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2023/1 Vol.126

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特集 学会横断テーマ「機械・インフラの保守・保全、信頼性強化」

土木学会と日本建築学会の連携活動と土木学会内の横断型活動

中村 光(名古屋大学)

はじめに

(公社)土木学会と(一社)日本建築学会では、社会的な課題解決のために、2021年に連携に関する覚書を締結し学会間連携を進めている。また土木学会内でも、メンテナンスに関する事項をはじめとしてさまざまな分野間の連携を進める横断型活動を行っている。本稿では、土木学会における学会間連携や学会内連携の現状について紹介する。

土木学会と日本建築学会

土木学会は、1914年に設立され(前身の工学会は1879年設立)、現在の会員数は約3万9千人である。土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与することを目的とする学術団体である。また、その特徴としては、橋や堤防などの人工公物や、河川や海岸などの自然公物を対象として、道路法、河川法、港湾法を始め、社会インフラに係わる各種法律と係わることが多いことである。

日本建築学会は、1886年に設立され、現在の会員数は約3万5千人である。建築に関する学術・技術・芸術の進歩発達を図り、もって社会に貢献することを目的とする学術団体である。また、建築基準法と深く関わる分野という特徴がある。

土木学会と日本建築学会の連携活動

土木と建築は、一般には似ている分野と考えられているが、例えば土木分野の橋梁の設計は道路法、建築物の設計は建築基準法に基づくなど、対象とする基準類も異なる。また都市は両分野で扱うが、土木では国土の観点から都市を考え、建築では建築物の範囲を拡げて都市を考える場合が多いなど視点が異なる。このような違いの中で、両分野が連携する必要性は認識されており、日本学術会議では、土木工学・建築学委員会として活動を行っている。学会レベルでは、1994年から土木学会と日本建築学会の正副会長会議を年1回継続的に開催している。また、阪神・淡路大震災や東日本大震災の際には、合同で調査報告を行っている。

このような状況に対し、各地で頻発する大規模自然災害や長引くコロナ禍に対応し、土木インフラや建築、都市の在り方など両分野にまたがる新たな社会課題に対し、より多角的に連携して調査研究していくため、2021年11月に両学会で連携に関する覚書(MOU)が締結された。MOUの内容は、①定期的な交流、②共同で行う活動、③覚書の期間と終了など、の3項目である。定期的な交流に関しては、前述の正副会長会議を毎年開催し、その場において両学会の活動に関して報告を行う、両学会の協力の機会について議論する、共同で行う活動に関して進展を確認することを明記している。共同で行う活動に関しては、連携して取り組むべき課題を正副会長会議で定め、共同タスクフォース(TF)を設置し、両学会の会員に共同TFへの参加を奨励するとしている。覚書の期間と終了などに関しては、覚書の期限は2年間とし、両学会から終了の意思通知がなければ、1年間自動的に延長され、以後も同様とするとしている。

土木・建築連携タスクフォースの活動

共同TFとして、土木・建築連携TFを設置し、2022年5月から具体的な活動を開始した。委員長は両学会からの2名体制とし、土木学会からは上田多門現会長が、日本建築学会からは野口貴文現副会長が勤めている。TF開始時の活動内容としては、継続的に活動をしていく仕組みについて検討するとともに、将来にわたる連携活動の意義を明確にすることと現在の社会課題へ取り組むことを柱とし、(1)連携に対する意識調査WG、(2)土木・建築の社会価値および連携の方向性WG、(3)土木・建築の構造設計の基本作成WG、(4)災害連携WG、(5)カーボンニュートラルWG、(6)DX_WG、(7)広報WGの7つのWGを設置した。

開始した活動の一例を紹介すると、連携に対する意識調査WGでは、現在・将来に対する連携への意識調査を行うことを目的とし、9月中旬に簡単なプレアンケートを行った。土木学会員約3100名、日本建築学会員約2100名、両学会員約330名の計5550名から回答を得ることができた。例えば、今後、土木と建築はどのような内容に対し連携して取り組むべきと考えますか?(三つまで選択可)という問いに対しては、図1のような結果が得られ、安全や快適な生活環境の構築とともに、地球環境への意識が高いことが示された。今後は、アンケート結果の分析を行い、詳細なアンケートを改めて行う予定としている。

図1 アンケート結果の一例

土木学会内の連携活動

地震や台風などの自然災害から人の暮らしを守り、社会・経済活動を支える基盤をつくるとともに、良質な生活空間を実現するための土木技術の対象範囲は広く、学会内でも多様な分野で調査研究活動が行われている。表1に示すように7つの専門分野と一つの分野横断分野に分けられ、29の研究委員会が設置されている。この中で特徴的なのが、分野横断のⅧ分野である。Ⅷ分野は、従来の縦割りの専門分野別の枠に収まらず、専門分野間の連携促進が求められる研究委員会を対象に2019年に設置された。例えば、地震工学委員会は、以前はⅠ分野(構造)内に設置されていたが、地震に関係する調査研究は、地震作用、耐震構造、地盤災害、津波、減災・防災活動、マネジメントなど多様にわたり、構造的な観点だけではない。このように分野間の横断的な活動を意識的に進める体制を作っている。

近年重要性が増し、学会内でも活動が活発化している事項として、社会インフラのメンテナンスがある。土木学会としは、2012年の笹子トンネル天井板落下事故後の2013年に「社会インフラ維持管理・更新の重点課題に対する土木学会の取組み戦略」を公表した。その中で、①社会インフラ維持管理・更新の知の体系化、②人材確保・育成、③制度の構築・組織の支援、④入札・契約制度の改善、⑤国民の理解・協力を求める活動、の5つの重点課題を設定し、メンテナンスに関わる活動を行ってきた。しかしながら、社会インフラの老朽化問題や、近年頻発している豪雨災害・地震災害に対するメンテナンスの重要性に鑑み、2020年度にこれまで個別に活動していたメンテナンス関連委員会を統合し、体系的かつ有機的に活動することを目的に、インフラメンテナンス総合委員会が立ち上がった。総合委員会は、図2に示すような体制で各年度の学会長を委員長とし、学会内の調査研究委員会や学会外のインフラメンテナンス国民会議など各機関とも連携し、インフラメンテナンスに係わる各種活動を統括し、基本問題の検討と提言や、市民協働/啓発・発信活動を行っている。

表1 土木学会の研究委員会一覧

図2 インフラメンテナンス総合委員会

おわりに

社会課題が多様化・複雑化する中で、従来の縦型の検討だけでは不十分な事項や、横連携することで現在だけでなく将来の課題を解決しやすくなる事例が増えていると思われる。土木学会では、他学会との連携を進めるとともに、学会内でも連携を促進する試みを行っている。本稿が、他学会の横断の試みの一例として、機械学会の活動に参考になれば幸いである。


中村 光

◎名古屋大学大学院工学研究科土木工学専攻 教授、

 土木学会 土木・建築連携TF幹事

◎専門:コンクリート工学、維持管理工学、耐震工学

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