2020年度 部門長
 栗田 健(東日本旅客鉄道株式会社)

2020年度部門長 就任挨拶
2020年度の活動に向けて

1. はじめに

 2020 年度の環境工学部門長を拝命しましたJR 東日本の栗田です。1 年間、どうぞよろしくお願いいたします。新幹線の騒音・振動低減技術の開発に従事しており、10数年前に環境工学総合シンポジウムで高速新幹線車両の低騒音化に関する発表を行って以来、環境工学部門にお世話になっています。

 新幹線は1964年の東海道新幹線開業以降、継続的に騒音対策が行われていますが、1974年に名古屋新幹線公害訴訟が起こされるなど新幹線騒音問題がクローズアップされ、1975年には「新幹線鉄道騒音に係る環境基準」が環境庁(当時)から告示されました。

 以来さまざまな騒音対策が開発・実施され、騒音レベルは大幅に低減しました。その後も継続的な地上設備対策や環境性能に優れた新型車両の投入等の対策の結果、沿線の環境は改善の傾向にあります。また東海道、山陽、東北および上越新幹線沿線において、主に住宅地域で75 デシベル対策が継続的に行われています。

 交通システムの大量輸送、高速化、サービス地域拡大などにより利便性が向上するとともに、音・振動環境の保全・改善を合理的に実現する技術が、その難易度が高まる中で一層重要になってきています。

2. 環境工学部門の役割

 地域の生活環境に関わる問題から地球環境問題へ目を転じると、記憶に新しいところでは、台風19 号による記録的豪雨とそれに伴う土砂災害や冠水被害が起こりました。地球温暖化(海水の温度上昇)が原因で台風が大型化し、長時間水蒸気を多く含んだ空気が流入し続けたことが原因といわれています。

 またオゾン層の破壊、マイクロプラスチックによる海洋生物の生態系の破壊を含む化学物質による環境汚染などを含め、環境問題は地球規模で解決すべき課題となっています。

 1972 年のストックホルムで開催された「国連人間環境会議」では経済開発と環境の劣化との関係が初めて国際的な議題となり、その20 年後に開催された1992年のリオデジャネイロの「地球サミット」では気候変動の阻止(気候変動枠組み条約)、生物多様性の保護(生物多様性条約)、砂漠化の防止(砂漠化防止条約)の3 条約が合意されました。

 さらに20 年後の2012 年に再びリオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議(リオ+ 20)」では、先進国が途上国を支援する「MDGs(MillenniumDevelopment Goals = ミレニアム開発目標)」をより進化させた「SDGs(Sustainable Development Goals= 持続可能な開発目標)」という考え方が生まれ、2030 年を達成期限とした17 目標と169 のターゲットからなるSDGs が2015 年の国連総会で採択されました。

 それまでは環境と開発の調和という観点で持続可能性を課題としていたのに対し、SDGs は経済・社会・環境の持続可能性を統合的に扱う国際目標であり、「経済・社会開発」と「環境と開発の調和」それぞれで展開してきた取り組みが統合された結果として位置づけられており、その達成には多様なステークホルダーの参加・連携が不可欠です。

 環境工学部門は「騒音・振動の評価と改善技術」、「資源循環・廃棄物処理技術」、「大気・水環境保全技術」、「環境保全型エネルギー技術」をそれぞれ担当する第1 〜第4 技術委員会に分かれて活動していますが、今後は各技術委員会の連携をより強化し、他部門、他学協会、国内外の連携・協力を図り、SGGs 達成に向けて機械学会を先導していくことが求められていると思います。

 気候変動の問題では、2015 年の気候変動枠組条約第21 回締約国会議(COP21)で「パリ協定」が採択され、「産業革命以前に比べて気温上昇を2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という世界共通の目標が掲げられました。

 1997 年のCOP3 で採択された京都議定書では排出量削減義務は先進国にのみ課せられていましたが、パリ協定では途上国を含む全ての参加国に、排出削減の努力を求めています。

 日本はパリ協定を受けて「地球温暖化対策計画」を策定し、2030 年度には2013 年度比で26%削減するとの中期目標とともに、長期的目標として2050 年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す非常に厳しい数値目標を設定しました。このような大幅な排出削減は、従来の取組みによる改善を積み上げて達成するフォアキャスト的なアプローチでは困難であり、高い目標と現状とのギャップを革新的なプロセスで埋めていくというバックキャストのアプローチが重要になります。
こうした高い目標および目標の実現方法に対して学術的な根拠を与えることが、環境工学部門ひいては学会に求められる大きな役割といえます。

3. 2020 年度の取組み

 環境工学部門の第1 位から第3 位までの部門登録者数は、1997 年〜 2000 年にかけてピークアウトし、その後は現在に至るまで減少を続け、2019 年度現在で約2500 名となっています。

 これは少子化等に伴う日本機械学会全体の会員数の減少の影響も大きいと考えられますが、特に環境工学部門においては、企業の会員数の減少が大学関係者等の会員数減に比べて大きく、会員数の維持・増加に向けてより一層魅力のある活動を継続して行くことが必要です。

 環境工学部門は前述のとおり第1 〜第4 技術委員会に分かれて活動を行っており、昨年までに引き続き、各技術委員会の企画・運営による環境技術に関わる講習会や見学会を実施するとともに、将来の会員の裾野拡大に向けて子供向け見学・体験イベントを実施します。前回(IWEE2019)から継続的な国際交流と情報発信を行えるようにするために3 年おきに開催することとなったIWEE(環境工学国際ワークショップ)については、次回2022年開催に向けて準備を開始します。

 情報発信に関連しては、昨年に引き続き、機械学会年次大会2020 において環境技術分野を横断する「先進サステナブル都市」のオーガナイズドセッションを第1〜第4 技術委員会の協力のもと企画しています。一方、部門全体として「先進サステナブル都市・ロードマップ委員会」や「規格・規制委員会」など、部門活動のための委員会も設置されており、これらについても継続して活動を進めているところです。

 部門にとって最大の行事であり、約40 学協会に協賛いただいている環境工学総合シンポジウムは、今年度で1991 年の部門発足からちょうど30 年の節目を迎えますが、高野山(和歌山県伊都郡高野町)の2 つの宿坊を借り切って開催します。
高野山は約1200 年前に空海(弘法大師)により密教の道場が開創された場所で、「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録されています。初日には2019 年3 月に55 年ぶりに4 代目新型車両がデビューした南海鋼索線(高野山ケーブルカー)の運行設備等の見学も企画しています。

 日本の誇る真言密教の総本山である高野山の歴史と文化を感じつつ、最新の環境技術に関する発表と議論ができる場に、是非ともご参加いただければと思います。

4. おわりに

 環境工学部門では、昨年度、「環境工学部門ビジョン2030」の策定を進め、「我が国の世界最高水準の環境技術を基盤にした、地球規模の環境問題への対応や顕在化する開発途上国における環境問題への対応、資源・エネルギーの先進利用への対応、革新的環境技術創成への対応をするための国内外の人や情報が集積する環境工学拠点となることを目指す。」ことを目標としています。

 ビジョン達成に向けて、機械工学の四力学などの基幹部門とは異なる分野横断型の環境工学部門が独自のプレゼンスを高めるとともに、2030年のSDGs 達成に向けて、先進国の大量生産・大量消費社会を見直し、地球環境を守りつつ発展を目指す社会を形成するために、環境工学部門が学術的・技術的支援の役割を十分に果たしていけるよう微力ながら尽力させていただく所存ですので、皆様のご協力、ご支援をよろしくお願いいたします。

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