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本会理事が交代で一年間を通して執筆します。


No.30 『総合科学技術会議議員に就任して思うこと』

日本機械学会第82期副会長
柘植綾夫(内閣府総合科学技術会議議員、元三菱重工業代表取締役技術本部長) 


 機械工学を専攻して以来、もの創り産業で35年間の人生を送ってきた身に、総理大臣から内閣府総合科学技術会議の常勤議員就任辞令が本年1月6日出て、霞ヶ関の住人になりました。
もの創り企業のCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)から国の科学技術投資に関する内閣府のCTO役に職を替えて、早3ヶ月になろうとしています。企業文化と国の行政文化との共通性と相違性に戸惑いと新鮮な驚きとを感じつつ、絶えず知的刺激を楽しみながら頑張っております。

 本年は5年前に策定された第二期科学技術基本計画の最終年度になり、同時に、次の第三期基本計画策定と言う大変重要な年を迎えております。
 国家の赤字財政が続く中でも、科学技術創造立国のビジョンの下、5年間で20数兆円という莫大な金を科学技術コミュニティーは国民から託されているのです。大学の学術研究にはそぐわないとの思想も有るかもしれませんが、"技術振興は国の経営のコストではなく、国創りへの投資なのだ"との思いを強くしているこの頃です。

第三期科学技術基本計画策定に向けて、産業界でのCTO経験に基づき次の私案を披露します。

第2期の反省点
1. 三つの基本理念のもと、シーズ指向の重点"技術"分野から入ったために、投資対象の"技術"の重点化は図れたが、その成果として目指す"国力創り"の具体的な重点化の道は不鮮明のままで進行したと反省される。
2. そのために、国民および産業界から見て、その成果がどのように"国力"に結実するか見えにくい状況のままである。
3. 一方、アカデミア側等の基礎研究実施者も、その成果を国力と産業化まで結びつけるロードマップが不鮮明なままで基礎研究を推進いる傾向が強く、各論では所期の成果を上げつつあるものの、国家投資としての成果にまで結びつける"目的指向型基礎研究"重点化へのインセンチブに欠けた傾向が有る。
4. このあたりに、日本学術会議も指摘する"欧米に比較して科学技術国家投資に対する成果が低い"原因があるように思われる。

第3期基本計画への提言
1. 以上の反省に立ち、第3期基本計画では、第2期計画の基本理念の精神を堅持しつつ、その下に国民が目指す"21世紀国創りイニシアチブ"の具体的目標を設定し、その実現に向けた科学と技術振興投資の一層の"実の有る重点化"を図ることが必要である。
2. 日本が目指すべき"21世紀国創りイニシアチブ"として、下記の4つのイニシアチブを提案する。
 1) 持続型世界構築に貢献するエネルギー・環境技術立国 
 2) 価値創造型もの創り立国の実現
 3) 安全かつ健康長寿で活力有る社会の実現
 4) 豊かな文化を切り開くフロンテア科学技術開拓
3. 各イニシアチブの目標実現手段として、第二期計画で推進した"重点4分野"を中心とした"重要基盤技術群"の更なる振興、およびこれらを社会システムにまで具現化するために必須の"もの創り人材と融合型・統合型技術強化"への重点投資が、第3期科学技術基本計画の主たる柱になろう。

以上が柘植の私見ですが、会員の皆様のご意見をいただきたい。

 絶え間ざる技術イノベーションによるハード・ソフト両面での価値創造型もの創り立国日本創りなどの、"21世紀国創りイニシアチブ"実現には、産業界は数年から5年レンジでの投資に重点を置かざるを得ぬ中、大学は10年レンジでの目的基礎研究投資を、旧国研等の独立法人研究所はその間を埋める研究開発分担といった、三位一体の同時進行型国家戦略的産学官(独法)連携の強化が必要です。

 機械学会及び会員は、上記四つの"21世紀国創りイニシアチブ"実行に向けた各界でのリーダーシップを発揮することを求められています。
特に、各先端要素技術の伸長にとどまらず、"21世紀の機械システム=21世紀の社会システム"との認識の下、"融合型・統合型アーキテクチャー構築能力"を培うコミュニティーとしての活動を強化してもらいたいとの思いを強くしております。
 及ばずながら私も、その実現に向けて頑張りたいと思います。

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Last Update 2005.3.23

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