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AIBOの開発からマーケティング〜ロボットエンターテインメント市場創造を目指して

川浪 隆司
ソニー(株)ER事業準備室マーケティング課

商品の概要

  「AIBO」は外部からの刺激や自らの判断により行動する自律型のエンターテイ ンメントロボットである.多様な感情表現や学習・成長機能を持ち,人とのコミュニ ケーションを行うことで全く新しいロボットによるエンターテインメントを標榜する .

  18自由度の関節は,4足歩行(3自由度×4)をはじめ,頚部(3自由度),尾 部(2自由度),及び顎部(1自由度)などの多彩な動きを実現する.内蔵された各 種センサーと自律プログラムは外部からの刺激などに反応したり自己の判断において 行動するなど,あたかも生き物のような振る舞いを「AIBO」にもたらす.また,最新 の人工知能研究の応用による学習・成長機能を搭載しており,人間とのコミュニケー ションを繰り返すことなどにより,反応や活動能力も向上していく.

  商品に用意されているモードは,これら一連の自律的な行動をするモードのほかに ,付属のサウンドコマンダーで指示通りに動かすゲームモードとパフォーマンスモー ドがあり,「AIBOパフォーマーキット」で作成したユーザーオリジナルな動作を 表現することも可能である.

企画の背景

  ロボットの将来像としては,一般的に生産に使われるFA(ファクトリー・オート メーション)ロボット,ビル建築や消防・原子炉の清掃などに使われる3K用ロボッ ト,自律性をもつ介護ロボット,限定された条件下でのお手伝いロボット(ホームロ ボット)などをあげることができるが,弊社はあえてこの分野でのロボット開発には 着手をしなかった."エンターテインメント"を指向する企業文化が背景にあることも 手伝い,自律型で動きの自由度があり,人間とコミュニケーションがとれる遊び=エ ンターテインメントに特化したロボットの開発および市場参入が強みを発揮できる分 野と考えたためである.

  技術的には,情報処理研究(画像認識,音声認識)にはじまるAI(人工知能)と ロボティクスを転用した商品のひとつであり,ロボットというインターフェイスを持 ったコンピューターと捉えている.マーケティング的には,テレビゲームに代表され る2次元のキャラクターが3次元の生活空間に現れるという「バーチャルからニュー ・リアリティ」をキーワードに企画され,手にとって触れることのできるデジタルキ ャラクターの創造を目指した.今後はこのような我々がエンターテインメントロボッ トと呼ぶ娯楽や遊びに徹したロボットを始め,様々な使用用途・目的を持った実用ロ ボット,産業ロボットなどが続々と市場に参入し大きな産業を形成していくものと考 える.

商品のコンセプト

  開発から商品化に至るまでのプロセスの中で最も時間を費やしたのが,商品コンセ プトの策定である.最終的に我々はAIBOを家庭用エンターテインメントロボットと位 置付けた.生活空間において人間と相互作用し,外界からの刺激に対して複雑で多様 な動作・行動をとる.認識・学習機能や感情モデル等を備えている.これらAIBOの基 本的な特徴により,人間が感情移入することが可能となり,"家庭におけるロボット とふれあう喜びや楽しみ"といった全く新しいエンターテインメントをユーザーに提 供することができる.そして,このコンセプトを体現するAIBOが,ロボットによるエ ンタテインメント市場の創造,産業の形成を牽引する商品となることを我々は目指し ていきたい.

  コンセプト策定の際,ターゲットユーザー像を20ー30代のゲーム・おもちゃフ ァン,ロボットファン,ハイテクファン,や好奇心の強い人などに想定し,全体的に は男性が中心となることを念頭においた.ただ実際は,販売後の購入者層は想定して いたよりも多岐に渡っており,女性や子供,特にご高齢の方々に好意的な反応をもっ て迎えられたことは予想外であった.このことはAIBOにはペット的な楽しみ方だけで はない,様々な可能性が秘められていることの証明でもあり,開発スタッフ,マーケ ティングスタッフともに大きく勇気づけれらた.

デザインのポイント

  金属的かつメカニカルで無機質なロボットのイメージを残しつつ,4足歩行の小動 物的な肢体の特徴を融合させることに配慮した.小動物らしく見せるには,その特徴 をいかに効果的に加味するかであるが,静止した状態のデザインよりもむしろ,動い ているときにどう見え,感じられるかに重点を置いた.足の形状,爪先,耳,尻尾, 体勢などが特にこだわった部分である.静止の状態では無機的で冷たい印象があるが ,動きが加わる事で,より一層,ロボットしての愛らしさが増幅されるのである.実 際,静止したデザイン画に拒否反応を示した人ほど,ひとたびAIBOが動き出すと,強 い感情移入をしていくケースが多いようである.静止時の「無機質さ」と動作時の「 ぎこちなさ,あどけなさ」のギャップがデザインにおける成功のポイントのひとつで あろう.

AIBO市場参入後の動向およびユーザー等の評価

  日本とアメリカにおいて1999年6月1日にインターネットによる販売受付を行 ったが,日本ではわずか20分足らずで3000体が完売となった(アメリカは4日 で2000体を完売).購入者は30代男性が大半を占めており,初の家庭用エンタ ーテインメントロボット商品という新しさやユニークさ,動作の愛らしさなどが「A IBO」の魅力と映っているようである.また,再販・追加販売を求める声に応え, 同年11月に受付を行ったスペシャルエディションの販売では,限定生産10000体に対 し,日米欧から13万5000ものオーダーが寄せられ,あらためて市場における強い期待 度を実感させられた.こちらの購入者は初回に比べ性別比で,女性の比率,年齢比で 高年齢層の比率が上昇しており,前述のようにエンターテインメント商品としての可 能性を様々なユーザーが見出し始めていることの証しと考えている.教育現場での活 用など考えるユーザーも現れてきており,今後の商品開発において,如何にこれらユ ーザーの"新しい楽しみ方"を吸い上げて反映させていけるかがヒットする商品を生み 出していくキーとなるであろう.

今後のロボットエンターテインメント市場

  ロボットエンターテインメントという新たなる市場を起こし,軌道にのせ,一大イ ンダストリーの形成へと発展させていくためには,我々自身のたゆまぬ努力の他にも にいくつかの要因が必要となってくるであろう.

  まずは,言うまでもなく「技術革新」である.ご存知のようにコンピューターの世 界における技術革新は,"ドッグイヤー"などという言葉に例えられように加速度的に 発展していく様相を呈している.今後もこの速度は鈍ることなく,むしろ益々スピー ドを増していくことが充分に予想される.我々はこの技術革新のスピードを捉え,商 品開発に速やかに反映させていかなければならない.

  具体的にはCPUの発達,演算処理速度の更なる向上である.これらはコンピュータ ーの未知なるポテンシャルを引き出していくこととなるであろう.前述したように AIBOはロボットというインタフェースを持ったコンピューターであり,外界の刺激( 入力)により独自の行動を起こす(出力)=自律行動を実現する,能動的なコンピュ ーターと捉えることができる.CPUの発達は,この能動性にさらなる可能性と多様性 もたらすこととなる.例えば現行のAIBOでは考えられないような行動をする自律型ロ ボット,びっくりしたら飛び上がる(!?)元気のない人間をみつけたら,慰めの声 をかける(!?),など,今まで以上に濃密な感情移入とコミュケーションを実現さ せることも将来的には夢物語ではなくなってくる.さらにこれら高速度のCPUの安定 した価格での供給体制が整えば,驚くほど高度な能動性を有する商品を驚くほど安価 に市場に導入させることさえ可能になるであろう.

  次に「市場の活性化〜競合企業の参入」である.全く新たな市場とはいえ,「ロボ ットエンターテインメント市場」が活性化し成長するためには,競合企業が参入し健 全な競争関係を築くことは不可欠である.特に,開発当初からソニー1社だけでの市 場拡大は限界があることは強く認識しており,広く開発参入企業に門戸を開いたロボ ット用アーキテクチャー"OPEN-R"の開発発表を1998年に行っている.AIBOの発売 を契機として,このアーキテクチャーへの注目が集まり,様々な企業が賛同してくれ ることが,まずは市場拡大の足がかりとなるのではないかと考えている.

  ロボットエンターテインメントという文化"AIBO"発売の目的は,ロボットエンター テインメント市場の創造や,新しいインダストリー形成であることにかわりはない. しかし,我々が本当に目指していきたいのは,その先にある"エンターテインメント ロボットのある生活と文化の提案"である.過去さまざな技術革新や発明を経て,人 間は豊かな生活を手にして文化を創り上げてきた.歴史が証明しているように"テク ノロジー"は,決して人間を支配するものではなく,人間に仕えていくものであり, 人間はその"テクノロジー"に刺激され創造性を育んできた一面があることも否定はで きない.20世紀の終わりに現れたエンターテインメントロボツトというテクノロジ ーの萌芽が,21世紀,そしてその先の人間の豊かな生活と文化を創造していくこと を確信してやまない.

Last Modified at 2000/6/13