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2025/4 Vol.128

表紙:経年変化してグラデーションに紙焼けをした古紙を材料にコラージュ作品を生み出す作家「余地|yoti」。
古い科学雑誌を素材にして、特集名に着想を受け、つくりおろしています。

デザイン SKG(株)
表紙絵 佐藤 洋美(余地|yoti)

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絶対に絶版させられない!

第三次改著 内燃機関講義 上巻 長尾 不二夫

出水 力

長尾 不二夫 著、養賢堂、1967年発刊

数年前に内燃機関懇話会の酒席で、西脇一宇先生(立命館大学名誉教授)と雑談中に、長尾不二夫『内燃機関講義』が話題になり、大学の教科書としてこれだけの本は書けないということに落ち着いた。内燃機関のバイブル、あるいは古典と言って過言でない本である。

長尾先生は1906年に生まれ、京大の機械工学科を卒業したあと大学に残り、翌年に助教授に任用された。そして、内燃機関講座の初代担任の濱部源次郎教授の後を受け、1941年に35歳で教授に昇任し、長きにわたり斯界のリーダーを務めた。

『内燃機関講義』は学術書であるが、講義という言葉が示すように、公開された講義ノートの役割を持っていた。第二次改著の序に「利用者の標準を大学程度とし、限られた時間内に最も有効に内燃機関全般に亙り、基礎的理論・構造・設計などを正確に理解し、さらに自ら進んで研究する手引きにすることを目的としたものである。」と謳っているように教科書かつ、研究に向けた参考書として書かれている。そのため教科書としては教える人の主張を挟める余地を残し、参考書としては基礎的知識を整理して専門とする分野を自ら開拓できるように参考文献が記載されている。

『内燃機関講義』の改著(バージョンアップ)はほぼ10年ピッチで行われ、時代のニーズに合わない事項は消え、必要とされる事項は加筆されている。初版は『新撰内燃機関講義』のタイトルで1942~43年に上・下巻が発刊されている。第二次大戦で原版が消失し、1949年に新たに上巻が、1952年に下巻が刊行された。『改著内燃機関講義』は航空エンジンの事項が削除され、「ガスタービン」の事項が追加された。小型漁船の手軽な「焼玉機関(セミディーゼル)」の項は加筆されている。長尾先生の生家は瀬戸内(岡山県)の牛窓と聞くが、焼玉機関は沿海を走る小型漁船の動力に欠かせない存在と言える。戦後復興の過程で本来のディーゼル機関に押されて市場から消えた。

1957年の第二次改著では「焼玉機関」の項は削除され、レシプロの航空エンジンの記述が復活した。熱力学的考察部分の細分化、燃焼問題に加えディーゼル機関の排気タービン過給などの事項が増えている。1967年の第三次改著の上巻では吸排気のガス交換の事項が補強され、層状給気エンジン、異常燃焼の分類などの項目が増えた。下巻の第三次改著は未完に終わった。

長尾教授のもとで『内燃機関講義』の3回の改著に深く関わった平子善夫講師は、京大から大阪府立大学(現在は大阪公立大学)に移り、助教授を経て、機械工学第5講座(内燃機関)の教授に就任した。講義は「内燃機関」「ガスタービン」などを持ち、いずれもノート講義だが、『第二次改著内燃機関講義』上巻・下巻に準拠していた。配布された資料は第三次改著に先行していたように思える。「ガスタービン」も下巻に範を求め、適宜配布資料を用いる方式であった。

先日、関西支部のシニア会の総会で、長尾先生から指導を受けていた往年の学生に会い、話を聞く機会を得た。日立造船の重役、舶用ディーゼル機関の大家で1955年頃に京大の学生・院生だった永井將氏である。92歳になられた氏によれば、長尾先生から『改著内燃機関講義』上・下巻で学んだ。下巻に扱われていたフリーピストンガスタービンに興味をもち、博士論文を書く契機になった。しかし、研究を通してフリーピストンはタービンとして将来性のないことが分かり、最終的にそれを証明した論文になったと話された。

長尾不二夫先生の多くの本は、国会図書館のデジタルコレクションから見つけることができた。機械学会も絶版させられない価値ある書籍を、積極的に電子化し永久保存版にすることを国会図書館に働きかけてはどうだろうか。ネット環境さえ整えば何時でも何処でも本の中が見られるようになり、地球上なら同じ条件で勉学でき、学問の活性化に間違いなく寄与すると思われる。


<正員>

出水 力

◎関西支部シニア会運営委員
大阪産業大学 (元)教授 東京大学大学院 (前)客員教授

◎専門:機械技術史、技術経営(MOT)


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