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2018/7 Vol.121

【表紙の絵】
みんな健康マシン
袴田 怜知 くん(当時8歳)

この機械の名前は「エンストターミル」。どんな病気やケガでも必ず治します。スーパーコンピューター50台分の性能があり、原因不明の病気でも情報を入力すると、正確に原因と治療法を診断してくれます。レーザー、薬剤、その他様々な物質を放出して、病気やケガを完治させます。
みんなが絶対に健康になれるマシンです。

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ほっとカンパニー

新東工業(株) 新しい“鋳物”の可能性を未来へつなげる技術力

日本にはこんなすごい会社がある

新東工業の始まりは1923年、豊田式織機の鋳造部門で鋳物製造に従事していた久保田長太郎が、在職したまま「久保田鋳造所」を設立、さらに1926年、豊田自動織機製作所を建設する際に鋳物工場の建設を任されたことにさかのぼる。以降、鋳造機械メーカーとしての道を歩み始めた。当時、欧米ではすでに鋳物製造は機械化が進んでいたが、日本ではまだ手造りの時代、1927年には国産第一号造型機(C-11型)を開発。1934年に同社を創立した。以来、鋳造から始まり、表面処理や環境などへ事業拡大を続けてきた。現在は創業の地・愛知をベースにしながら、世界13か国、27社にその活躍の場を広げている。

事業領域が広がった今も、売上の三割を占めるのは、創業以来の鋳造技術だ。幅広い造型機のラインナップを中心に、砂処理から仕上げまで、プラントをトータルで手がけている。

国産第一号造型機C-11型(1927年)

2017年に機械遺産に認定された。

 

世界進出を大きく進めた三つの技術力

同社の大躍進のきっかけとなったのが、1970年代に開発された三つの技術だった。一つ目が、1972年に開発された「Vプロセス」。砂を樹脂フィルムで挟み込み、真空吸引して造型する技術である。1974年に欧州に紹介されるやいなや、反響を呼び、同社の海外進出の大きなきっかけとなった。そして二つ目が1977年の静圧造型機の発明だ。空気の力と機械力とを組み合わせて砂を固める流気加圧の技術は、世界中で今も「SEIATSU」の名で一般名称となっているグローバルスタンダード技術である。「Vプロセス」で海外への足がかりを作った新東工業は、この「SEIATSU」で、大きく成長を果たした。そして三つ目の2000年に開発された「エアレーション砂充てん」は、低圧のエアで砂を流動化させることで、パターンのポケット部や隅々の細かいところまで、砂を充てんさせる技術。静圧造型機の技術をもとに開発されたもので、欧州の大手メーカーでも採用されている。

「そもそも当時は『海外進出の基本は“技術”であるべきだ』という信念がありました」と語るのは同社執行役員であり、開発本部副本部長の富貴原 信。“ものづくりニッポン”のブランドは皆無の時代である。また、海外で戦うには、技術が最大にして唯一の武器だった。海外進出にあたり、同社は“信頼の経営”というユニークな選択も採った。現地法人の経営を初期から現地に任せたのである。現地を信頼して任せることで、多くの日本企業が海外でも日系企業を相手にする中、同社は現地企業を顧客に多く持っている。

海外用と日本用、製品そのものは変わらない。しかし、大きな違いはその用途にある。海外では同じ用途の鋳物を専門に作る量産型企業が多く、一方、日本では一つの鋳物工場でさまざまな鋳物をつくる多品種少量生産型だ。そのため、機械の設定条件も砂の条件もそれぞれで変わってくる。

しかし、鋳物の難しさはそれだけではない。「製品による変動、形状による変動、ものの大きさによる変動、気温や湿度による変動など、非常に変動要因が多いのです。そこが鋳物に携わる難しさでもあり、面白さでもあります」(富貴原)

エアレーション砂充てん機能を有する水平割抜枠造型機「FCMX」シリーズ。

「大河内記念生産賞」ほか数々の賞を受賞。

 

エアレーション砂充てんの仕組み

 

工場のコンセプトづくりから関わるやりがい

どうしてもオーダーメイドが多いという同社の業務だが、意外にも個々の機械に対する細かい要望はそれほどない。「一番求められているのは、工場システムづくりです。例えば保全しやすいピットレスの工場を作りたい、作業しやすい環境の工場を作りたいなど。工場づくりのコンセプトづくりから参画することも少なくありません」(富貴原)

このことは同社で働く人のやりがいになっている。「関わった工場づくりで先方の担当者が社内で評価されたらうれしいし、作ったラインがグローバルスタンダードになって世界展開されれば、うれしい。そのようなプロジェクトに自分が発言力を持ってリードできた経験は、この仕事のやりがいです」と富貴原が語れば、常務取締役でキャステックカンパニー長を務める久野恒靖は「お客さまのニーズをきちんと表現できた設備を納めさせていただいたときは、自分の工場ができたようにうれしいものです」とつなげた。鋳造事業部長の中本育彦は、入社2年目の失敗談から得た経験をこう話す。「経験が少ない中で任せられた生産ラインづくりで、設備的にはうまくいったが、製品のクオリティは満足のいくものではなかった。結局、お客さまのプラスにならなければ評価はされない。それがこの仕事なのだと気づけた経験が、今の私を支えています」。

 

高精度な自動注湯システム「FVNX」

ベテラン作業員の注湯作業を自動化することで、

作業環境の改善、不良低減、材料歩留まりの向上に貢献している。

 

鋳物の認知度を上げて広がる未来の可能性

鋳物生産のシステムづくりに、同社は古くからトヨタ生産方式を採用し「見える化」に取り組み、問題点や改善点の解消にあたってきた。

鋳物工場には4大テーマと呼ばれるものがある。一つは作業環境、二つ目は非常に低い材料歩留まり、そして、一般的には約5%といわれる不良率、最後が寸法精度である。「これを解決する手段の一つとして、IoTやAIが工程能力の不均一を解消できるツールになるのではないかと考えています」(富貴原)。「今、各工程別にパラメーターのデータを集めています。ビッグデータを解析して、それが製品にどう影響を与えているかを分析すれば、それが不良低減につながり、お客様へのサポートにつながるのではないでしょうか」(久野)

日本の鋳物の生産量の半分は、自動車関連が占めている。今後、EVへのシフトが進む中、鋳物そのもののニーズも半減するといわれている。しかし、新東工業にそれを悲観視するところはまったくない。むしろ、新しい“鋳物”の時代への夢があった。

「鋳物は、古い技術と思われているかもしれません。しかし、優れた振動吸収や熱伝達、一気に目的の形状ができる、低コストなど、いろいろな良さがあります。十分に浸透しているとはいえないその魅力を、機械設計や開発に活かしていただける可能性がまだまだあると信じています。かつて、鋳物からプレスや機械加工に変わっていった時代がありました。しかし、これからはほかの作り方から鋳物に変わる──そのような鋳物の可能性を広げるような付加価値をどんどん上げていきたいと考えています」(富貴原)

同社のスローガンは、「素材に形をいのちを」。これからまだ鋳物は進化し、その進化のために生まれた技術で他の素材も進化させていく。そんな未来を感じた。

(取材・文 横田 直子)

今回、取材にご協力いただいた皆さま(左から、富貴原さん、久野さん、中本さん)


新東工業株式会社

本社所在地 愛知県名古屋市

http://www.sinto.co.jp/

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