特集 マテリアル分野におけるデータ駆動研究の進展
材料研究を加速するデータ駆動手法:プロセス最適化、最小の実験数で全体を掴む
はじめに
機械学習・人工知能技術の活用による研究革新は、多くの材料研究分野で達成されつつある。特に、「次に行うべき実験条件選択をアシストするアルゴリズム」は、材料研究に対する人工知能(AI for Materials Science)とも呼ぶことができる。適切な実験条件を決められるアルゴリズムとして、ブラックボックス最適化手法がある。この最適化手法では、手持ちのデータから機械学習モデルを構築し、まだ実験していない未知材料に対する特性値を予測することで、次に行うべき実験条件を適切に選択できる。ブラックボックス最適化は多種多様な研究ニーズに対応するために複数の手法が考案され、多くの手法がオープンソースとして公開されている。これらの手法をうまく利用することで、さまざまな材料研究分野で自律駆動型(研究プロセスを人工知能やロボット実験で加速した)材料研究が実施できるようになってきた。そこで、本稿では、研究ニーズに依存したいくつかのブラックボックス最適化手法および、それらを同じプラットフォームで利用できるように整備した自律駆動型材料研究を支援するためのミドルウェアNIMO(1)(2)を紹介する。
まず初めに、ブラックボックス最適化を実施する際に用意するデータセットについて説明する。次に、研究ニーズの異なる3種類のアルゴリズムについて紹介する。一つ目は、良い特性値(機械特性や材料収率など)を得るためのベイズ最適化手法である。これを利用することで、プロセスや材料組成の最適化が実現できる。二つ目は、材料系を理解することを目的とした無目的探索手法である。これは、プロセスや材料組成の最適化を目的とせず、特性値がどのように分布するかを最小の実験数で把握するために考案されたアルゴリズムである。三つ目は、状態図・相図を少ない実験で描くためのアルゴリズムである。これも特性値の向上を狙っておらず、ベイズ最適化では直接扱えない問題である。最後に、これら三つのアルゴリズムを容易に利用できるように整備したミドルウェアNIMOの利用方法を紹介する。
キーワード:特集 マテリアル分野におけるデータ駆動研究の進展
表紙:経年変化してグラデーションに紙焼けをした古紙を材料にコラージュ作品を生み出す作家「余地|yoti」。
古い科学雑誌を素材にして、特集名に着想を受け、つくりおろしています。
デザイン SKG(株)
表紙絵 佐藤 洋美(余地|yoti)