ロボット共生社会の基礎知識 第8回 世の中と自分を変えるには「ステップバイステップ」
いきなり「スーパーロボット開発!」は無理
このコラムを読んでくれている方は、ロボット技術を使って社会の課題を解決するなど、何らかの変化をもたらしたい方が多いと思います。
では変化を起こすには、どんな方法がいいでしょうか。
一番単純な方法は、ブッチギリで、ものすごい性能のロボットを開発し、現場に投入することです。
いま世界的にヒューマノイド(人間型ロボット)の開発が活発になりつつありますが、もしも人間と同じことができるロボットを十分に安いコストで開発・量産できれば、間違いなく世界を変えることができます。
しばしば「ヒューマノイドは実用には役に立たない」と言われることがあります。ですが、もし、人がやっていることなら何でもできるのであれば、用途は無限です。人がやっている仕事を代わりにやってもらえばいいのですから。「実際には用途がない」のは「いまのヒューマノイド」であって、「将来のヒューマノイド」に有用性がないわけではありません。
ですが現実にはスーパーロボットをいきなり開発することは不可能です。ですから、やれる範囲で、やれるものを作ることになります。
それに、人がやっている作業をそのまま自動化するのは、多くの場合、最適なやり方ではありません。最初から機械を使うのであれば、人手をそのまま置き換えるのではなく、やり方を組み直すことで、新たなより良い方法が見つかることもあります。その面白さは読者の皆さんのほうがよくご存じかもしれません。
改善は、まずは観察・分析から
ではどうすればいいでしょうか。まずは改善したいと思う現場が、モノを作る製造現場であれ、人にサービスを提供するサービス業であれ、その現場で行われている作業、あるいは目的がどんなものであるのかをしっかり観察して、理解する必要があります。
まず単純な方法としては、作業を分割して理解することです。たとえば飲食店であれば、まず大雑把にいって、テーブルに食事を運んできたり片付けたりする作業と、厨房(キッチン)のなかで料理を作る作業に分けられます。そのなかの作業も、さらにより細かく分けることができます。そんなふうに作業を細かく分けていくことで、ぼやーっとしていた捉え方が徐々に具体的になっていきます。ロボットに何か作業をさせようと思ったら、これができなくてはなりません。
より身近な例で例え直すと、たとえば家に帰ったあと、宿題に取り組むまでの過程を細かく分割してみると、自分が実際には何をしているか改めてわかるのではないでしょうか。家に帰ったら、ドアの鍵を開け、「ただいま」と言って靴をぬぎ、手を洗い、カバンを持って移動しますよね。こういうふうに、作業の手順を細かく分けてみるのです。
イメージとしては、まったく事情を知らない人に、一つ一つの作業を漫画にして説明するような感じです。そうすると作業の内容が細かくわかります。漠然と大きくとらえていた作業が、どういう細かい作業の積み重ねでできているのかがわかります。まずは、この作業がとても大事です。
分割して観察すると、意外と細かいちょっとした作業が実はとても重要だと分かるだけではなく、作業の重複や無駄もわかります。たとえば「ここは無駄に歩いてるな」とか「この作業とこの作業を一緒にすれば時間が短くてすむな」といったことが、はっきりわかるようになります。
こうやって作業を分解することができれば、今度は自動化技術を使ってどこが自動化できるのかなと考えるわけです。
もっとも単純なやり方は、各作業をそのまま自動化することですが、作業一つ一つを単純に機械に置き換えると「ピタゴラスイッチ」みたいな複雑なものになってしまいますので、そうではなく、ある程度まとまった単位で自動化するほうが現実的です。
それに、機械が得意な作業と人が得意な作業は別物ですので、適したやり方を探る必要があります。たとえば人が掃除する場合はホウキとチリトリを使いますが、掃除機はモーターと回転ブラシ、ダストボックスから構成されています。
鳥と飛行機はどちらも同じ「飛ぶもの」ですが、やり方は違います。人間の筋肉とモーターとでは特性が最初から違います。人は疲れるような作業が機械には負担が少なかったり、逆もまたあります。というわけで、何かの作業を自動化するときも同じで、たいていの場合は何か違う方法があります。
ただし、どのくらいの作業のまとまりを自動化すると良いのかについては、予算や今後も考えなければなりません。またお店の作業にしろ工場にしろ、スペースには限界がありますので、使える広さを考えて自動化しなければなりません。速度は遅いけれど狭い場所でも使える「協働ロボット」が注目されつつあるのは、こういう理由です。
自動化は条件の組み合わせバランスで
実際の自動化は、これら様々な条件を考え合わせて、できることから、できる範囲で徐々に行われています。以前も申し上げた「トレードオフ」です(第5回 家庭用ロボットの存在感とトレードオフ 参照)。
しばしばメディアで、いろんなロボットを使った新たな自動化が紹介されます。たとえば、アームロボットを使って、そばを茹でたりするロボットもあります。
工場見学などに行ったりして、自動化技術について詳しい人は、「もっと高速で大量に扱える機械もあるのにな」と思うこともあるでしょう。同じようなことは大企業の人もいうことがあります。
しかしながら多くの現場では最速=最適ではありません。いろいろな解決法があることには、それなりの存在理由があるのです。値段、スペースの制限、そして特定の工程だけ速くしても前後がついてこないので意味がない、といった様々な問題があるのです。
変化は「ステップバイステップ」がベター
現場に新たな機械を導入するにしても、いきなり新しいやり方へとガラッと変えてしまうと、受け入れてもらえないことがあります。特に、人が機械を操作しているような現場の場合はそうです。
そもそも、それまでのやり方でちゃんと動いていたものを新しくすると、最初は絶対に色々なことが起きるので、とても大変です。それに、従来のやり方だとベテランだったはずの人が、いきなり「新人」になってしまうようなことが起こるので、現場の人たちは反発しがちです。
自動化の話だけではありません。人はあまり急激な変化は受け入れてくれないものです。SNSの名前や、ゲームの操作方法が急に変わってしまったら戸惑ってしまいますよね。
たいていの場合は「慣れの問題」です。とは言え「慣れ」ができるまでには時間がかかっているわけで、人はそれまで経験を積み重ねた時間が「無」になってしまうようなことは望まないものです。
というわけで、誰もが納得せざるをえないような素晴らしくズバ抜けたやり方がある場合は別ですが、たいていの場合は、徐々に一歩ずつ、「ステップバイステップ」で進めるほうが現実的で、適切なやり方です。
つまり、それまでのやり方に、すんなり馴染みつつ、部分的に新しく、便利にしていく。作業を楽に、より良いものができるようにしていく。そして馴染んでしまうと、あたかも導入前から当たり前にあったように感じられる。そういうやり方がベターです。
また、変化を伴う場合は、現場の人が、すぐにその変化の「ありがたみ」が感じられるようにすることも大事です。これまできつかった作業や、あまりに単調すぎて嫌われていたような作業を自動化するような場合は、これがとても大事です。
身近なところだと、ファミレスの配膳ロボットは、割合そういう例だと言えるのではないでしょうか。家庭用の掃除ロボットもそうです。
現場になじみやすい新たな機械が一度本格的に普及し始めると、今度は、その機械があることが前提となって、現場の工程やレイアウトが組み直されるようになります。こうして徐々に新しい現場に変わっていきます。
個人の日々の成長もステップバイステップで
何かを改善するときにもっと大事なことは、目標を設定することです。生産現場であれば、生産数や速度を上げること、サービス業であれば、サービスの質を上げることが目標です。
もっと広くいうと、「なりたい姿」をイメージすることも、目標設定です。
次に大事なことは、先ほど述べた、現在の状態を正しく、できるだけ正確に理解することです。
「なりたい姿」を思い描き、「現状を理解」することで、その「差」がわかります。その差を埋めるためにどういう努力を積み重ねていくべきか考えることが、次のステップです。
私がご紹介したのはロボットが導入される現場の話ですが、ほぼ同じことは、個人的な成長を目指すときにも言えます。
個人の成長のための努力を積み重ねる上でも、ステップバイステップ、徐々に進めることが望ましいと私は考えています。
いきなりハイジャンプして高い目標を目指すよりも、日々のちょっとした努力を積み重ねる。むしろ日々の目標は、低いレベルで良いのです。それよりも大事なことは「続ける」ことです。
できれば、すぐに結果が帰ってくる、変化がわかる、嬉しさがすぐにわかるようなやり方のほうが継続できます。生産現場の改善も同じだと思うのです。
地道にコツコツと。こう言うとつまらなくなりますが、基本はやはり大事です。ただし、今は高速に成長するための方法も色々ありますので、使える道具は何でも使ってトライしてみてください。合う合わないはやってみないとわかりません。なんでもとりあえずやってみて下さい。時間は若い皆さんの味方です。