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2013/04/11

日本機械学会学術誌再編の提案とその経緯

2012年度(第90期)出版事業担当副会長 藤井孝藏
編修理事会および学術誌再編検討委員会

これまでの経緯

日本機械学会は1935年に日本機械学会論文集(以下,和文誌)の発行を開始し,1958年にBulletin of the JSMEと題して英文ジャーナル(以下,英文誌)の発行を開始して以来,誌名の変遷はあるものの和文誌・英文誌ともに連綿と学術誌の発行を続けてきており,英文誌は2006年6月から電子ジャーナルとして一般公開に移行(科学技術振興機構「J-STAGE」に搭載)し,和文誌も2011年1月から電子ジャーナルの一般公開に移行した.和文・英文両誌ともに電子出版が達成され,また,過去の論文も創刊号から電子アーカイブ(科学技術振興機構「J-STAGE」,国立情報学研究所「CiNii」に搭載)されたことにより,これまで78年にわたって蓄積してきた大きな知的財産が世界中のどこからでも自由に閲覧できるようになっている.

しかし,インパクト・ファクター(トムソン・ロイター社が算出する論文誌の指標)の付与が英文誌11誌中の2誌(Journal of Thermal Science and Technology:0.176,Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing:0.205)に留まるなど,和文誌3誌も含めて国際的なサーキュレーションや認知度は高くないのが現状と言わざるを得ない.このような背景から,2011年度(第89期)編修理事会において「日本機械学会学術誌を過去の資産も含めて世界からより多く読んでもらえる学術誌にする」ことを目的に和文・英文誌の再編を検討し,一年前の2012年3月号の会誌上でその考え方を提案した.

本提案に対しては会員から数多くの意見が寄せられた.その結果, 89期から90期の編修理事会へと再編案検討が引き継がれ,編修理事会のもとに学術誌再編検討委員会を発足させて議論を進めてきた.

さらに,昨年9月の年次大会会場での第1回,12月における第2回の「学術誌再編に関する懇談会」において,和文・英文誌の編修委員長,部門長,専門会議・推進会議委員長を交えた意見交換が行われ,修正案の具体化が進められた.これらの会合や部門内での議論の積み重ねによって,説明不足などによる当初の誤解を解くことができ,併せて再編の目的や今後の展開を明確にすることで,関係各位から一定の理解を得ることができた.本提案は,このような経緯を踏まえて作られたものである.

学術誌再編修正案

  1. 日本機械学会学術誌を4誌へ再編する(本会HP上でまとめる場合の総称として,和名「日本機械学会学術誌」,英名「Bulletin of the JSME」を使う).
    • 英文レビュー誌
    • 和文誌
    • 英文誌
    • 英文速報誌
  2. 英文レビュー誌の編修作業は編修理事会のもとに新たに設置する委員会で行い,他の3誌の編修作業は部門または部門合同のもとに新たに設置する委員会(3誌のそれぞれに同じカテゴリを設置する)で行う.
  3. 現行の「再録論文」を廃止する(1論文1業績とする).
  4. 部門が希望する場合は,現行の英文ジャーナル刊行を継続できる.

学術誌再編修正案とその意図

昨年提案した4誌への再編方針自体は変わらない.最初に,和文誌と英文誌を統合誌とする意図について記す.

本会には21の部門と2つの専門会議,1つの推進会議があるが,コミュニティ規模などからそのすべてが独自のジャーナルを持つことは難しい.全体として1つの雑誌とすることで,これら規模の小さな部門が関わる研究分野の論文を「機械」という括りでカバーできるとともに,個別分野の掲載論文数が上下しても発刊への影響を抑えられる.結果として,定期的な刊行を維持でき,外部機関による評価を得やすい状況を作り出すことができる.

次に,それぞれの部門が対象とする分野にはすでに多くの学術誌が存在し,それらとの競争の中で国際的なサーキュレーションや認知度を高めることは容易ではない.学会として「機械」を全面に出すことで,機械学会学術誌の存在感を高めることを目指したい.

再編の大きな意図は以上の点にある.部門に編修を移行して数年での再編は時期尚早という意見もあるが,多数のオープンジャーナルが戦略的にインパクト・ファクターを得るなど,そのサーキュレーションを急速に伸ばしている現状では時間的な遅れを避けることも大切である.なお,昨年の提案では,「他学会と編修協力している部門英文ジャーナルなど,独立した編修が必須なものについては,独自の運営を妨げない」としていたが,修正案ではより幅広に「部門が希望する場合は,現行の英文ジャーナル刊行を継続できる」と改めることで緩やかな移行を目指すこととした.

和文誌と英文誌を統合誌とすることは,機械工学の全分野をカバーして質の高い論文誌とするために必要な措置と認識し,編修作業は基本的に部門(専門会議・推進会議を含む)で行い,複数部門が協調しても構わないとした.「Title History」など,当該ジャーナルの過去の経緯を本会ホームページ上で明示することなどにより,ジャーナルの継続性が一般からも見え易くなるよう工夫する.

英文速報誌は,大学・企業での研究成果をいち早く公開するための技術情報誌と位置付ける.

和文誌も,新たなカテゴリのもとでの編修へと移行し,英文誌,和文誌,英文速報誌の3つを合わせて1つの編修委員会が編修作業を担う.

オリジナルな業績は1論文というポリシーのもと,昨年の提案通り,和・英誌間の「再録論文」制度は廃止する.日本語論文誌であってもインパクト・ファクターを取得するなど高いサーキュレーションを確保しているものがあり,読みたい論文は翻訳しても読む時代に入っている.和文誌のアブストラクトを拡張し,より洗練されたものとすることで和文誌自体の国際的な存在感を高めていく.なお,現行の和文誌の「ノート」は廃止する.

英文レビュー誌は,各分野のリーディングリサーチャーを集めた雑誌にし,そこから積極的に本会学術誌の論文を引用することで,インパクト・ファクター取得など本会学術誌の国際的なサーキュレーションと質の向上につなげていく.

今後の予定

本再編案は理事会で承認され,来期2013年度(第91期)の重要事業として推進する予定となっている.

本事業を推進するにあたり,現在の和文誌の編修委員長,部門(英文ジャーナル)代表者,編修理事会で構成する新学術誌創刊準備委員会を2013年3月に発足させた.この委員会において,英文レビュー誌,和文誌,英文誌,英文速報誌の4誌の名称,カテゴリの設定など再編の詳細,および担当部門の関係,執筆要綱ほかの規定類,創刊日決定など今後必要となる作業を進める予定である.運用中の和文誌・英文誌からの移行措置も同準備委員会で議論する.同準備委員会で決定された再編情報は,本会ホームページや本会誌上で公開することとし,投稿者および読者に混乱を来たさぬよう最大限の努力を払いたい.

この再編に先立って,再録論文に関しては,本年8月末日をもって投稿の受付は終了させていただくことを付記しておく.和文誌・英文誌の投稿規定も順次改定を行うので,情報に注意いただくとともに予めご了解いただければ幸いである.

学術誌の発行は学会の重要な使命の1つである.新規に立ち上げる学術誌の存在感を高めることは容易ではないが,会員諸氏の協力によって,世界的な存在感を有する日本機械学会学術誌の実現を目指していきたい.会員のみなさまには本再編の意義をご理解いただき,積極的なサポートをお願いする次第である.

2012年度(第90期)出版事業担当副会長:藤井孝藏(JAXA),編修理事会:池田英人((株)IHI),金子 真(大阪大学),坂 真澄(東北大学),塩幡宏規(茨城大学),花村克悟(東京工業大学),学術誌再論検討委員会:岸本喜久雄(委員長,東京工業大学),池川正人((株)日立製作所),植田利久(慶應義塾大学),田中英一(名古屋大学)