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垂直磁気記録方式ハードディスク装置の実用化

株式会社 東芝 田中 陽一郎

 近年、モバイル機器に多くの小型ハードディスク装置(HDD)が用いられるようになってきた。代表的なところでは、ノートPC、カーナビ、ディジタルオーディオプレーヤーなどであり、コンピュータ系からコンシューマエレクトロニクス系に拡がりを見せたことが大きな特徴である。特に、1.8型やそれ以下の小型サイズでも数GB以上の記憶容量を持つようになったため、より多くのアプリケーションに使われるようになってきた。このような使途の拡がりは、HDDにとって使用環境の劇的な拡大という点で大きな変化と捉えることができる。小型ポータブルHDDとその応用を更に発展させるためには、小型機器に大容量データを収めるための高記録密度化と、同時に環境条件に対し頑強であることが要求される。磁気記録の観点では、優れた高密度記録特性、信号安定性、設計許容性の高さが、重要なファクターとなる。

 垂直磁気記録方式は、岩崎俊一東北大学名誉教授により、1975年に面内磁気記録限界に関するサーキュラー磁化モードの詳細研究[1]の中で発案され、基本概念と結果は1977年に論文として発表された[2][3]。前述の要求を満たすポテンシャルを有する記録方式として、当社では小型HDDへの垂直磁気記録インテグレーション開発を鋭意進めてきた。

 面内磁気記録から垂直磁気記録への転換は、HDD産業が歴史上初めて経験する記録方式大転換となるため、HDDインテグレーションによりその性能・信頼性上の課題を現実系として研究開発することが重要となる。これまでに、表1に示すようなプロトタイプ[4]とテストHDD[5]を継続的に試作評価した。その結果、高密度記録特性、熱揺らぎに対する信号安定性、など多くの知見を得て、実用レベルに到達した。図1に、垂直磁気記録方式を採用し世界で初めて商品化した1.8型HDDを示す[6]。記録面密度は133 Gbit/in2にまで高められている。表2に、同HDDの主な仕様を示す。

 垂直磁気記録方式のHDDインテグレーションを通し、記録磁化突合せ配置の面内記録方式HDDと比較することにより、反並行に安定結合する磁化配置をなす垂直磁気記録方式の特徴が明確になった。高密度における熱揺らぎに対する磁化安定性は、垂直記録磁化配置に依る特徴であり、スペーシング変動や環境温度に対する記録ロバスト性は、垂直磁気記録方式の挟み込み記録構造と高角形高配向垂直メディア特性に起因する大きな特徴と読み取ることができる。このような垂直磁気記録方式の高密度化に係わる本質的特徴をガイドラインとして、更に高密度記録と安定性を両立達成する非常に多くの機構・デバイス・プロセスに関する高度技術の結晶として、垂直記録HDDの実用化に至ることができた。

  この研究開発成果について、2005年4月4日−8日に名古屋市で開催されたINTERMAG 2005にて招待講演発表を行った。18年ぶりに日本で開催されたINTERMAGで、日本で生まれた垂直磁気記録技術の世界初実用化を報告できたことは、ストレージ技術研究に携わる日本の産業界・学界にとって非常に意義あることと感じた次第である。

参考文献
[1] S. Iwasaki and K. Takemura, An analysis for the circular mode of magnetization in short wavelength recording, IEEE Trans. Magn., vol. 11, pp.1173-1175, 1975
[2] S. Iwasaki, A study for the future of magnetic recording; the possibility of the perpendicular magnetic recording, Abstract of the first topical symposium of Magn. Soc. Jpn., 1977, republished in J. Magn. Soc. Jpn., vol. 1, No.2, pp.5-11, 1977 (in Japanese)
[3] S. Iwasaki, Y. Nakamura, An analysis of the magnetization mode for high density magnetic recording, IEEE Trans. Mang., vol. 13, pp.1272-1277, 1977
[4] Y. Tanaka, N. Nakamura, and K. Watanabe, “Current development status and future prospects of magnetic recording and optical disc technology,” Toshiba Review, Vol. 57, No. 7, pp. 2-7, 2002
[5] Y. Tanaka, Recording performance and system integration of perpendicular magnetic recording, presented at PMRC 2004, 31aC-01, 2004, to be published in J. Magn. Magn. Mater., 2005
[6] http://www.toshiba.co.jp/about/press/2004_12/pr1401.htm

Last Modified at 2005/8/8