部門長挨拶

第79期部門長 高田祥三
 
 

FA部門から生産システム部門へ

 FA部門は,第66期(1988年度)に設置されてから12年が経過し,今年度,新世紀 を迎えると同時に第二周目に入りました.1950年代初頭の数値制御工作機械の登 場によってスタートした生産の情報化の流れは,1960年代に登場したDNCでシス テム統合化の方向付けが明確にされ,1970年〜1980年代のFMSおよびロボットに 代表される高度自動化・無人化技術の開発,1980年代の工場内ネットワークの議 論などを経て,1980年代後半にFA,CIMの概念として結実し,一つのピークを迎 えたと思います.このような中で,我が国の製造システム技術を結集し,そのさ らなる発展を目指してFA部門が設立されたものと思われます.

 しかし,90年代に入ると,情報通信技術の飛躍的発達にともなうディジタル化, ネットワーク化の進展の中で,問題を捉える視点がシステム統合からプロセス統 合に移ってきたように思われます.コンカレントエンジニアリング,BPR,SCMと いった様々なキーワードの基本にあるのは,個々の部門や業務の壁にとらわれず に,プロセスの革新,統合を図ることにより,顧客満足という目標をいかにスピー ディに効率よく達成するかという問題意識だと思われます.

 これは,我が国の製造部門が,個々の工程において徹底した改善と無駄の排除を 行うことによりリーン生産方式と呼ばれる製造システムを確立したのと同様の ことを,より視野を広げてサプライ側からカスタマまでの全体プロセスについて 実現しようとしているものといえるかもしれません.しかし,一人の人間が歩い て見て回れる工場内での改善,改革の推進と,工場外,それも最近では世界中に 広がっているプロセスの革新・統合ではその方法論において本質的な違いがあり, そこに情報通信技術の活用の鍵があるという点に最近の課題の特徴があるといえ ます.

 いずれにせよ,工場における製造工程を中心とした問題意識から,顧客に製品 を届けるまでの全プロセス, さらには,その製品の使用,回収,再生・再使用までを含めた製品の全ライフサ イクルにまで視野が拡大していること,および,システム統合からプロセス統合 へと問題を捉える視点も変わってきたということが,生産分野での90年代から現 在に至る大きな流れと考えられます.当部門では,このような潮流の変化を的確 に認識し,必要とされる技術の研究・開発に積極的に寄与しようとしてきました.

 ところが,FAという用語は,依然として製造の自動化・システム化を中心とし た概念を示す用語として使われており,このため部門のスコープの変化に対して 部門名称が必ずしもそぐわないものとなっています.この問題は,昨年度,第78 期の部門運営委員会で福田部門長を中心に検討され,その結果,部門名称を「FA 部門」から「生産システム部門」に変更する案が承認されました.今期の部門運 営委員会では,この決定を再確認し,7月の部門協議会において部門名称の変更 を提案することになりました.おそらく,皆様の手元にこのニュースレターが届 く時点では,部門名称の変更が決定されていることと思います.

 昨今,もの離れ,ソフト化といった言葉が使われることが多くなっているよう に思われます.確かに,本来人々が必要としているのは,生活を豊かにする様々 な機能であり,もの自身ではないという意味においてこれらの表現は正しいかも 知れません.しかし,多くの機能がものを媒介として提供されるという事実は変 わっていません.これからの製造業の役割は,ものを媒介として必要な機能を必 要なときに提供することであり,そのための技術基盤を議論する場として生産シ ステム部門が位置付けられる限り,当部門の重要性はいささかも薄れることはな いと思います.今回の名称変更をきっかけにして部門のさらなる活性化を図り, 会員の皆様の部門活動への参加の意義をより高めることができればと考えており ます.ご協力,ご助言をお願いします.


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Manufacturing Systems Division.