引抜き加工の中には,ダイスを特定の位置に固定せず,ダイスに作用する引抜き力を支えるバックアッププレートの上にダイスを乗せてあるだけで,引抜き方向に垂直な方向には固定せず,バックアッププレートの上をダイスが自由に移動できる状態にして,引抜き加工を行う場合がある.あるいは,ダイスが空間上の定位置に保持されてはいるものの,ダイスの軸心方向が自由に変化できるようにして引抜き加工を行う場合もある.例えばダイスを保持しているホルダ自体が直交する三軸のまわりに回転できる機構を有している場合などがこれに当たる.このようにして用いられるダイスをフローティングダイと呼ぶ.このようなフローティングダイは,引抜き加工を受ける前の素材(被加工材)の初期形状不整が著しく,強い曲がりぐせねじれぐせがあり,しかもそれらが不規則であり,ダイスに作用する力が大きく変動する場合,かつ引抜き方向の力ばかりでなく引抜き方向に垂直な方向にも大きな変動荷重が作用することが予想される場合などに用いられる.一般に,このような引抜き方法はいわゆる粗引き加工に利用され,引抜き加工を受けることにより被加工材の長手方向形状は大幅に改善される.