熱工学部門長あいさつ


第92期熱工学部門長

京都大学 大学院工学研究科 機械理工学専攻
教授 中部 主敬
nakabe@me.kyoto-u.ac.jp

2014年4月1日

 2014年度(平成26年度)当初に前部門長小林秀昭教授の後任として第92期部門長の大役を仰せつかりました.その就任に当たりご挨拶申し上げます.
 熱工学部門はいわゆる機械系4力学の1つである熱力学を基盤学理として伝熱学,熱物性学,燃焼学の学問研究を担いつつ,より学際的広がりを持ってエネルギー変換やマイクロ・ナノスケール現象,バイオ・生体・医療などの関連工学を対象にシステム,機器,材料の開発を行う研究者,技術者の会員の方々が集い活動される場です.その人数規模として全21部門の中から本部門を第1~5位に選び登録された正会員は前年度末(2014年2月末)の時点で6,041名おられました.これは部門登録を行った延べ正会員数(正会員の総数自体は同月末で約3万名です)の7.3%に相当し,21部門の中で第3位の人数です.なお,残り3つの力学に対応する部門と考えられる流体工学部門,材料力学部門および機械力学・計測制御部門の人数規模はそれぞれ,第1位,第5位および第2位です.ちなみに第4位は計算力学部門です.
 日本機械学会では部門登録者数の推移を2006年度から第1~5位登録者合計で記録,グラフ化していますので,上述の各部門について改めて纏めましたところ下表のようになりました:


 この表から熱工学部門が最も登録者数を減らしており,2006年度末を基準にとった減少率も他部門に比して大きいことが分かります.また,上表には示していませんが,この7年間で線形に減少していることも分かりました.本学会の特別員,学生員等を含む全会員数は1995年度末の45,733名をピークに減少傾向は止まらず,数値的には全会員数に連動して本部門登録者数も減少しているように見えます.しかし,他の部門は微減に留まり,計算力学部門では逆に増加しています.
 機械工学における「熱」の重要性は言わずもがなと思っていましたので,この結果は意外なもので厳粛に受け止めたいと思います.生憎,この漸減傾向を説明できるに足る確たる理由は把握できていませんが,別の資料に拠りますと2006年度からの全会員数推移の内訳として,私企業の正会員が2千名の規模で減少したことが示されていました.従って上表の全会員数における減少人数2,314名の大部分は私企業正会員,すなわち現役の技術者の方々であると言えます.化学,応用物理,電気電子関連の学協会会員数も同じく漸減傾向にある中,自動車技術会は2000年になってからも1万名規模で会員が増え,現在では4万5千名を超えることも示されていました.日本機械学会はその英訳であるThe Japan Society of Mechanical Engineersが示すとおり,機械のエンジニア,工学者の団体です.上表に併記しましたが本部門には学校関係の正会員数の2倍以上の私企業正会員の方々が登録されていることを忘れず,両正会員の活動が乖離せぬよう心掛けねばならないと思います.
 本部門ではこれまでにも様々な提案,企画がなされ,熱工学コンファレンス(#1)を始めとする講演会や講習会,セミナーが開かれてきました.国際会議についても日米韓熱工学会議(#2),日韓熱流体会議(#3)はもとより他の関連学会と連携しながら国際伝熱フォーラム(#4),国際伝熱会議(#5),国際燃焼シンポジウム(#6)等に賛同,協力して会員間の活発な情報交換,人的交流の場を持ってきました.これらはまた,若手研究者・技術者,学生の育成の場としても質高く機能してきました.今期もこのような企画と伝統ある場を踏襲しつつ,一層の充実を図っていきたく思います.一方でつい先日,関西で熱関連企業の方々と懇談する機会があり,企業内部では若手育成のための自社教育プログラムを行おうにも講師役となる技術者の方々がその時間を捻出し辛くなってきている,「熱」の基礎的講義と現場に即応した演習問題が対になったような講習会があればアウトソーシングしたい,との旨の言及がありました.この辺りのことも企業からのご要望と捉えて検討すべき一案ではないかと考えます.
 情報交換,人的交流,人材育成の場と対をなして重要なものは研究成果発信の場としての学術論文です.様々な研究成果が日本機械学会論文集を含めて国内外の学術論文誌に公表されますが,やはり著名でインパクトファクターの高い外国の英文学術誌への投稿,掲載が注目されがちです.結果として論文閲覧のために毎年高騰を続ける購読料を寡占状態の外国出版社に対して支払わねばなりません.この金銭的負担に加えて,日本のマンパワーと資金を投じて生み出された多くの論文,知的成果が著作権とともに外国でアーカイブされ,その発信元も外国になってしまうことは看過できません.戦後すぐには日本の機械工業製品の認知度は低く,例えばノックダウン方式による組み立て製造やライセンス生産を行って自動車の国産化を実現してきましたが,今ではPrius(トヨタ)に代表されるハイブリッド車やGT-R(R35型,日産)のようなスーパーカーなど世界的注目を集める自動車を生み出すに至っています.時計などの精密機械製品も然りです.もちろんドイツ車やスイス時計などの欧州製品には根強い人気がありますが日本製品はそれらとの共存ができていると思います.このことと学術誌を同列に論じることはできないかもしれませんし,現時点では外国出版社に対抗できるだけの起死回生の手立てはありません.しかし,自動車や時計がそうであったように,魅力ある研究成果発信の場として日本発の国際的に通用する学術誌を偏狭な肩入れをすることなしに地道に育ててゆく時期がきているのではないでしょうか.昨期には日本機械学会論文集は日本機械学会学術誌として新しく生まれ変り,英文ジャーナルJTST(#7)を別にして和文誌,英文誌,英文速報誌に本部門関連のカテゴリーC(#8)が設けられています.母国語で執筆・購読できる場としての和文誌を大切にしながら,また,私企業の方々からも投稿,引用しやすい役立つ学術誌に皆様と共々に育てていきたく思います.
 熱工学部門の活動は本部門を構成する会員の皆様のご理解とご協力が得られてこそ可能となるものです.部門財政の健全化も進めながら機械工学の基盤としての熱工学の学術,技術ならびに社会への貢献のために今期も運営委員会,総務委員会を中心に活発な議論,企画を行ってまいります.何卒ご支援賜りますよう宜しくお願い申し上げます.

脚注:
(#1) 今期は2014年11月8~9日に芝浦工業大学にて開催予定. (#2) AKJ TEC: ASME-KSME-JSME Thermal Engineering Joint Conference. (#3) KJ TEFC: KSME-JSME Thermal and Fluids Engineering Conference. (#4) IFHT: International Forum of Heat Transfer. (#5) IHTC: International Heat Transfer Conference. (#6) ISC: International Symposium on Combustion. (#7) JTST: Journal of Thermal Science and Technology. (#8) 熱工学,内燃機関,動力エネルギーシステム (TEP: Thermal, Engine and Power Engineering).

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