熱工学部門長挨拶

第87期熱工学部門長

京都大学 大学院工学研究科
航空宇宙工学専攻
教授 吉田 英生
sakura@hideoyoshida.com

2009年4月8日

 昨日の総会で第87期(2009年度)の熱工学部門長を仰せつかりました。私が勤務する地域では桜が満開のタイミングとちょうど一致しました。生徒や学生が入学式にのぞむような今の気持ちを、これから1年間大切にしたいと思います。

 若い方はご存知ないと思いますが、旧熱工学専門委員会が熱工学部門という形になったのが第65期(1987年度)ですので、今期は部門となってからでも既に23年目に当たります。この間、皆様のたゆまぬご努力によってここまで成長し大きな貢献をしてまいりました当部門について、部門長として新たにどのような抱負をお伝えすべきか、歴代の部門長挨拶を再読して考えてみました。しかし、歴代部門長のご指摘・ご提案はいずれもごもっともなことばかりで、かつそれらの多くは既にかなり実現しています。ために、それらに特に加えるべきオリジナルなことは思い浮かびませんでした。

 そこで、将来への方向性云々ということよりは、もっと身近な、しかし小生には重要と思うこと2点だけに焦点を当てさせていただきたいと思います。

【1】無理がなく量より質の部門活動

 「活性化」の3文字はこれまで何度も繰り返されて来ました。その結果、既に部門活動は十分に活性化していると思います。そこで、あえて申し上げたいのは、社会全体が何かと忙しくなっている昨今、お互いにこれ以上の無理のないようにということです。このように思うのも、第75期(1997年)、土方部門長を私が部門幹事として補佐する体制で活動を開始した直後、土方部門長が急逝された悲しい思い出があるからです。あれから12年経ち、私も当時の土方部門長とたまたま同じ歳になり、その無念さを一段と感じる次第です。「サステイナブル」という語が頻繁に用いられる世の中ですが、部門メンバーの皆様の命と健康こそ「サステイナブル」であることが最重要であると思います。そのためには、ひたすら頑張るだけではなく、「"前向きな"手抜き」という考え方も許容されるような社会であってよいと思います。

 一方、「サステイナブル」といいつつも、社会は相変わらず「量」で動いているような面も少なくないと思います。「サステイナブル」を提唱する環境関係の研究機関から、頼みもしないのに、発表論文を単に束ねた分厚い報告書を送ってくることなどは、その端的な例といえます。いろいろな学会講演会でも多数のオーガナイズド・セッションが繰り返し企画され、オーガナイザーは責任上おおくの論文を募ろうと努力され勧誘メールが飛び交います。これも、やはり量に対するプレッシャーではないかと思います。

 ものごとは「量」でなく「質」であると考える際に、私にはいつも思い出されるシーンがあります。それは、チェロの巨匠Pau Casalsが1971年10月24日に国連で「El cant dels ocells(鳥の歌)」を演奏した際のスピーチです。
http://www.youtube.com/watch?v=rt9iz3xApVg
http://www.paucasals.org/en/-PAU-CASALS-United-Nations-speech
(二つ目のURLに掲載された英文はオリジナルのスピーチとは若干異なるよう ですが。)
そのスピーチは、常人の話す速度の10分の1といっても過言ではないくらい遅くて、かつ短いものですが、早口でまくしたてる他のどのスピーチよりも人の心を打ちます。対象は異なりますが、われわれの活動にも共通する点があるのではないでしょうか。

【2】6000名を越える部門メンバーの連帯感のために

 熱工学部門の登録数は、第1位2,374名、第2位2,093名、第3位1,372名、第4位296名、第5位174名で、これらの合計は6,309名にも達します(2009年2月末現在)。熱工学部門だけで他の中小学会の会員数を凌ぐ場合もあるような大人数です。しかし、このうちのどの程度の皆様に部門としてのサービスや連帯感が行き届いているかと考えると、(調査をしていないこともあり)わからないと言わざるをえません。

 また、しばしば問題になることとして、熱工学部門は大別すると伝熱・燃焼・熱物性の3分野に別れ、その各分野にそれぞれ各学会も存在する結果、それらのうちで一番人数の多い伝熱学会(といっても1000名強)メンバーと重複も多く、とりわけ各種委員会においては、熱工学部門と伝熱学会の区別が曖昧になってしまうことが挙げられます。

 しかし、よくよく考えると上記3学会につき重複を考慮せず単純合計したところで高々3000名程度なわけですから、6,000名を越える熱工学部門登録者の半分以上は上記3学会とは関係のない主に企業の方が多いのではないかと想像します。

 したがって、熱工学部門では、そのような企業の方のニーズをよく勘案した活動が大切だろうと思います。これに関連して、ぜひともご提案したいことがあります。それは、日本の工学関係ではすっかり定着してしまっている
・大学の人間には「先生」
・企業の方には「様」あるいは「さん」
という硬直した呼び方をやめてはどうかということです。(もちろん、師弟関係などで自然に「先生」という呼び方になるケースはそのままで結構だと思います。)

 実は、私が日常的に活動している機械学会の関西支部では、昨秋からこのことを提唱しまして、既にかなり定着しました。個人的には、「先生」と呼ばれることからも呼ぶことからも開放されますと、重いコートを脱ぎ捨て春の陽射しの中で桜を眺めるような爽快感があります。企業の方にとっても、無用のプレッシャーから解放されるのではないかと想像するのですが、いかがでしょうか?

 以上、今後の方向を見通すような見識ある内容でなくて恐縮ですが、今の私がいちばんお伝えしたいことを挙げさせていただきました。皆様のお声にできるだけ耳を傾けて運営にあたらせていただきますので、なにとぞご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。