集その他に発表しました。腐食環境下の実機の許容応力について道筋を示した最初の論文と思います。これらの研究の成果は、後に林 真琴氏らに引き継がれポンプ軸の信頼性向
上に大きな成果をあげました。
 私の半導体関連の研究は昭和48年ころのパワートランジスタのはんだ接着界面の疲労破壊がスタートです。その後、転勤などがあって、再びこの方面の研究に参画したのは研究室長として戻ってきた昭和60年からです。この時、積極的に学会発表を行って先生方の注目・協力を得、産学協同で技術力の向上を図りたいと考えました。中心学会をどこにするか迷いました。製品で考えれば電気学会、電気通信学会などが適当ということになります。しかし、技術の内容が強度、信頼性ですから、最終的に機械学会にしました。機械学会を活性化するということも頭の片隅にはありました。
 パッケージ内応力の測定、樹脂クラックの研究、はんだ接合部の疲労強度の研究などを行いました。特異場応力解析技術など最新の学会の知見を適用すると同時に、超音波探傷装置による界面はく離の観察、超小型疲労試験装置の開発などを行い、研究に活用しました。この分野で私の研究グループから短期間に機械学会論文賞2件、奨励賞2件を頂きました。製品開発でも貢献し、LOC新型パッケ
ージで市村産業賞(貢献賞)を私が代表して受賞しました。
 その後、研究の重点を半導体素子内の応力と欠陥へと移しましたが、後輩の研究者達が大きな成果を得ていることは心強い限りです。


業績賞を受賞して
深倉 寿一 氏 ((株)東芝)
 このたび、名誉ある業績賞を頂き、誠に光栄に思っております。これまで業績賞を受賞された方々はそれぞれの専門分野で一線を画す輝かしい研究業績を残された方ばかりであり、それに比較して私は特筆する研究業績が乏しいにもかかわらず表彰されることを少々心苦しく思う次第です。ただ、企業における研究者の端くれとして原子力産業界が抱える共通の技術ニーズを多少なりともまとめ、産学連携の研究を活性化させる事にいささかでもお役に立ったのかなと思っています。

私が東芝に入社した頃は、丁度軽水炉が実用化され、商業運転が開始されたばかりの時であり、原子力プラント構造物の安全性確保に関する材料力学研究が科学技術庁や日本原子力研究所それに電力会社等の支援により、活発に行われ始めていました。私は入社以前短い期間ではありますが、大学の原子核工学科で助手をしていたこともあり、興味のあった疲労や破壊に関する研究を何とか原子力プラントの安全性向上に活かしたく、入社後すぐに研究所で高速増殖炉や軽水炉構造材料の破壊に関する研究を開始しました。と同時に学協会の共同研究にも参加して今日まで、研究そのものに大きな意義を感じながら大学の先生方や同じ志の他社の研究者と本当に楽しく研究を続けてきました。その当時は企業の研究所といえども原子力プラントの安全性に関する研究であれば、当然の事ながら国策、電力会社の意向とも一致して基礎的な研究も比較的潤沢な研究費を投入して実施されていました。今や我が国において原子力発電が基幹電源として重要な位置を占めるようになり、また世界でも最も安定した稼動を誇っていることなど、我々産業界の研究者と、それを指導して下さった先生方との当時の研究委員会活動を思い起こし、感慨を禁じ得ません。

最近は特にエネルギーインフラを支える製造業の苦戦が続いています。市場のオープン化、自由化の進展により、世界規模の熾烈な競争が始まり、我々製造業においても色々な意味において集中と選択が余儀なくされてきています。従来のように、自分の会社が作り出す製品に関連する技術は全て自前の技術として研究所に保有するという完全装備の研究開発体制自体が問い直される時代となってきています。材料力学のように製造業にとって基本的に、そして共通的に枢要な技術についても大学や国の研究所が保有する高度な基礎技術を企業の製品技術に積極的に応用するという戦略的な技術の住み分けと連携が今や必須になってきています。
産学の研究者の接点として、機械学会材料力学部門委員会に述べたような円滑な産学連携の推進機能を期待しまして受賞の挨拶にかえさせていただきます。


材料力学部門業績賞の受賞にあたって
西岡 俊久 氏 (神戸商船大学)
 このたび、材料力学部門業績賞をいただき、大変光栄に思っています。
 私が材料力学関係の研究に入るようになりましたのは、東京大学原子力工学科安藤良夫先生および矢川元基先生のお陰で、ここに、心より感謝の念を申し上げます。とくに、当時、助教授になられたばかりの矢川先生に熱心に指導していただきましたことは、私の人生で最も大きな幸運の一つと、深く感謝しています。矢川先生にいただきました研究テーマは、変分原理を利用した重ね合わせ法の開発でした。有限要素法の解と数学的解析解を重ね合わせて同時に解くというもので、当時のコンピュータでも、極めて高精度の応力拡大係数等を得ることが可能になりました。お陰で、計算力学的方法のみならず数学的方法にも興味を持つようになりました。
 その後、横浜国立大学の助手の職を得て、小倉信和教授、安藤柱講師(当時)に大変お世話になりました。ここで、実験的研究の手ほどきを受けることができました。
 東大で博士号をいただいたすぐ後に、矢川先生のご紹介で、ジョージア工科大学のS.N. Atluri教授の率いる計算力学進展センターのポストドク研究員になりました。渡米後、しばらくしての30歳の誕生日は大きなショックとともに迎えました。と言いますのは、その当時すでに活躍されていたJ.R. Rice教授やAtluri教授はもちろん私よりも年上ですが、Rice教授は23歳で、Atluri教授は24歳でPh.D.を取られ、その当時の私の年齢の時には大きな業績を挙げられていました。それに比べ、自分は英語もよく話せず、しかも、もう30歳を迎えてしまったかという思いでした。しかし、陽明学者頼山陽が子供時代に作り、自らを励ました文章「汝、草木と同じく朽ちんと欲するか」に大きく勇気付けられ、私も頑張ってみようという意欲が湧いてきたことを思い出しています。
 結局、ジョージアテックでは、研究員、客員助教授を6年3カ月の間務めました。この時代に、複合材料の三次元き裂解析等のためのハイブリッド型有限要素法の開発、任意分布荷重下の楕円き裂一般解(VNA解)の導出、三次元楕円き裂の有限要素交代繰返し法の開発、動的破壊解析のための各種移動有限要素法の開発、動的伝播き裂先端近傍場の一般解の導出、経路独立動的J積分の導出、動的き裂伝播および停止シミュレーション、T*積分の導出およびその他の研究を行いました。
 その後、神戸商船大学に職を得、日本に帰国しました。帰国後は、破壊の計算力学的研究、数学的研究に加え、実験的研究およびこれらのいずれか二つ以上を融合させたハイブリッド法的研究を行なってきました。そして、帰国後、次々と40歳、50歳の誕生日を迎えましたが、日常性に埋没し、あの30歳の誕生日の時よりもショックは幸か不幸か格段にかつ段々小さいものになってしまいました。幸い、本業績賞は最近の一連の業績に与えるとのことです。「少年ならぬあの時の30歳青年、さらに老い易く学成り難し」にならぬよう気を引き締め、もう一度、志を上に向け、さらに研究を続けて行くことができればと願っています。
 最後になりましたが、ご選考していただきました関連委員の皆様に厚く御礼申し上げます。



マンチェスターの公共交通機関
埼玉大学 蔭山健介

昨年10月からマンチェスターに滞在している。英国は日本と比較すると、渋滞は少なく高速道路は無料なので自動車の利便性は高いが、マンチェスターは交通機関が充実していて、鉄道、バス、トラム、タクシーを使いこなすことによって、さほど不便を感じない。そのため、私は自家用車無しで過ごしてきたのがだ、そんな私から見たマンチェスターの公共交通機関に対する感想を簡単に述べてみることにする。
・鉄道
 全国を網羅しているBritish Railwayは、サッチャー政権時代に民営化されたが、日本のJRのような地域で分割したような簡単な方式では無かったため、25の鉄道会社が入り乱れて運営している。英国の鉄道を使用する上での最大の不満はその料金形態であろう。複雑怪奇な料金システムになっている上に、英国の鉄道は同じ路線でも時間帯により料金が異なる。しかも、最も混雑する時間帯(すなわち通勤時間帯)が最も高くなるように設定されている。そして、マンチェスター−ロンドンの往復切符はその際たるものである。最も安い時間帯の切符を2週間以上前に予約すると7.5ポンドであるが、予約せずに通勤時間帯にこの切符を購入するとなんと80ポンドを超えるのである。10倍以上も値段が違うというのにはあきれてしまう。
・バス
 多数の会社が参入しているが、全国に展開しているStage Coachという会社がマンチェスターでも数多く運行している(名前の通り馬車の時代から存在していたらしい)。バスは時間帯によって料金が違うということは無いが、同じ路線でもバス会社によって料金が異なる。上記のStage Coachは、最も高い料金を設定しているが、その他のバス会社は、中古バスを使っているなどして運賃を安く設定している。しかし、安い運賃のバスは途中で故障してしまい、バスを乗り換えるという羽目に落ち入ることもある(私は今までに3回ほど体験した)。
・トラム
 路面電車であるが、古くからあるわけでは無く中心部の渋滞解消のために敷設された都市交通システムである。British Railwayの旧貨物線などを利用するなどしてコストを抑えることに成功したようで、このような都市交通システムの新規導入で100\%の独立採算制で運営されているのはマンチェスターだけらしい。路面電車と行っても自動車との共用路線は一部だけであり、運賃も最低40ペンスと安く抑えられていて確かに便利な交通機関であるが、残念ながら私はこの路線と関係ない地域に住んでいるのでほとんど使うことは無い。

写真:市街地を走るトラムとバス(後方の建物は市の図書館と市役所)


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委員長 荒居 善雄 埼玉大学 工学部
幹事 三浦 直樹 (財)電力中央研究所 狛江研究所
秋山 孝夫 山形大学 工学部
荒井 政大 信州大学 工学部
中曽根 祐司 東京理科大学 工学部
西川 出 大阪大学 大学院基礎工学研究科
平田 英之 香川大学  工学部


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発行 2000年 9月 30日

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