部門長就任にあたって

関西大学工学部機械工学科
教授 多川則男

1.はじめに

 2003年4月から寺山孝男部門長を引き継ぎ、情報・知能・精密機器部門の8代目の部門長をお引き受けすることになりました。これから1年間、三枝省三副部門長(日立)、鈴木健司部門幹事(東大)をはじめ、本部門に設けられている学術・事業・広報各委員会の委員ならびに運営委員・代議員の皆様と一致協力して、部門運営を行っていきたいと思いますのでよろしくご協力・ご支援をお願いいたします。本部門はご承知のように1991年に発足以来、今年でちょうど13年目に入ります。なにか一つの区切りの年でもあるようにも思います。なるほど、部門が主催するIIP学術講演会(学術委員会)、講習会(事業委員会)、ニュースレター発行(広報委員会)等の諸活動も定着して来ているのは事実ですが、もっと会員の皆さんにとって価値があり、多くの皆さんが参加できる活動となるよう、原点に戻ってこの時点でもう一度見直しを進めていきたいと考えています。

2.情報・知能・精密機器部門の現状は

 最初に本部門の最近の活動状況について概観してみることにしましょう。これは私の感じですが、一言で言うと、活動全体がいわば元気がないように思えます。例えば、部門登録の第1位登録者数についてみますと、2000年度982名だったものが、2001年度1008名、2002年度946名と推移しています。ほぼ平行線で、むしろ減ってきています。第3位までの登録者を含めた全体の登録者数においても同様な傾向を示しています。また毎年春に開催しているIIP部門講演会の講演発表数でも毎年50―60件程度で、ほぼ飽和傾向が出ているのではないでしょうか。さらに春・夏、年2回開催している部門主催の講習会における参加者数ですが、もちろん社会的な景気動向や講習会企画の内容にもよると思いますが、こちらも「停滞」していて参加者数20―30名程度で赤字をかろうじて免れているものの、伸び悩んでいる状況がここのところ続いています。しかし一方、本部門が掲げる「情報・知能・精密機器技術」は皆さんご承知の通り、この21世紀に大きく飛躍するポテンシャルを持っている分野と思われますし、また今後の社会の動向を考えると、飛躍しなければならない分野の一つと言えるでしょう。従って学会の部門の持つ3つの役割、すなわち(1)学術研究の活発化、(2)一般社会・産業界への貢献、(3)会員へのサービスの観点から考えますと、今までの活動を見直し、もっと部門を活性化させる必要があるように感じます。そこで次のような施策を中心として部門を運営していきたいと思います。

3.新機軸を取り入れてトランスディシプリナリーな部門への展開を

 本部門は、これまで、ディスクやプリンターを中心とした情報機器技術、精密機構マイクロメカトロニクス、マイクロエネルギー、生物医学工学、機械知能化技術等を取り上げ部門講演会を開催してきています。しかしこれら従来の技術分野のみで十分でしょうか?最近ナノテクノロジー・ナノエンジニアリングの分野が大きな進展を示していることは周知の通りです。特に具体的な応用分野として我々が取り組んでいる超高密度情報記憶分野が注目され、ナノテクノロジーを実用化する有望な分野として、この領域の技術と融合して、新たなマイクロ・ナノシステムの科学と技術が大きく進化してきています。この領域を本部門が取り込む新規な学術分野と捉え、学術講演会等の中に独立したものとして取り込んでいくことは出来ないでしょうか。また情報・知能・精密機器分野でこれからますます重要、深刻となる問題として熱問題があると思いますが、この熱工学分野からのアプローチも新規な分野の一つと考えられます。まだまだ多く考えられると思いますが、いずれにせよ、このような新機軸を大胆に取り入れる議論を部門で行う場を設定していきたいと思います。それにより他領域・他分野の研究者・技術者及び他部門との連携・協創をはかり、まず学術講演会の講演数を従来件数の2倍程度に引き上げ、活性化すること、またそれらに関連した新しい分科会・研究会を立ち上げ、若い人も大いに参加できる環境を整えることが重要と認識しています。そしてそれらの着実な活動を通して、新しい人材を発掘するとともに、本部門を情報・知能・精密「機器」部門から情報・知能・精密「技術」部門として捉え、「トランスディシプリナリーな部門」として展開させていくことが必要であると思います。

4.国際的な情報発信を

 本部門の活動をアクティブに推進して、産業界や一般社会に対して情報発信するとともに、広く国際的にその情報を発信していくことも部門活動としては大変重要な役目と考えています。今年は6月にASMEISPS(Information Storage and Processing Systems)部門との共催で「2003年情報精密機器のマイクロメカトロニクスに関する日本・米国機械学会合同会議」が横浜で開催されます。現在のところ、研究発表数が200件程度集まっています。参加者も日本、アメリカ、韓国、シンガポールをはじめ、非常に多くの研究者・技術者が各国から一堂に会する予定で、活発な討論が繰り広げられることが期待されています。これはASMEのISPS部門との初めてのコラボレーションであります。また同時に部門財政基盤を支える重要な国際会議ですので、会員の皆さんにも是非多数参加いただき、成功させたいと思います。よろしくご協力をお願いいたします。できますれば、この国際会議を今後定期的にアメリカ、日本と交互に開催していくようなものにして行けたら良いのではないかと考えています。このような外国の諸学会との連携による国際会議開催ならびにこれまで作製されている部門ホームページの英語版のさらなる充実等により、大いに国際的な規模で部門活動をアピールしていきたいと思います。

5.会員へのサービスをもっと充実したものに

 本部門に登録いただいている会員の皆さんへのサービスもさらに充実したものにしていく必要性を強く感じています。先に述べましたように、部門が開催する講習会についても最先端の研究成果を紹介するのみでなく、企業での新人教育に対応するような基礎的な内容をじっくり講義形式で行うような講習会もあって良いのではと思います。またIIP部門講演会や年次大会で皆さんに興味を持っていただけるような話題でワークショップやフォーラムを他部門との連携で企画して行くことも考慮していきたいと思います。これらの内容については、部門の学術委員会や事業委員会を中心として検討を進めていきます。それから、ニュースレターや部門ホームページも会員へのサービスとして重要です。今回のニュースレターはニュースレターWeb化の第1号ですが、これに関してはこれから積極的に推進されていくのではないかと思います。今後、広報委員会を中心として検討を進め、ニュースレターの記事内容ならびに発行形態および部門ホームページの充実などをはかることにより、会員の皆さんにとって今まで以上にもっと身近な部門になるよう努力していくつもりです。

6.終わりに

 これからの1年間の部門運営について、日頃部門活動について感じていたことをベースに、思いつくままに運営方針という形で述べさせていただきました。このような基本的な考え方に則り運営していきますが、具体的には今後運営委員会や主査会議で十分に議論しながら進めていきたいと思います。学会活動は会員の皆さんのボランティアをもとに進めていくのが基本と思います。従いまして、会員の皆さんからも率直で斬新なご意見をいただけることを期待しています。少しでも会員の皆さんに部門活動に対して興味をもっていただき、部門が皆さんにとって役に立つものであると感じていただけるよう、1年間前向きに楽しくやりたいと思います。最後に皆さんのご支援・ご協力を再度お願いして部門長としてのご挨拶とさせていただきます。

Last Modified at 2003/2/25