LastUpdate 2016.7.1


J S M E 談 話 室

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JSME談話室「き・か・い」は、気軽な話題を集めて提供するコラム欄です。
本会理事が交代で一年間を通して執筆します。

No.148 「機械学会との関わり」

日本機械学会第94期副会長
風尾 幸彦((株)東芝 執行役上席常務)

風尾幸彦

 自身の会員番号を見ると、日本機械学会に入会したのは学部4年生の頃だったようです。慶応義塾大学機械工学科の下郷先生の研究室で、回転体の水中振動について研究し、卒業論文をまとめていた時期で、あれから既に40年近くが経っていることに改めて気付きました。学会講演会に向けては、予稿をロットリングの製図用ペンを使って手書きで仕上げ、発表の直前には、手書き原稿から写真を撮影し、研究室近くの暗室で現像してスライドに作成した記憶がよみがえります。発表当日はどこかの大学の暗幕で薄暗くされた教室で、スライドを使って必死に発表したのですが、質疑応答の時間になると会場が急に明るくなり、偉い先生方の顔が急にはっきり見えて大変緊張した覚えがあります。

 私と日本機械学会の関わりはそれ以降となるのですが、修士課程を経て、運よく企業の研究開発部門に就職でき、さらには重電機器の開発に従事することができました。学会への参加も比較的自由に許されましたが、さすがに講演聴講だけの出張は行きにくく、興味ある講演会には計画的に講演発表を申し込むようにしていました。企業に勤める技術者にとって、学会活動の良いところは、普段話すこともできない偉い先生方やほかの企業の経験豊富な技術者の皆さんと、対等に交流することが出来ることにあります。講演発表の後に、「君の発表ではこう言っていたけど・・」と話しかけて戴いたり、関連する論文を紹介戴いたりと、得るものが本当に多かったように思います。参画させて戴いた機械力学・計測制御部門では、外国論文を購読して宿泊形式で発表し合う研究会もあり、夜の懇親会ではお酒を酌み交わしながら色々な楽しい話を聞かせて戴きました。

 勤め始めて何年かした後、会社の留学制度を利用して、米国の大学で研究する機会を戴きました。Washington D.C.から車で2時間ほどのVirginia州Charlottesville市にあるVirginia大学で、大学を中心とした街は人口10万人ほどの静かで落ち着いたところでした。ここではGunter教授のところでロータダイナミクスの勉強をさせて戴きました。Gunter 先生は自宅の屋根裏部屋をオフィスに、HPのPC数台を所有して回転体の振動解析をされていました。なぜPCなのか聞いたところ、大型計算機はシステムが代わるたびにプログラムを直さないとならないからと。私もHP-BASICを使って、多重ロータを有するジェットエンジンの振動解析やすべり軸受けに起因する自励振動の過渡応答を計算していました。Gunter教授は企業の技術者向けに講習会や研究会も主催していて、現場における回転機械の振動問題などの事例を多く学ぶことができ、現場で振動問題に取り組む技術者達の話に大変興味を持った覚えがあります。

 日本機械学会にも機械力学・計測制御部門にv_BASEと呼ぶ振動工学データベース研究会があります。これは現場で経験した振動や騒音問題とその解決策の事例をデータベースとして収集する研究会で、企業の技術者からも集めやすいようにと無記名が原則です。とは言っても会社に無断で出すわけにはいかないので、社外発表承認の手続きをとるのですが、最初は「なんでそんな事例を社外に出すのか?」と言われたものです。でも、そのうちに集まったデータベースの実用価値が高いことが理解されるようになりました。まさに現場で起こった活きた事例に多く触れることができ、自社だけでは得られない貴重な事例を学ぶことが出来たと思います。

 昨年度、学会では庶務理事と共に会員部会長を拝命しましたが、ここ10年来の会員数の減少が続いています。その大きな要因は、企業に勤める会員数の減少にあります。私のように企業でも研究に直接関わる部門に所属していれば学会活動もできて会員であることのメリットを大いに享受できるのですが、そうでないと、なかなか大会や講演会に参加する環境に無いのかも知れません。必ずしも研究開発に関わらない企業の技術者も、現場における技術課題や最新技術動向など有益な企画は可能であると考えています。

 日本機械学会が最先端の学術情報の発信源であるのは当然ですが、モノづくりからプラントの運転やメンテナンスの現場においても、世界をリードする技術を強力に牽引して行く姿を期待しています。

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