LastUpdate 2015.5.1


J S M E 談 話 室

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No.136 「既存技術の進歩とパラダイム転換を可能とする革新的技術の実用化」

日本機械学会第93期広報情報理事
佐藤 幹夫(電力中央研究所 名誉研究アドバイザー)

佐藤 幹夫

 私は1975年に研究所に入所以来2015年3月末まで一貫して、ボイラ、ガスタービンなどの火力発電技術に関する研究開発に携わってきました。この間、既存技術の進歩と技術的なパラダイム転換を可能とする革新的技術の実用化の難しさについて考えさせられたことなどを、少しお話ししようと思います。

 第二次大戦後のわが国のガスタービンの歴史は、大戦中に石川島芝浦タービン(株)(現、(株)東芝)が魚雷艇用エンジンとして試作し、地中に埋められていたガスタービンを戦後掘り起こして修理し、運転実験を開始した1949年に始まります。その後、1950年代の黎明期、60年代からの海外技術の導入、それまでの無冷却のガスタービン翼を用いる「第一世代ガスタービン」から70年代の強制冷却ガスタービンを採用した「第二世代ガスタービン」を経て、この60年余のガスタービンの技術進歩には目を見張るものがあります。

 現在では、事業用大型ガスタービンはタービン入口温度が1,650℃級の時代を迎え、既に1,700℃級に向けた国家プロジェクトが進められています。1970年代は2度の石油危機に見舞われ、1978年度から開始されたムーンライト計画(省エネルギー技術開発)の発電技術分野では「高効率ガスタービン」、「MHD発電」および「燃料電池」などの研究開発が実施されました(~1993年度)。

 ムーンライト計画における“高効率ガスタービン”と“複合発電システムの開発”では、タービン入口温度1,300℃、総合熱効率52.3%、出力9.3万kWを達成し、その後のわが国のガスタービン技術進歩の礎となりました。

 ガスタービンは、流体、伝熱、燃焼、計算力学、機械力学、材料、設計、システム、制御、計測などなど非常に幅広い学術・工学分野から成り立つ総合技術ですが、とりわけ、タービン翼などの高温の燃焼ガスに曝される高温部材の冷却技術、耐熱材料などの進歩が、事業用大型ガスタービンの高温化に大きく寄与しました。ご承知のように、事業用大型ガスタービンの動静翼の内部は中空構造となっており、冷却用の空気や蒸気の流路が複雑に配置されているとともに、流路には冷却性能を向上させるための乱流促進リブが設けられるなどしています。しかも、このように複雑な中空内部構造を有する大型タービン翼が精密鋳造により製造されています。また、タービン翼などの高温ガスに曝される部材には、ニッケル基超合金が使われています。ニッケル基超合金は鍛造合金、普通鋳造合金、一方向凝固合金、単結晶合金と進化してきて、その耐熱性は1,100℃以上に達しています。

 事業用大型ガスタービンの高温化による高効率化には、当然のことですが、従来技術をブレイクスルーする多くの要素技術の飛躍的な進歩が不可欠でした。しかしながら、熱力学的にはブレイトンサイクルを採用し、構成材料として金属をベースとするガスタービンの技術的進歩は、従来技術の延長として発展したものと言えると思います。

 ガスタービンでは、ことに出力規模が1,000kW程度以下になると、主に小型である故の構造的制約などから高温部材の冷却用空気量が増大し、ガスタービンの熱効率は急激に低下するため、より一層の高温化による高効率化には、金属材料を用いる限りタービン入口温度の大幅な上昇が見込めないとの考えから、無冷却化が可能なセラミックガスタービンの開発が通産省工業技術院(当時)のニューサンシャイン計画を中心としつつ(1988~99年度)、民間企業においても独自の研究開発が進められました。脆性材料を用いるセラミックガスタービンはガスタービン技術のパラダイム転換を起こす可能性を有する革新的技術と言えると思います。

 ニューサンシャイン計画では、燃焼ガス流路の高温部材(タービン、ブレード、ノズル、燃焼器など)にセラミック材料を用いた300kW級コージェネレーション用再生式セラミックガスタービン(CGT)として、1軸式と2軸式のそれぞれで1,350℃の運転試験が行われ、熱効率42.1%を達成する成果が得られました。

 このプロジェクトでは、優れたセラミック材料が開発され、またエンジンとしても世界をリードする性能を実証することができました。しかしながら、成果を実用につなげるためには、セラミック材料やガスタービンシステムの長時間信頼性の確立とセラミック部材のコスト低減という非常に重要でかつ困難な課題を克服する必要があります。その後のセラミックガスタービンについては、具体的な研究開発の動きは国内外ともに見られない状況にあります。

 ムーンライト計画では前述したように“MHD(電磁流体)発電”の研究開発も行われました。MHD発電は、導電性を持つ作動流体(プラズマ)を、外部から磁界が印可された発電機流路内に流し、ファラデーの電磁誘導の法則に基づいて発生する起電力により発電するものです。MHD発電は、発電機流路内に可動部分がないことから、2,000~3,000℃の高温の作動流体を用いることが可能で、蒸気タービンやガスタービンと組み合わせることにより非常に高い熱効率が期待されます。導電性を有するプラズマには、石炭や天然ガスを予熱空気や酸素富加空気で燃焼させた燃焼ガスに微量のシード物質(カリウムなどのアルカリ金属)を添加したものを用いることができます。すなわち、石炭や天然ガスを用いる高効率なMHD発電は、石油危機後の高効率な石油代替発電としても期待されたのだと思います。MHD発電は、化石燃料を用いる火力技術のパラダイム転換が期待できる革新的技術と言えると思いますが、MHD発電は高温の作動流体を用いるため、電極や熱交換器の腐蝕、プラズマの不安定性、強力な磁界を得るための超伝導磁石が大型化するなどの課題が数多く存在し、現時点では実用化の見通しは立っていません。

 一方、ボイラと蒸気タービンを用いるわが国の石炭火力発電所の蒸気条件は、亜臨界圧→超臨界圧→超々臨界圧へと高圧化および高温化が進み、現在では再熱蒸気温度が620℃にまで達しています。また、さらなる蒸気条件の向上を目指して、A-USC(700℃級先進超々臨界圧)石炭火力発電実用化要素技術開発が国家プロジェクトとして2008年度から開始されています。ボイラ、タービンおよび高温弁などの材料の一部にニッケル基超合金を用いるA-USC開発には、材料開発、部材としての加工技術開発に加え、システム設計技術開発など、難度の高い開発が必要とされます。A-USC開発には難度の高い開発課題を有するとは言え、技術的にはボイラ、蒸気タービンを用いる既存の微粉炭火力の延長上に位置づけられると思います。石炭火力発電技術の変遷を語るには石炭ガス化複合発電(IGCC)に触れる必要がありますが、今回は紙面が尽きましたので、別の機会があればお話ししたいと思います。

 従来にない革新的新技術開発には基礎研究から要素技術研究、実証試験研究に至るまで長期の研究期間が必要とされます。さらに、短期間の実証試験が成功したとしても実用化には、プラントとしての長期信頼性確認やコストの課題などが存在します。発電プラントの場合、原理的には従来技術では得られない熱効率が得られることが明らかであっても、プラントの長期運転信頼性や発電原価が許容可能な範囲でなければ実プラントとして普及することは困難です。一方、革新的新技術開発が行われる間も、既存技術は着実に進歩します。ですから、従来技術とは全く異なる革新的新技術の実用化は、既存技術の高度化、高性能化との時間的な競争だと思います。従来技術の延長では達成できないと思われていた技術がブレイクスルーにより実現可能になった例は、ことにガスタービン技術の変遷を見れば良く理解できます。

 技術者として、従来にない革新的新技術開発に携われることは技術者冥利に尽きると思いますが、これまで、40年間にわたって火力発電技術の進歩、革新を見てきた者として、考えさせられたことを雑ぱくではありますが、以上述べさせて頂きました。

以 上

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