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研究室紹介 東北大学 メカトロニクス講座 計測制御学分野

教授 長南 征二
助教授 田中 真美
助手 王 鋒
機能性材料を使ったセンサとアクチュエータで医療福祉に新風

本研究室では,機能性材料によるセンサやアクチュエータの医学福祉工学への適用,それらに計測・自動制御を組み入れたマイクロ・マクロメカトロニクスの研究を行っています.

研究テーマ
  • 高分子圧電フィルムを用いた触覚センサにより,人間のあいまいな触覚に代わり客観的な情報を得ることで,診断の高精度化・高効率化を目指す.
  • 形状記憶合金をアクチュエータとする尿道開閉用人工バルブを尿失禁治療法として提案し,原因が多種多様な尿失禁の画一的な治療を目指す.
  • 人間の指のような優れた機能を実現するため,ロボットフィンガの機構・駆動・制御,マルチスマート柔軟触感センサ・アクチュエータ,人間の指のセンシング及び把持動作を模擬するためのデータベースの構築などの研究を行っている.

 近年,メカトロニクス技術の発展には目覚しいものがあるが,機械の自動化あるいは人間と機械との協調動作をさらに促進するためには,新しいセンサやアクチュエータの創製が必要である.このためには,例えば従来の材料には見られない機能性材料等の特性を効率良く引き出し,利用することを考えなければならない.機能性材料は今日まで種々提案されている一方で,その応用技術は今だ十分に確立していない.機能性材料のセンサ・アクチュエータとしての応用はこれからの問題であり,その研究は十分な発展性を持つ.

 新しいセンサ・アクチュエータの開発は工学の重要な課題であるが,機能性材料のセンサ・アクチュエータへの応用,特に医学への応用問題は人口の高齢化を迎える現代社会において重要な課題である.機能性材料の設計と創製は材料学者が担う一方で,その応用技術の開発はおもに機械工学者が担当する分野である.材料の利用にあたっては両者の共同研究が必要であり,さらに医学への応用を考えるならば医学者の参画もなければならない.機能性材料の応用は学際問題であり,工学者と医学者の理解・共同研究に貢献するものである.

 本研究室は計測制御に関する教育と研究を行っており,現在インテリジェントロボットハンドの開発,センサやアクチュエータの医学分野への適用,それらに計測・自動制御の組み入れたマイクロ・マクロメカトロニクスの研究を行っている.具体的には,小型ロボット指の機構・駆動制御法の開発,人間の指感覚を備えたマルチスマート柔軟触感センサの開発,前立腺癌・乳がんの触診用プローブの開発,管腔臓器の人工開閉弁の開発に関する研究等を行っている.

 以下に講座の代表的な研究の一部を紹介する.

インテリジェント人工指の開発研究

ロボットハンドによる把持動作の規範となる人間の指ではアクチュエータ機能とセンシング機能が融合されており,それらの相互作用を通して安定かつ多機能な把持動作が可能となっている.人間の指のような優れた機能を実現するため,本講座ではロボットフィンガの機構・駆動・制御,マルチスマート柔軟触感センサ・アクチュエータ,人間の指のセンシング及び把持動作を模擬するためのデータベースの構築等の研究を続けている.図は大変位制御用のサーボモータで駆動されるボールねじ機構と微小力を制御するバイモルフ型圧電素子をアクチュエータとする二本指機構である.

この指には本講座で開発した人間の指感覚を有する柔軟触覚センサが装着されており対象物の違いに依存しない器用な把持動作や対象物の特性測定が可能となっている.


インテリジェント人工指

早期前立腺癌診断用触診プローブの開発

前立腺癌および肥大症の診断は,医師の示指を肛門より挿入して行う直腸内触診法に,超音波探触子を用いた超音波断層法を併用して行うのが一般的である.しかしながら触診は曖昧な人間の指感覚に依存するため,診断の結果は医師の経験に大きく影響され,客観的な評価方法の確立が求められている.本講座では,人間の示指に代わり柔らかさを判別できる触診センサの開発を行っている.具体的には高分子圧電フィルムを他の柔軟材と組み合わせ生体のしこりと硬さを同時に計測する前立腺触診センサの開発を行っている.本センサは人間のあいまいな指感覚に代わり客観的な情報を得る事によって前立腺癌と前立腺肥大症の識別率を高め,前立腺癌の早期発見を容易にするものであり,高齢化社会の健康増進に貢献する.


前立腺癌・肥大症判別用触診センサのセンサ部

触感計測用センサシステムの開発

触感は人間の生活において必要不可欠な感覚であり我々は日常の生活の中で色々なものに触れ,これらを通して生活している.特に指先は単にものに触れるという動作だけでなく,撫でる触るといった触運動をアクティブに行うことによって質感や手触り感などの触感を収集している.

本講座では高分子圧電フィルムを用いた触感センサシステムの開発を行っており,図はその適用例で皮膚表面性状の計測の様子である.開発したセンサを用いて皮膚表面上を擦ることにより出力を得,それを用い信号処理を行い人間の指のセンシング特性を元にしたニューラルネットワーク学習システムと組み合わせること等で手触り感における評価を実現するものである.


皮膚性状触覚センサ

形状記憶合金を用いた人工尿道バルブの開発

尿失禁は快適な社会生活を送る上で大きな障害となるものであり,治療法の確立が強く望まれている.しかしながら尿失禁の原因は多種多様で患者の年齢も小児から高齢者にわたることから,その治療は画一的にいかず大変困難なものとされている.

本講座では尿失禁治療法のひとつとして,形状記憶合金をアクチュエータとする尿道開閉用人工バルブの開発を行っている.具体的には人体に埋め込んで使用するに最もふさわしい形状を有する人工開閉弁機構を設計するとともにその装着性と動作特性を動物実験と臨床実験で確認し,合わせて体外よりエネルギーを非接触で供給する経皮的電力伝送システムを導入し,人工開閉弁機構としての完成を目指している.


SMAを用いた人工尿道バルブ


経皮的電力伝送システムを用いたバルブシステムの動物実験

なお,本講座詳細情報は下記にて公開している.
http://rose.mech.tohoku.ac.jp

Last Modified at 2003/2/25