日本機械学会若手の会 第1回技術講演・交流会レポート
機械工学の未来を支える” 知の交差点”へ

日本機械学会若手の会は新たな試みに踏み出した。大学のキャンパスではなく、ビジネスの中心地にあるオフィスを会場に選び、よりカジュアルな雰囲気での交流の場を設けることにしたのだ。
「『機械工学』をキーワードに、分野を超えて交流できる場を作りたい」――。2025年1月20日、日本機械学会 若手の会によるイベント「第1回技術講演・交流会」の冒頭、岡島淳之介委員長(東北大学)はそう語った。東京・大手町のイベントスペース「LIFORK OTEMACHI」に集まった参加者たちのあいだには、新しい形の学会活動への期待感が漂っていた。

最先端技術が織りなす、研究の多様性
午後3時、8名の若手研究者・技術者によるショートプレゼンテーションが始まった。各発表者に与えられた持ち時間はわずか3分。その短い時間のなかで、自身の研究や所属機関の紹介、そして技術的な挑戦について語った。
専門分野の細分化が進むなか、日本機械学会は「機械領域の総合学問の場」としての特徴を持つ。「たとえば『自動車を作る』ということを考えたときに必要となるほぼすべての分野が揃っているのが日本機械学会です」という若手の会運営委員・鈴木悠介氏(東芝エネルギーシステムズ)の言葉は、その特徴を端的に表している。
こうした特徴は、発表内容の多彩さからもうかがえる。転がり軸受の環境負荷低減(関東学院大学・堀田智哉氏)から、風力発電システムの運用・保守(日立製作所・米谷直樹氏)、微小スケールの熱流体工学(東京理科大学・元祐昌廣氏)、さらには車載CO2回収技術、流れ場同定技術 (マツダ・佐藤圭峰氏/中村優佑氏)まで、現代の機械工学が担う幅広い領域をカバーしていた。

午後3時半からは、会場内に設置された8枚のポスターの前で、より詳細な議論が展開された。コアタイムを前半と後半に分けることで、発表者も他の研究者の発表を聞く時間を確保。この工夫により、双方向の学びの場が実現された。
たとえば、電気通信大学の守裕也氏の発表では、イルカの腹部の波打つような動きを参考にした乱流制御の研究が関心を集めた。「抵抗を7割削減できる可能性を見出した」という成果に、産業応用の可能性を探る議論が展開された。
電力中央研究所の深田利昭氏は、再生可能エネルギーの課題解決に向けた取組みを紹介。「再エネ電力は変動が大きいため、安定供給には蓄エネルギー技術が不可欠」と説明。特に高温域での蓄熱材として砂を活用する新しい技術開発に取り組んでいるという。
小松製作所の細田佑樹氏からは、鉱山機械の自動化・遠隔化システムの開発事例が紹介された。特に、2023年に商用化されたICT遠隔ブルドーザーは、建設現場の働き方改革を象徴する技術として注目を集めた。
日立製作所の荒川貴文氏は、1次元シミュレーション技術の開発について説明。「物理モデルと実際の個体差を適切に組み合わせることで、実用的な制御を実現できる」と、理論と実践の架け橋となる技術開発の重要性を強調した。


技術者としての成長を支える場に
夕方5時からは、会場の雰囲気が一変。軽食とドリンクを片手に、より自由な形での交流が始まった。交流会の開始を告げる乾杯の挨拶に立った日本機械学会の風尾幸彦常勤理事は、柔らかな笑顔で会場を見渡し、「自然に楽しんで、輪が広がる会になれば」と若手主体の新しい試みへの期待と支援の意思を示した。実際に、アットホームな雰囲気のなか談笑する参加者たちのあいだでは、新しい「輪」が形作られつつあった。
分野を超えた活発な質疑が行われた本イベント。「普段は接点のない分野の研究者とも率直な意見交換ができる」「企業の方とも気軽に話せるとても有意義な時間となった」「会場が通常の学会のような教室形式ではなくフランクな感じで、会の雰囲気も和やかになっていた」と、参加者からは好評の声が聞かれた。

今回の試みは、コロナ禍で停滞していた若手同士の交流を活性化させる狙いもあった。「コロナ禍では、オンラインでの開催も試みましたが、集客に課題があり、参加者同士が仲良くなりづらいというデメリットもありました。やはり親交を深めるにはオフラインが適しています」。岡島氏は、コロナ禍でイベントの運営ノウハウが引き継がれなくなっていた課題についても指摘する。今回のイベントは、こうした停滞期を経て実現した新しい一歩だった。
「従来の学会よりもカジュアルな形で、より集まりやすい場所での開催を目指しました」と語るのは鈴木氏。「学生さんや若手技術者にとっては、キャリアアップの意識を持つ機会になる。自己研鑽はもちろん、友達づくりの場として気軽に参加してもらいたい」と呼びかける。若手の会が目指すのは、そんな自由度の高い交流の場づくりだ。
若手の会副委員長を務める荒川氏は、「今回は下地づくりとしての第1回目。参加者数の増加よりも、まずはふらっと立ち寄れる雰囲気の醸成を目指していく」と、新しい取り組みへの意欲を示す。若手の会では今後、年1回程度の定期開催を目標に掲げている。
「専門分野の蛸壺化が進むなか、外にホームを持っている技術者は強い。技術者として成長していくために、学会活動が重要なステップになる」という岡島委員長の言葉は、学会活動の本質的な価値を示している。より開かれた学会活動への挑戦は始まったばかりだ。
取材・文 周藤 瞳美
表紙:経年変化してグラデーションに紙焼けをした古紙を材料にコラージュ作品を生み出す作家「余地|yoti」。
古い科学雑誌を素材にして、特集名に着想を受け、つくりおろしています。
デザイン SKG(株)
表紙絵 佐藤 洋美(余地|yoti)