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2025/2 Vol.128

表紙:経年変化してグラデーションに紙焼けをした古紙を材料にコラージュ作品を生み出す作家「余地|yoti」。
古い科学雑誌を素材にして、特集名に着想を受け、つくりおろしています。

デザイン SKG(株)
表紙絵 佐藤 洋美(余地|yoti)

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日本機械学会が担う技術者教育

関西支部講習会「構造・強度設計における数値シミュレーションの基礎と応用」

渡辺 誠治〔三菱電機(株)〕

関西支部講習会について

背景

関西支部では、5つの専門部会を軸に、毎年6回の講習会を企画し、多くの会員や一般機械技術者の方々に講習会を提供している。日常の業務ではついつい足下の課題に汲々となりがちであるが、本講習会が広い視野と新しい考え方を学ぶ機会となることを期待している。

2024年度は、オンラインでの講演会開催を4回、また対面での開催を2回実施した。なお、今後の講習会企画については関西支部ホームページに随時掲載されており、ホームページから参加申込を受け付けているため、奮っての申込みをお願いしたい。なお学生員へのポテンシャルアップとして、学生員向けに大変有利な聴講料設定となっている。

本講習会の趣旨

本講習会は、関西支部における材料・材料力学部会(第1部会)が企画・運営し、2年に一度実施される材料力学に関する数値シミュレーションの講義である。数値シミュレーション技術は、複雑化する機械構造物の挙動を把握し、設計の合理化や期間短縮を図るために幅広く適用されているが、目的に合った精度のシミュレーション結果を得るためには、対象物の構造・強度・現象を本質的に理解し、適正にモデリングすることが不可欠である。

そこで本講習会では、構造・強度設計に係る数値シミュレーションに不可欠な基礎知識や理論について分かり易く解説することを目的としている。さらに、産業界における種々の適用例を基に、モデリングや結果の妥当性を考える上での留意点や勘所を具体的に説明する。

これからシミュレーション技術を身につけようと考えている方はもとより、既にある程度の知識や技術を有する方にとっても、スキルアップにつながる絶好の講習会となっている。特に、設計、製造、研究に携わっている若手技術者で製品開発の実務者にとっては、最適な講習会といえる。

前回の講習会実施に対する紹介

2023年度に開催した前回の講習会では、定員100名を上回る103名の方に参加いただき、オンライン開催にも関わらず活発な質疑応答となり、大変盛況であった。また、オンライン講習会の特性が生かされ、参加者は関西地区のみならず日本全国より参加いただいた。参加者からは、以下の通り好意的な意見を多くいただけた。

  • FEMの基本的なところを知ることができたので、今後、式の変換などを学習して理解を深めたいと思う。
  • 解析内での計算を知ることで、実際の現象と解析上の現象の違いを理解することにつながると思うので、理解できるようになりたい。
  • ボルト緩みの原理が分かりやすく、また解析事例もあり、役に立つ内容だった。各種緩み止めに効果があるのか議論になるが、一つの回答を得られた気がする。
  • 解析結果を鵜呑みにせず、解析の仕方など、結果の前提を確認すべきという姿勢に非常に共感した。
  • 複合材料の知見が少ないが、わかりやすい説明のため、理解しやすかった。また、繊維という普段の業務でなじみのないものに対し、取組み事例が勉強になった。
  • さまざまな製品での具体事例を分かりやすく説明いただき活用できることが多く、とても良い講習会であった。
  • 分子動力学は全くの門外漢で理解が難しかったが、潤滑の基本は勉強になった。
  • 他社がどのような解析を行っているか、自社の解析方法が妥当か、といった観点で実例紹介は参考になった。
  • 非常に丁寧な説明で、基本から応用への内容をよく理解できた。今後も機会があれば、是非参加したいと思う。

2025年度の開催案内

本講習会は、2025年度に以下の日程で開催を予定している。また、本講習会の講義9件について、その概要を示す。

日時 2025年5月26日(月) 9:45~17:15
ーーーーーーーー27日(火) 9:30~17:30

会場 オンライン(Webexを利用)

【講義1】構造解析のための数値シミュレーション:基本原理とテクニック

(京都大学 今谷 勝次)

汎用コードに代表されるように、数値解析手法は、機械/機器構造や部品の評価や設計に至るまで、幅広く利用されている。モデル化された構造や材料データ、境界条件など、有限要素法を用いて解にいたる基本原理を説明する。

【講義2】接触・摩擦解析のボルト・ナット締結体への適用

(東京大学 泉 聡志)

有限要素法による接触・摩擦解析は、さまざまな機械要素への適用が可能で、メカニズム解明や性能改善に用いられている。ここでは、ボルト・ナット締結体を中心とした接触・摩擦解析の機械要素分野への応用例を紹介する。

【講義3】FEM解析の留意点と適用事例 (使用済み核燃料輸送容器の衝撃解析)

(カナデビア 岡田 潤)

数値シミュレーションの構造・強度設計への適用事例として、キャスク(原子力発電所で発生する使用済み核燃料を輸送するための容器)の落下衝撃解析を紹介し、精度のよい解析を進める上での留意点を説明する。

【講義4】繊維強化複合材料の数値モデリングとマルチスケール解析技術

(大阪大学 倉敷 哲生)

輸送機器分野では、軽量部材を適材適所に使う最適設計が望まれており、比強度・比剛性に優れる繊維強化複合材料(FRP)の適用拡大が期待されている。そこで、FRPの数値モデリング手法やマルチスケール解析技術を概説する。

【講義5】自動車鋼板スポット溶接部の数値解析シミュレーション手法と部材強度評価への応用

(日本製鉄 上田 秀樹)

スポット溶接では、溶接形成、残留応力、継手強度の評価が重要である。そこで電場-温度場-応力場の増分連成解析によるFEM解析モデルと、溶接部の破断防止策を検討する破断シミュレーション、破断予測手法について説明する。

【講義6】陸・海・空の輸送機器における耐衝突・衝撃設計への数値シミュレーションの適用

(川崎重工業 道上 雅史)

数値シミュレーションで必要精度の結果を得るには、実験結果との整合性に注意する必要がある。ここでは、妥当性確認の留意点について、地下鉄車両の衝突、コンテナ船のスラミング、航空機翼への鳥衝突、の例を基に説明する。

【講義7】接触問題における数値シミュレーションの基礎と機械部品への適用

(兵庫県立大学 鷲津 仁志)

機械部品の接触面において、摩擦係数は最も予測困難なパラメータの一つである。ここでは、ナノレベルからの摩擦予測について、固体潤滑、境界潤滑、流体潤滑のそれぞれに関するシミュレーション技術を紹介する。

【講義8】構造設計における最適設計法の活用

(京都大学 泉井 一浩)

構造の性能を抜本的に向上させるために、最適設計法が広く普及しつつある。本講義では、最適設計法の基礎理論を概説し、トポロジー最適化法を中心とした構造最適化法について、その考え方と実務での活用ポイントを述べる。

【講義9】衝撃シミュレーションに必要な動的材料特性の構成モデルとその高精度化

(伊藤忠テクノソリューションズ 津田 徹)

衝突・衝撃シミュレーションでは、材料の変形特性にひずみ速度依存性を考慮する必要があり、提案される各種構成モデルの適用性を明らかにする。さらに、引張試験の三軸応力状態を単軸応力状態へ補正する手法について説明する。


<正員>

渡辺 誠治

◎三菱電機(株) 先端技術総合研究所 メカトロニクス技術部

◎専門:機械力学、動力学、振動工学

 

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