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JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。
本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


No.24「き・か・い」とは

日本機械学会第82期企画理事
阿部 栄一(日産自動車(株)常務、総合研究所長)
 


 今年は記録的な猛暑に襲われ、真夏日の最多日数は各地で記録が更新された。更に台風の日本上陸数も記録を更新した。このような高温多湿の夏は2100年には当たり前になるという、ショッキングな計算結果が国立環境研究所から発表され、地球温暖化に関する関心はいやがうえにもますます高まっている。これまで実際にその影響だと疑いたくなるような状況が無かったので、大きな問題だとは頭で分かっていても、実感を伴わなかったが今は違う。地球温暖化の影響であるかどうか判らないが、大きな関心を持たざるを得ないということは間違いない。そしてまた昨日は原油価格がバレル当たり50ドルを超えたというニュースがあって、間接的ながらますます身近な問題として感じる。このような状況で、国際未来科学研究所の浜田さんから「水資源」について話を聞いた。もう多くの方々が世界的な水資源問題については、ご存知と思うが、重要なかだいであるのでまとめてみたい。
世界のウオーター・ストレスの例は、1)米国で干上がる五大湖(毎年、対前年比25cm水位が低下) 2)欧州でバラトン湖の水位低下 3)ロシアでアラル湖が消滅 4)中国揚子江が断流化し、魚の水揚げが1/4になった  などがある。日本では、1)琵琶湖の奇形魚問題 2)ミネラル・ウオーターも汚染 の例があげられる。一方水不足の問題もある。中国では、1)人口100万人を超える主要都市600都市の過半数で飲料水不足 特に北京、天津などの東北部で深刻 2)中国国内の穀物生産の4割を占める北部穀倉地帯での地下水位の急激な低下 3)河北省にはかって1052の湖があったが、今では83しか残ってない 4)上海などでも地下水の枯渇 という例がある。ストックフォルムの国際水研究所の報告によれば、1)今後20年間に必要な食糧生産には現在より24%多い水が欠かせない
2)仮想水の国際取引は避けられない趨勢 3)食料増産技術と節水の組み合わせ 4)汚水の再利用 が必要だということである。別の報告では、1)21世紀半ばまでに70億人が水不足 2)今後20年間で、人類が使用できる水量は現在の2/3に減少 3)飲料水、産業・農業用水不足が社会不安や戦争に発展する危険 4)中東での穀物輸入の増大  というのもある。なぜこのような状況になるのかはクリアではないが、地球温暖化とは間接的に関係しているだろうと想像できる。
私を含めて日本人は、「水は無料で手に入る」と思っている。しかも美味しい水、きれいな水がである。海外旅行に行ったら、生水は飲まないようにと言う注意があるくらいである。しかし世界は、ウオーター・ファンドというのがあって、既に水はビジネス対象になっている。エネルギー、食料の輸入国である我が国は、仮想水という概念を用いれば、もうすでに輸入超大国だそうだ。循環型の社会への転換が叫ばれて久しい。そして将来のエネルギーとして水素が有望視されている。その水素は太陽エネルギーを用いて、水の電気分解で作ることになるが、水がビジネスの対象になるとエネルギー問題でもある。「水は無料で手に入る」という考え方は成り立っていないようである。そして地球環境問題議論の中に「水資源」を入れる必要がある
私は自動車産業に身を置いているが、将来の自動車として「燃料電池車」が有力であるとして、鋭意研究開発を行ってきた。燃料電池に関する技術は我が国が、世界をリードしている。燃料電池を「水技術」とおくと、日本はこの「水技術」では世界の先端を走っている。淡水化用逆浸透膜というような技術がある。
エネルギー、食料、水など生活に密接に関係しているものを輸入に頼っている日本だからこそ、循環型社会実現に向けて世界をリードする科学技術開発を推進しなければならない。機械学会はこの課題を推進する最もいいポジションにいる。一つの新技術にとどまらず、多くの技術をシステム化することが必須であるからである。「き・か・い」を私はこのように解釈する。個々の機械をシステムとしてつないで、循環型社会を成立させる社会システムこそ「き・か・い」である。世界の進歩に貢献するという技術者の思いの実現に絶好のテーマでは無いだろうか。地球環境問題を実感できる現在、水資源問題など関連する問題を整理し、目指すべきシステム「き・か・い」を描くことが要求されている。理科離れ、機械学会の会員数の低下などの問題の解決は、このような壮大なテーマを設定し英知を集めるということから、始まるのではないかと思う。

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Last Update 2004.9.30

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