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Materials and Mechanics Division Newletter February 2002


MATERIALS
and
MECHANICS No.25

日本機械学会材料力学部門ニュースレター No. 25 (2002年 2月 1日)ISSN 1340-6620

第79期部門長退任にあたって

第79期部門長 
久保司郎(大阪大学)

(C)著作権:2002 日本機械学会 材料力学部門



 21世紀はじめの材料力学部門の部門長を拝命してから早や1年が過ぎました。この間に気づいたことや感じたことを述べさせていただきます。
 第79期に当部門で行われました活動には、M & M2001(2001年8月、北見)、年次大会(2001年8月、福井)関連行事、APCFS & ATEM '01(2001年10月、仙台)、クリープ国際会議(2001年6月、つくば)、地域産業との交流会(2002年1月、徳島)、講習会、等々があります。これらの活動を目の当たりにし、1932年に発足した旧部門委員会の流れを汲む伝統ある当部門ならびに部門を支える方々の力の大きさを感じました。この大きな力をより強くするためには、第79期の初めの挨拶で述べましたように、情報の公開・発信と交流・連携が重要であるかと思います。前者につきましては、広報委員会で担当されました部門のメーリングリストの構築が、情報の公開と伝達に新たに役にたっているのではないかと考えております。特に、登録会員間の情報の交換が可能となり、またメールマガジンとメール速報により、部門を取り巻く環境の日々の変化ならびに有用な情報を、時を移さずお知らせすることができるようになりました。学術面の情報発信では、当部門と深くかかわるJSME Int. J. Ser. Aが良好なインパクトファクタ値を示していますので、これを国際的学術情報発信の手段としてさらに育てていく必要があるものと思います。後者に関連しました、周囲との交流や連携、産官学の交流につきましては、数年前から実施されています地域産業と部門との交流会や、第2技術委員会の関連で実施されています産官学連携に関するオーガナイズドセッションや討論会、ロードマップ構築におきまして、方向が次第に現れてきているように思います。これらを礎として、材料力学分野が力を結集し、社会的に貢献することができるようになればと、期待しております。
最後に大野副部門長、小川幹事はじめ運営委員、各種委員会主査・幹事の方々、ならびに部門関連の皆様には大変お世話になりました。この場をお借りしまして御礼申し上げます。第80期には新たな課題がありますが、部門長の大野信忠先生、副部門長の岸本喜久雄先生のリーダーシップのもと、部門として、また材料力学分野として大きな飛躍を遂げられることを祈念いたしております。

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表1 第79期材料力学部門の委員会
委員会 担当 委員長 幹事
部門長 久保 司郎(大阪大)
副部門長 大野 信忠(名古屋大学)
幹事 小川 武史(青山学院大学)
総務 東郷 敬一郎(静岡大学) 菅田 淳(大阪大学)
広報 荒居 善雄(埼玉大学) 三浦 直樹(電力中央研究所)
第1技術(年次大会)
    2002年 酒井 信介(東京大学) 佐々木 哲也(産業安全研究所)
第2技術(将来構想)  大野 信忠(名古屋大学) 小川 武史(青山学院大学)
第3技術(材力講演会) 
    2002年 幡中 憲治(山口大学) 上西 研(山口大学)
第4技術(シンポジウム)小川 武史(青山学院大学)荒居 善雄(埼玉大学)
第5技術(賞)  中村 春夫(東京工業大学)岡崎正和(東京大学)
第6技術(国際交流)  北條 正樹(京都大学) 吉川 暢宏(東京大学)
第7技術(講習会)  吉田有一郎(東芝CAEシステムズ(株))吉川 暢宏(東京大学)
第8技術(登録会員)  桜井 茂雄((株)日立) 武正 文夫(石川島播磨重工業(株))
第9技術(年鑑・出版) 松原 雅昭(群馬大学) 古藤 広之(三菱重工業(株))
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部門の評価に関連して

第79期副部門長 大野信忠(名古屋大学)

すでにご存知のことと思いますが,2001年度より部門交付金の算定方式が大きく変わり,部門の活動度が部門交付金に反映されることとなりました.新しい方式によると,部門交付金は基本分,登録会員数分,部門活動分の三つからなります.このうち,登録会員数分は部門に登録している会員数に比例した分ですが,部門活動分は,部門評価点の過去3ヶ年度に亘る平均値を部門登録会員数で除した値に基づいて評価されます.部門評価点は,講演会,講習会,見学会等の実施や論文集・英文誌特集号の企画等に対してポイントが定められており,その合計点として算出されます(http://www.jsme.or.jp/divmanual/kitei.htm#ninmu_b参照).
 材料力学部門の活動内容は,皆様のお陰で,他部門と比較して決して劣ることはありませんから,上述のような部門活動分が導入されても,部門交付金の額は依然として高順位です.しかし,部門活動をさらに活発にするためには,登録会員を増強するとともに部門評価点を上げることにより,部門交付金を増す必要があります.
 部門評価点には,事業の種類と数によるポイントに加えて参加件数や参加者数も関係します.例えば,我が部門が毎年開催している材料力学部門講演会(M&M)は,事業評価点が100点ですが,これに発表数×1点と参加者総数×1点が加わりますので,発表数や参加者総数も重要です.北見で開かれたM&M'01の場合,地理的な問題もあったと思いますが,参加者がもう少し多くてもよかったのではと感じました.もっともM&M'96(三重大)のように,発表件数が550件に達し,工学部中の講義室のほとんどを講演室として使用しなければならないような事態となっても困るのですが,...M&M'02は,10/12〜14に山口大学で開催されます.多数の参加を期待いたします.
 論文集や英文誌の特集号の企画も重要です.これらの企画は,事業評価点が100点/件であり,これに掲載論文数×5点が加わります.材料力学部門に関係した小特集号の発行はこれまで多くなされており,2002年度は論文集で「材料の内部構造と力学的性質」の特集号が,また英文誌で"Strength, Fracture, and Experimental Mechanics"の特集号の発行が予定されています.これからも特集号を積極的に企画する必要がありますので,構想がありましたらお知らせ下さい.



材料の破壊と強度に関するアジア太平洋会議と実験力学先端技術国際会議
(APCFS & ATEM '01)のご報告

                      渡辺 豊(東北大学)

 APCFS&ATEM'01(Asian Pacific Conference on Fracture and Strength '01 and International Conference on Advanced Technology in Experimental Mechanics '01)が、庄子哲雄・坂真澄両東北大学教授を議長として、10月20日から22日にわたり仙台国際センターにおいて合同開催されました。ご存知のように、APCFSは、日本機械学会、韓国機械学会、中国機械学会の主催により隔年開催される材料の破壊と強度に関するアジア太平洋会議であり、今回は日本機械学会材料力学部門が主催幹事団体を務めました。一方のATEMは日本機械学会材料力学部門主催により隔年開催される実験力学に関する国際会議であります。今回は仙台で開催される縁から、APCFSの創設に尽力された故高橋秀明先生を偲ぶ会議ともなりました。参加登録者数268名、論文数199件と予想以上の規模となりました。参加者ならびに関係各位のご協力に深く感謝いたします。参加者の内訳を見ますと、アジアからは日本199名をはじめ、韓国46名、中国9名、台湾3名、シンガポールおよびバングラデシュ各1名が参加し、その他諸外国からは米国5名、ドイツ、フランス、オランダ、オーストラリア各1名の参加を得ました。8件の基調講演の他、EAC、NDE、Fatigue、Electronic Devices、Compositeなど30のセッションで172件の論文講演が行われ、活発な討論が交わされました。論文内容は最新の計測技術から理論解析にわたり、研究対象も軽水炉等の大型構造物から電子デバイス等の微細構造の破壊まで多岐にわたるなど、この分野の研究領域の益々の広がりを実感させるものでした。また、これらと並行して設けられたStudent Poster Sessionでは、学生諸君による19件の発表があり、国内外の研究者との活発なやり取りが見られました。Plenary lecturerらによる審査を経て、優れたStudent Paper 4件がBest Paper(Science部門とEngineering部門各2件)に選ばれ、21日夜に開催されたバンケットの席上でBest Paper Awardの贈呈が行われました。また、本会議の開催に尽力された韓国側代表者および中国側代表者であるProf. O-S. LeeとProf. X-S. Xieに材力部門から国際交流表彰が贈られました。バンケットでは、津軽三味線の演奏を楽しむなどして一層交流を深めることができたようです。次回のAPCFSは2004年秋に韓国で、またATEMは2003年9月に名古屋で開催される予定です。奮ってご参加下さいますようお願い申し上げます。



材料力学部門賞受賞者からのコメント

功績賞を受賞して
                            石川博將(北海道大学)
                  
 このたび、79期材料力学部門より功績賞を頂戴し、大変光栄なことと感謝いたしております。部門賞の制定は今回同時受賞いたしました清水真佐男先生が部門長のとき、私が技術委員長として二人で賞牌の盾に刻すレリーフをきめるため、浅草付近の製作所に出向き、ギリシャ神話の知恵の女神に決めたのが平成元年の晩秋の頃でした。翌平成2年の第1回功績賞をA・S・Kobayashi先生に授与いたしました。あれから10余年、今回の平成13年度、清水先生ともども自分達が定めた賞を受賞し感慨無量のものがあります.
 さて、私はほば35年間一貫して塑性力学に係わる分野での研究を進めてきました。最初は全ひずみ論による捧のねじりと曲げの数理塑性解析を行い、その仕事が昭和48年日本機械学会賞(論文賞)の栄に浴しました。その後、逐次近似法による熱弾塑性クリープ変形の熱応力解析や押出しなど塑性加工の解析を行い、40歳でドイツのミュンヘン工科大学リップマン先生(平成8年功績賞受賞)の研究室に留学以来、塑性構成式の研究をすすめてきました。15年前頃より塑性力学を接触問題、電子実装の問題、さらには、バイオメカニックスの問題に展開しました。定年まで残り少なくなり、近年は、塑性構成式の研究に的を絞っています.これらの研究成果は、機械学会論文集、JSME International Jouma1 Series Aを中心に研究テーマ毎にZAMM,Tnt. J. Solids & Structures,J.of Thermal Stresses,ASME J. of Eng. for IndustryやJ.of Eng. Mats & Techn., Exp. Mech.,さらに、ASMEJ. of Triborogy, J. of Biomech. Eng., J. of Elect. Pack., Int. J. of Plasticity等の国際専門誌に発表してきました。
 我々の世代では、そのことは意識していませんでしたが、これからの研究成果の評価は専門誌のImpact Factor(IF)や論文のCitation Index(CI)が問題になります。現在、JSME International Journal Series AのIFは 0.407とSeries Bの 0.166、Series Cの0.098に比べ高い値です。これをさらに高め、アジア発の専門誌として高い評価を得られるようにしていただきたいと、Journal Editorや 論文集担当理事の経験者として、皆様に切望するしだいです。


部 門 へ の 期 待
                            大谷隆一(京都大学)

 機械学会の材料力学部門も何かもう一つ変化があればいいなと感じる今日この頃である。これは、とりわけ最近のように景気の後退が著しい時期に、企業の研究者・技術者の学会、部門に対する関心あるいは必要度が薄れ、不参加あるいは脱会が増すという現象と表裏一体をなしているように思われる。この打開策は容易に思い付くわけではないのだが、以下の2点を私見として挙げることとする。
 一つは、社会の出来事、たとえば種々の機器・構造物の破損事故に対して原因の指摘、将来への対策等を、また、新技術・新製品の実用化に対して開発の苦労、基礎研究の貢献等を、部門の外向けニュースレターとして公表しては如何か。1994年になされたPL法関連以外にはこれといった部門活動はない。いざ実行に移すとなると、具体的な事項に関して不確定な問題を断定して言及したり、科学技術以外の事項や当学会以外の分野に影響を及ぼす表現になったりして、責任問題が生じるのではないかと危惧されるかもしれないが、その都度、材料力学という学問分野・技術領域の観点から意見を述べるということを断り、かつ反論や質問を受け付けることを明言する必要があろう。
 もう一つは、ナショナルプロジェクトへの参画、たとえば科学技術基本法に端を発して我が国におけるナノテクノロジーの国家戦略がうたわれているが、経済産業省、文部科学省、総合科学技術会議の選択・指名する機関に具体的な研究が委託されている。米国クリントン元大統領のNNI計画におけるような基本方針の策定はおろか、具体的研究の実施すら既存学会の寄与はほとんどない。機械学会は全く関与しておらず、材料ナノテクノロジープログラムについても材料力学部門からの名乗りがあったとは聞いていない。これからは部門としてナシプロの獲得を行なうべく、そのための準備をしては如何か。
 以上の二課題はいずれも、社会に対して材料力学部門のアカウンタビリティを果すということである。大学、独立行政法人研究所、民間企業それぞれがアカウンタビリティを果す必要に迫られているが、学会もそれらの横断的機関として社会的な説明責任に応じなければならないと思われる。今年度の部門功績賞をいただきながら、これらの活動に何らの貢献も為し得なかったことを反省している。



材力部門功績賞を受賞して
                            小倉敬二(大阪大学)

 材料力学部門功績賞を頂き大変光栄です。1996年度に第74期の部門長をやらせていただきましたものの部門への功績は多くはなく、研究業績の方も取り立てて秀でたものもないのに、このような賞をいただいて申訳なく思っております。私はこの40年間ずっと大阪大学におりますが、途中学科、学部を移動したこともあり、いろいろなテーマに取組んでまいりました。幅広い研究というと聞こえが良いのですが、どの研究も底が浅いものになってしまった点残念に思っております。しかしながら、反面この間にいろいろなテーマの研究の立上げに労苦を惜しまず協力し支えてくれた共同研究者の方々が、それぞれ自己の分野を開発し、立派な研究者として育ち、材料力学部門で活躍してくれていることは望外の喜びであり、この点に私の功績が少しあったのかなと思っております。以下古いことで恐縮ですが、長い研究生活の中で思い出に残ることを少し書かせていただきます。
 私の研究は菊川先生、大路先生のご指導で、超音波疲労試験機を製作し、これによって疲労強度の繰返し速度効果を解明するという課題から始まりました。繰返し速度100kHzでの疲労試験結果は今も高繰返し速度の世界記録として残っております。この研究は当時実用面からはかなり離れた研究であり、手がける人も少なくそれ故に記録としても残ったものと思われますが、近年超長寿命疲労が重要な研究課題となり、超音波疲労試験機が市販されたり、研究に使われたりするようになったのは感慨深い思いであります。
 1970年1月から1年間、文部省在外研究員として米国MIT、McClintock 先生の研究室に滞在しました。滞在中6月にカナダのトロントでASTMのAnnual meetingがあり参加しましたが、このとき幸運なことにたまたま疲労き裂閉口の発見で有名なElber氏の講演発表(内容はASTM STP486に掲載)に出会いました。帰国後、疲労き裂進展の有限要素シミュレーション解析、ついで1980年からはレーザによるき裂閉口計測方法の開発ならびにこれによる切欠底小寸法疲労き裂進展挙動および高温疲労き裂進展挙動の解明と、き裂閉口に関連する研究を30年にわたってやることになりましたが、Elber氏の講演の時点では、この講演がこのような長期間、私を含めて多くの研究者が取組むテーマとなるほど重要な内容であるとは気づきませんでした。学会発表の中で新しい研究の流れの源を把握することの難しさをつくづく感じたことでした。
 最後に材料力学部門の今後のご発展を祈ります。



功績賞を受賞して
                           鯉渕興ニ(湘南工科大学)
                                     
 この度、材料力学部門功績賞を頂きました。京都大学で河本実先生から実働荷重の疲労と塑性疲労(低サイクル疲労のこと)の2つのテーマを頂いたこと。一緒に仕事をした上司、同僚に恵まれたこと。強度のグループをいかに企業内で生き延びさせるか悩んだことのお陰かなと思います。1963年日立製作所中央研究所に入り、先輩の指導の下に実働荷重を再現する疲労試験機を作り、材料のランダム荷重下の弾塑性応答、疲労損傷の研究を始めました。これが京都大学に釆ておられたJ.D.Morrow先生の目に留まり、アメリカに広く紹介して頂き、多くの友達が出来たことも幸運でした。
 疲労の研究は壊れなくて当たり前の保険のような存在です。当時日立には2つの研究所が強度を担当し、私ども機械研究所のグループは産業機器より小さい製品すべての強度に責任を持つよう言われました。強度の研究に日を当てるためには製品の開発時点から重要な技術と認められねばなりません。各工場の製品トレンドを先取りし、開発の5年くらい前から基礎研究をスタートして、製品開発に参加できるよう戦略を立てました。各種の油圧制御疲労試験機を自作し、応力測定から、材料の疲労設計データ取得、実物実働疲労試験など小型のコンピュータによるラボオートを進めた強度評価システムを研究所の中に作り、製品開発プロジェクトに参加しました。産業機械に続いて、情報機器さらに1972年には半導体の半田剥離事故を契機に電子機器など、若い人を中心に強度設計の研究グループを作りました。このような事が結果的に新しい研究テーマを学会に提案し、色々な分野で活躍する後輩が育ったお手伝いになったのかもしれません。その後工場に出て10年ほど製品開発や品質保証を実際に担当する立場から強度の研究を見ておりました。
 1994年に東大に移りさらに湘南工大と、大学生活に入ったわけですが、産学の研究の垣根を無くそうと、自動車会社の方々と車体溶接構造のデジタル疲労設計を、JRや総合電機メーカと電子制御システムの耐久性管理の研究を進めています。工場の開発現場では、人とコンピュータの環境も制約されます。また開発期間や経費にも合理化の波が押し寄せています。まだまだ大学側の理解が足りないように思います。基礎研究を育てながら、実際にも役に立つ競争力のある材料力学の研究をも進める研究マネージメントの議論をやりたいですね。



功績賞を受賞して 
                 
                       清水真佐男(慶応義塾大学)

 この度、功績賞という名誉ある賞をいただき大変光栄に存じます。
 授賞理由を伺い、これまでの40年近い自身の研究生活やおりおりの部門活動が感慨深
く思い起こされてきます。
 わたしの研究生活は、大学院に進学した昭和37年に、指導教授の国尾先生が米国カリ
フォルニア工科大学に留学されるにあたって、自分の留守中、国鉄(当時)鉄道技術研究所に通って研究をせよ、と命じられたことがきっかけで、鉄研車両構造研究室の主任研究員(当時)中村宏博士の御指導のもとでスタートしました。 東海道新幹線の開業 2年前のことでした。文字通り世界の鉄道高速化の幕開けの時代で、まさに、高速鉄道車両の最重要保安部品としての車軸に高周波焼き入れによる耐疲労強化策が導入されようとしていたときでした。研究対象となった疲労破壊は、一般に材料強度の組織敏感性が特に顕著にあらわれる現象で、そこには組織中の極く僅かな最弱部分を狙いうちするかたちで疲労亀裂が発生、それが徐々に進展するという特徴があります。高周波焼き入れ材の場合も例外ではなく、表面の焼き入れ組織中に残留フェライトをはじめ、極く僅かであっても軟質領域が存在すれば、そこからの疲労破壊の発生が避けられません。そこで、そのような軟質領域の形成を防ぎつつ、かつ表面層に大きな圧縮残留応力を付与して亀裂進展を起こりにくくする、というのが耐疲労性強化の熱処理技術の基本となります。このことは、耐疲労性強化を目的とする表面層に大きな圧縮残留応力を付与して亀裂進展を起こりにくくする、というのが耐疲労性強化の熱処理技術の基本となります。このことは、耐疲労性強化を目的とする表面処理技術に共通で、材料を構成する組織に依存して亀裂形成の組織選択性実体は異なりますが、強化の原理は変わりません。
 その後、多くの材料系で破壊の起点となる最弱部分が姿形を変えて次々と我々の目の前にあらわれてくる神秘さと材料強度研究の奥深さに魅せられ、以来 40年近く、材料の破壊と組織構造との関わりの探求に没頭してきました。
 今日いまだに疲労による破壊事故が耐えない状況に、今回のような賞をいただいてよいものかとおもいましたが、今後も努力せよとの賞であると考え、有り難くお受けした次第です。これまでの多くの方々のご支援とご協力に心からお礼申し上げます。



材料力学部門業績賞の受賞にあたって

                             林 一夫(東北大学)

 この世界に足を踏み込んで以来、一貫して固体力学特に弾性力学を基本として研究に従事してきました。幸運なことに、文部省科研費特別推進研究のΓ計画(「深部地殻エネルギー開発のための人工き裂面の設計に関する研究」、昭和58−63年)に研究分担者として参加することができました。これを契機に、地熱抽出とくに高温岩体型地熱抽出の研究に従事するようになりました。高温岩体型地熱抽出は、地下に人工き裂と天然き裂とからなる人工の貯留層を作成し、これにニ本の井戸を連結して、片方の井戸から水を圧入し、き裂内で熱交換して高温になった熱水を、もう一方の井戸から回収するものです。いくつかの基本的命題の中に、き裂の力学的挙動の解明、き裂の位置・方位・大きさの評価法の開発がありましたが、前者は破壊力学の守備範囲にあり、また後者は、き裂から放射される弾性波の問題として捉えることができ、私にとっては、この新しい展開は全く違和感も抵抗も感じないものでした。機械工学と異なる点は、解析対象となるき裂を有する岩体が圧縮応力下にあり、従って人工き裂は基本的には安定であるという点と、岩体の力学的性質が現位置ではわからないという二点です。研究を進めていくにつれ、岩石内に天然に存在する応力(岩石の自重による応力と構造運動による応力が重ね合わさったもの)が、ほとんど全てを支配することがわかってきました。地下応力は地熱開発のみならず、地殻内で起こっている諸現象の支配因子の一つであることはいうまでもありません。一時期は、研究室をあげて地下応力の現位置計測法の開発に従事しました。世界に先駆ける成果を挙げることができたものと、自負しております。
 助手になりての頃、M.Comninouの、界面き裂に関する一連の論文(例えば、ASME J.Appl.Meeh.,44,1977,631)に感嘆したことを覚えております.これは、界面き裂先端に微小な接触領域を導入し、従来の振動解を回避できることを示したもので、積分方程式の解の自由度を巧みに利用した極めてスマートでかつ美しい論文です。以来、いつの日かこれに匹敵する論文を書くべく念じてきましたが、残念ながら未だ実現しておりません。
 材料力学部門業績賞の受賞は、思いもしなかった望外の喜びです。受賞日の平成13年8月2日は、ひさしぶりに幸せな気分で過ごすことができました。



                              川上 崇(東芝)
 技術立国の名の下Japan as Number One に浮かれ、バブルに踊った驕りから自らの
足元を忘れ、若者の技術離れまで招いてしまいました。結果、一転して凋落の道の辿
り始め、自信喪失、時によっては中長期展望を欠いた目先の対処療法からいよいよ深
みにはまり、経済のみならず精神的にも健全な状態からほど遠い閉塞した時代となっ
てしまっています。このような負の方向への流れを断ち切り、わが国の活力を取り戻
す方策の一つとして産業技術政策と連動した"産学官連携の推進"に大きな期待が集ま
っています。
 平成7年「科学技術基本法」制定以降、平成8年 科学技術基本計画 の制定、平成
10年「研究交流促進法」改定と「大学等技術移転促進法」(TLO法)制定、平成
11年「産業活性再生特別措置法」策定、平成12年度「産業技術力強化法」策定、
昨年は第2期 科学技術基本計画 の制定と産学官連携に関わる施策が打たれていま
す。骨子は、大学等における知の活用であり、このための共同研究・委託研究の促
進、研究成果活用の促進、人材交流の促進であります。一方、平成14年度にはライ
フサイエンス分野、情報通信分野、環境分野、ナノテクノロジー・材料分野が重点4
分野として政府の戦略的な研究開発投資の対象として取上げられ、産学官連携の受け
皿と盛り込む素材の準備は進んでいます。
 ところで、工学は、学術と産業をつなぐものであり、目に見える技術としての"もの
作り"を標榜する機械工学に携わる者は、今状況に至ったことへの反省を忘れてはなら
ないと思います。反面、原点に返り、物事をシンセシスする能力を活かして新たな分
野に取り組めば、好転への原動力にもなり得るのではないでしょうか。特に材料力学
は、あらゆるハードウェアの信頼性を司る技術であり、関係する私達は、設計思想や
製造プロセスなど多くの情報を知り得る立場にあります。このように考えると、むし
ろ今は産学官連携を推し進め、飛躍するチャンスが私達の目前に到来しているのでは
ないでしょうか。
 材料力学部門の中では、幾つかの産業について開発動向を読み、今後必要となる技
術を考えるためのロードマップ作りが試みられています。また、地域産業・材料力学
部門交流会も、新潟、若狭、北九州に引き続き、今年は徳島において4回目を開催する
ことができました。地域産業のニーズを知ると共に、草の根運動から産学官連携の切
っ掛けとなることを目指しております。これらの受信活動を発展させ、プロジェクト
提案などを発信して成果を挙げ、活力ある技術者集団として再生への春の息吹を体感
しようではありませんか。



ロードマップ:産業界からの発信

                          第二技術委員会委員長 
                          大野信忠(名古屋大学)

 今年度,支部・部門活性化委員会より「部門活動評価のための照会」が各部門になされました.材料力学部門に対しては,部門活動の問題点を三つ指摘されましたが,その一つは産業界との関係の希薄さです.この指摘が当たっているかどうかはさておいて,産業界との関係が重要であることは言うまでもありません.
 このため第二技術委員会では,すでに2000年度より,産業界との関係をより密接にすることを目的として,産業界における技術展開のためのロードマップの作成を議論してきました.この議論の結果として,2001年3月の春のシンポジュームでは,ロードマップの講演を企画しました.2002年3月の春のシンポジュームでも同様な企画を行うとともに,4月にはロードマップを部門のホームページ上に掲載し,登録会員に公表する予定です.さらに2002年9月の年次大会では,「ロードマップ:産学連携と大学への期待」と題したワークショップを行う予定です.



ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校での楽しい日々

                           浦郷正隆(東京工業大学)

 はじめまして.東京工業大学大学院理工学研究科国際開発工学専攻におきまして助手をしている浦郷正隆と申します.現在,米国にあるニューヨーク州立大学ストーニーブルック校におきまして,中村俊雄教授およびRaman Singh教授の研究室に参加させて頂いています.中村教授は,破壊力学のなかでも理論および数値シミュレーションが御専門です.また,Raman Singh教授はセラミックや積層材料および傾斜機能材料の材料特性や破壊に関する実験が御専門です.理論と実験とが結び付いた活気のある研究室です.ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校はマンハッタンから東に細長く伸びたロングアイランドの中央付近北側にあります.ストーニーブルック校は広大な緑の敷地に囲まれた環境の良い大学です.マンハッタンまではおよそ100Kmあり,LIRRという鉄道会社が運営している二階立ての電車で2時間ほどかかります.中村教授およびSingh教授の研究室にはインドや中国からの留学生を中心に8名の大学院生が所属しています.特にインドからの留学生は実験も解析も素晴らしく速くこなしており,私にとって大変刺激になりました。セミナーは毎週月曜日に行われ、学生がノートパソコンを用いて発表して行きます。月に1度当たります.学生の発表中に次々と質問が飛び,楽しさと緊張感がほど良い感じのセミナーです.私も発表するのですが,まだまだアメリカレベルには比べる事すらできず,次回はすこしうまくなろうといつも思っています.機械工学科には,学生の設計製作に関する講義があります.Mini Bajaというエンジン付きの小型バギーを設計製作します.夕方に学生たちがバギーに乗り校内を走り土手を登っている様を一度見ました.なかなか壮快です.さらにソーラーボートを作る工作チームなどがあり,大会では好成績をおさめています.
 Singh教授は年に1度学生全員を集めてパーティを催されます.大変美味しいインド料理を頂き,留学生の国についてや趣味などを互いに話合い楽しい一時を過ごしました.
 私が住んでいるところは,Port Jeffersonという港町です.開けた綺麗な町で,休日には大変賑わいます.アメリカに出張に来ていた友人と偶然連絡が取れ,このPort Jeffersonでロブスターをかぶりついたのは,忘れられない思い出の一つです.タイムズスクエアの騒々しさや活力に溢れたパフォーマンス,ロックフェラーセンターの高層ビル群,メトロポリタン美術館など,マンハッタンは,世界の凄さを感じさせます.残された時間を,いろいろな意味でのアメリカのエネルギーを吸収するのに使おうと思っております.



材料力学部門メーリングリスト
<mmd-ml@jsme.or.jp>に関するご案内
 
 材料力学部門では部門登録会員の情報交換を促進するため、メーリングリストを開設致しました.本メーリングリストにご登録頂ければ、電子メールにより各種講演会、講習会、フォーラム、国際会議などの情報をいち早くお届けすることが可能です。また各部門会員からの情報発信も大いに歓迎致します。以下のホームページ記載内容に従って、本メーリングリストにぜひご登録下さい。

http://nssun.me.es.osaka-u.ac.jp/mm/mmd-ml.html



委員長 荒居 善雄 埼玉大学 工学部
幹事  三浦 直樹 (財)電力中央研究所 狛江研究所
秋山 孝夫 山形大学 工学部
    荒井 政大 信州大学 工学部
小川 武史 青山学院大学 理工学部
    西川  出 大阪大学 大学院基礎工学研究科
    平田 英之 香川大学 工学部

現在、上記の広報委員でニュースレターを作っております。会員の皆様方のご協力をお願いいたします。

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発行 2002年 2月 1日

発行者 160 東京都新宿区信濃町35 信濃町煉瓦館 5F

(社)日本機械学会 材料力学部門

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