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2025/1 Vol.128

表紙:経年変化してグラデーションに紙焼けをした古紙を材料にコラージュ作品を生み出す作家「余地|yoti」。
古い科学雑誌を素材にして、特集名に着想を受け、つくりおろしています。

デザイン SKG(株)
表紙絵 佐藤 洋美(余地|yoti)

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Myメカライフ

多くの方に支えられて

田中 順也〔(株)デンソー〕

 

この度は「固体酸化物セルの機械的信頼性の確立に向けた解析手法の研究」の題目で日本機械学会奨励賞(研究)をいただけたこと、およびMyメカライフ執筆の機会をいただけたこと大変光栄に思います。

本研究の対象である固体酸化物セルを用いた燃料電池/電解装置(SOFC/SOEC)は水素社会の実現における有力技術の一つと考えられておりますが、水素ガスのリークが実用化における課題の一つとなっております。水素は濃度によって可燃性ガスに分類されるため、水素ガスが製品からリークして建屋などに滞留した際、そこに着火源があれば最悪の場合に爆発や火災を引き起こします。将来の水素社会を支えるはずの技術が安心安全を脅かす存在になることは絶対にあってはなりません。

SOFC/SOECでは主に「電気化学反応の心臓部であるセル」と「フレーム・マニホールド外周部のシール部材」がガスリーク防止の役割を担っているため、上述の安全の観点からこれら部品の機械的信頼性の確立が重要となりますが、図1に示すように特にセルは製造から運転に至るさまざまな工程で発生するストレスにより構造的破壊に至る可能性があり、またその要因は明らかになっておらず数値的・実験的解析手法も不足している状況でした。代表的な例を挙げると、複数のセラミック層で構成されるセルはセラミック粉末の状態からテープキャスティング法やスクリーン印刷により成膜され高温で焼結されることで構造体となります。その後、フレームなどのその他部材とともに積層・締結され、触媒の還元工程を経て運転工程に入ります。これらすべての工程での応力要因を把握するには材料力学や熱・流体力学などの機械工学に加えて、セラミック焼結技術、電気化学、固体物理、計算力学といった多岐にわたる専門知識が必要になります。

図1 セル割れの例

これら専門知識や課題の多さに挫折せず本研究を今日まで進めることができましたのはひとえにお世話になった先生方のおかげです。恩師である東北大学大学院工学研究科 附属先端材料強度科学研究センターの橋田俊之先生および佐藤一永先生には材料強度学のSOFC/SOECへの適用について、また博士号の取得から研究者としての心構えまで多くをご指導いただきました。特に会社業務と研究の両立が難しい際には、私のために休日や早朝深夜でも時間を割いてご指導くださいました。また本研究だけでなく地熱発電や全固体電池といったエネルギーに関する最新の研究開発動向について多くの議論をさせていただいたことは大変楽しい時間であり研究活動の源となっております。同大環境科学研究科の川田達也先生および渡辺智研究員、同大環境科学研究科兼島根大学材料エネルギー学部の八代圭司先生には電気化学分野や材料分析について多大なご指導とご協力をいただきました。実験室や実験装置の使用を快く許可していただいたことは本研究の推進において不可欠であり感謝しきれません。また同大工学研究科の市川裕士先生および久慈千栄子先生には、薄膜積層体であるセルの長期強度特性を測定可能な試験手法をご指導いただき、活発な議論をさせていただきました。このように産学での密接な連携が本研究の礎となっております。最後に(株)デンソーの杉原真一博士には別の研究開発を行っていた私を本分野に誘っていただき、また固体酸化物セルに関する基礎技術、サンプル作成や図面の書き方など実務に関してご指導をいただきましたこと大変感謝しております。

現在、世界中でグリーン水素に関する大規模な実証試験が開始されつつあります。将来、本分野の代表的な技術者の1人として、日本が世界をリードできるように、そして携わった製品が環境問題の解決に役に立つ日を夢見て、今後も産学での密な連携を通して本製品の開発に携わっていければと思います。最後に、本賞に推薦いただきました選考委員の皆様に厚くお礼申し上げます。


<正員>

田中 順也

◎(株)デンソー 水素事業推進部 担当係長

◎専門:燃料電池、機械工学

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