和文学術誌目次
日本機械学会論文集 掲載論文 Vol.91, No.942, 2025
公開日:2025年2月25日
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/transjsme/91/942/_contents/-char/ja
<材料力学,機械材料,材料加工>
感圧ゲル内部のせん断応力場の可視化に向けた高速度光弾性法の開発
武藤 真和, 小林 和也, 西脇 誠悟, 玉野 真司
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00245
本研究では, 高速度偏光カメラを用いた高速度光弾性法を開発し, 指先動作に伴う感圧ゲルへの応力負荷を評価した.垂直応力負荷装置と高速度光弾性法の複合計測システムを用いて垂直応力と位相差場を同時計測し, 位相差場画像の位相アンラッピング処理を実施した.これにより, 垂直応力と位相差の線形関係から感圧ゲルの応力光学係数を算出できることを示した.また, 本手法により, 感圧ゲル上での「こする」や「つつく」といった繊細な指先動作に伴う動的なせん断応力場を可視化することに成功した.よって, 本手法は, せん断応力場の時間変化を高精度で計測可能な, 新規の非定常・非接触型光学計測ツールとして有用であることを実証した.
<機械力学,計測,自動制御,ロボティクス,メカトロニクス>
未知外乱下における航空機の舵角操作に基づく外乱推定則を併用した非線形モデル予測制御
正岡 大典, 橋本 智昭, 濱田 吉郎
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00103
自律飛行制御システムは, 安全飛行のための重要な技術となっている.自律飛行航空機の制御問題は,非線形性と気流によって発生する外力のような不確実な外乱のために困難である.モデル予測制御は,有限な未来における制御性能を最適化する最適フィードバック制御の一種であり,その性能指標は移動する初期時間を持つ.本研究の目的は,未知外乱下の航空機に対して,操舵角操作に基づく外乱推定則を併用した非線形モデル予測制御を提案することである.数値シミュレーション結果より,外乱が正しく推定されることで,航空機は目標軌道に沿った飛行を達成し,提案手法の有効性が示された.
樹脂加工機械における階層型制御のためのGMV補償器の一設計
菅原 貴弘, 脇谷 伸, 山本 透, 落岩 崇, 富山 秀樹
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00187
近年,効率的な製品開発手法としてモデルベース開発(MBD)が広く用いられている.MBDによる製品開発において,階層型の制御構造が制御システムのアーキテクチャとして提案されている.この制御システムでは,実際のプラントに存在する外乱やモデル誤差によって制御性能が劣化することを軽減するために補償器が導入されている.本論文では,一般化最小分散制御(GMVC)に基づく補償器設計手法を提案する.提案手法は,CARIMAモデルによって表現されるプラントの式誤差の影響を抑制するよう設計されている.さらに,提案手法のノミナル化特性についても議論する.提案手法の有効性は数値シミュレーションによって検証するとともに,階層型制御構造を適用したスライダクランクシステムを用いた実験によりその実用性が示された.
空気ばねを用いた防振機構における積載物特性の推定
中野 健太, 山本 浩, 成川 輝真
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00218
空気ばねの減衰係数を調整可能な可変長部分円弧状スリット絞り構造を拡張した,減衰係数の調整に加えばね定数の大小二段階の切換が可能な構造を見出し,この構造を有する空気ばね2機で支持された2自由度防振機構における積載物の特性の推定手法を提案し,実機試験により質量および重心位置の推定誤差はそれぞれ最大で3%および4%であり,慣性モーメントの推定誤差は最大24%であることを明らかにした.また数値解析により,慣性モーメントの推定誤差が24%の場合に系の共振倍率の増加は最大2%弱であることを明らかにすることにより,推定手法の妥当性と有用性を検証した.
長方形断面を有する円環の面内振動モードにおける固有振動数の予測
篠原 主勲
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00219
本研究では,円環の面内固有振動数を高精度に予測する数理モデルを提案する.Hoppeの予測式を基礎として,湾曲梁理論と実験的検証を統合し,新たな計算式を構築した.薄肉円環および厚肉円環に対して,計算式による理論的予測と有限要素法(FEM)による振動解析との相対誤差を評価した.固有振動モードの次数,または円環壁厚と円環半径の比率が増加するにつれ,従来のHoppeによる計算式では10%から40%の相対誤差があるが,提案する計算式では壁厚が半径の20%程度の場合でも相対誤差が約5%に抑えられる.この計算式は,従来の方法と比べて高精度な予測を可能にし,円環構造の設計の精度向上に貢献する.
巻上機近傍で観測したエレベータロープ変位の逐次的なモード分解によるエレベータロープの横変位推定
泰中 大輔, 三浦 奈々子, 角田 啓斗, 増田 新
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00243
高層ビルでは, 長尺物であるエレベータロープが地震時に非常に大きな振幅で長時間振動し続ける.この振動が収束しなければエレベータは復旧(再起動)できない.しかし, 暗く長いエレベータシャフト内では実際のロープの振幅を観測することは難しく, 経験的に十分振動が収束したと考えられる時間待つ必要がある.本研究では, エレベータロープの振動をリアルタイムで推定する方法を提案しており, この待ち時間を短縮することに貢献できると考えられる.本論文では機械室内の巻上機近傍に設置した1つの変位センサのみを使用した推定手法を提案する.この情報をエレベータロープの各固有振動数成分のみを通過させるバンドパスフィルタに通し, ロープの形状を推定する.この方法は, エレベータロープの詳細なモデルは必要なく, 固有振動数の概算値とロープの長さのみで実現できる.検証解析では, 地震により励起される長さ200mのロープの横揺れを10%程度の誤差で推定することができることを示した.
<設計,機素・潤滑,情報・知能,製造,システム>
工具主軸の静的変位推定を用いた切削力モニタリングの高精度化
高口 順一, 田島 真吾, 吉岡 勇人
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00199
本研究では,モデルアプローチに基づく切削力推定に他のセンサを組み合わせることで,高精度に切削力をモニタリングする方法を提案する.工具主軸に取り付けた加速度センサでは工具主軸の静的変位の計測ができないため,切削力を正確にモニタリングすることが難しい.そこで,モータエンコーダとリニアスケールの相対変位を相対テーブル変位と定義し,これを用いて推定切削力を算出して静的変位を推定する.最終的には,推定した静的変位を用いて,工具主軸側のモデルから正確な切削力のモニタリングを行う.提案方法は切削負荷と加工方向を変化させた加工実験により評価を行い,高精度な切削力モニタリングが可能であることを示した.
<生体工学,医工学,スポーツ工学,人間工学>
VR音響システムの開発とブラインドサッカー選手の複数静止
音源に対する定位能力の可視化と評価
辻 歩, 相原 伸平, 洪 境晨, 劉 超涵, 岩田 浩康
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00147
本研究では,ブラインドサッカー選手特有の音源定位能力を測定・可視化するためのVR音響システムを開発することを目的とした.開発したシステムと実空間との比較から,再現できる音源の空間分解能は左右成分が約-0.120m<x<0.124m,前後成分が約-0.103m<y<0.118mであることがわかった.このシステムを用いて,ブラインドサッカー選手特有の音源定位能力を測定し,個人ごとにヒートマップで表した.音源1個のテストでは,正答率は経験者67.4%,未経験者57.9%であり,経験者の正答率が有意に高かった.未経験者では音源の数が増えるごとに正答率が有意に低下したが,経験者では音源の数が1個と2個の間に差は見られなかった.
体外循環中の「オンライン」かつ「非侵襲的」な血中ヘパリン量モニタリングを目指した緩和時間分布解析
上野 総一朗, 川嶋 大介, 松浦 功泰, 田中 綾, 武居 昌宏
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00208
体外循環中血液のヘパリン量をオンラインかつ非侵襲的にモニタリングするため, ヘパリン量に関する緩和強度Δεm(m:誘電緩和数)を, 電気インピーダンス分光法を用いた緩和時間分布(RTD)解析により抽出した.体外循環実験は, 代謝やヘパリン投与により血液中のヘパリン量が経時的に変化する条件下で行った.mを未知パラメータとするRTD解析を適用し, 循環血液の誘電スペクトルからΔεmを抽出した.その結果, 4つのΔεm(m=1, 2, 3, 4)が抽出された.抽出されたΔεmのうち, Δε3の変動は活性化凝固時間から間接的に推定されるヘパリン量と一致し, Δε3はヘパリンによる血球の凝集やヘパリンと他の血漿高分子との複合体による誘電緩和を反映している.したがって, 血中ヘパリン量モニタリングに重要な計測指標のひとつとしてΔε3が有力であることが明らかとなった.
<交通・物流>
鉄道車両の車輪/レール間の接触位置と横すべりに着目した乗り上がり脱線に対する評価手法
國行 翔哉, 中野 公彦
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00234
本研究では,鉄道車両の乗り上がり脱線に対する新たな評価手法を検討した.車輪/レール間の接触位置と横クリープ率をアタック角で標準化した比横クリープ率を評価指標とし,これらが同一平面上に描く軌跡の通過領域と脱線リスクの関係を車両運動シミュレーションにより調査した.結果,脱線やフランジ乗り上がりの発生有無で各データ群の通過領域に違いが見られた.指標では同じ状態でも,輪軸の左右加速度により脱線の有無が分かれる場合があったものの,提案手法により,従来の脱線係数による走行安全性の評価では危険と判定される場合においても,提案手法により安全と評価できる可能性あることが示唆された.
旅客輸送用途eVTOLにおける最適動力源に関する研究
徳岡 茂利, 山形 与志樹, 狼 嘉彰
https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00256
本研究では,旅客輸送用途eVTOLの動力源に着目し,バッテリー方式とシリーズハイブリッド方式の2つの動力源候補について,「乗客定員」,「運航採算性」,「環境性能」の3つの視点から,最適動力源を選定するアプローチを提案する.提案した手順により,機体開発の初期段階で最適動力源仕様の特定が可能となり,大きな価値を提供する.また,この手順に沿って, 年間利用客数,路線距離,SAF混合比率の組合せからなるシナリオについて最適となる動力源を検討した.結果,SAFを用いない場合は,バッテリー方式は全シナリオの43%で最適動力源と特定され,SAF混合率が50%の場合は,シリーズハイブリッド方式が全シナリオの70%で最適で汎用性の高い動力源として特定された.
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表紙:経年変化してグラデーションに紙焼けをした古紙を材料にコラージュ作品を生み出す作家「余地|yoti」。
古い科学雑誌を素材にして、特集名に着想を受け、つくりおろしています。
デザイン SKG(株)
表紙絵 佐藤 洋美(余地|yoti)