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2025/5 Vol.128

表紙:経年変化してグラデーションに紙焼けをした古紙を材料にコラージュ作品を生み出す作家「余地|yoti」。
古い科学雑誌を素材にして、特集名に着想を受け、つくりおろしています。

デザイン SKG(株)
表紙絵 佐藤 洋美(余地|yoti)

バックナンバー

和文学術誌目次

日本機械学会論文集 掲載論文 Vol.91, No.944, 2025

公開日:2025年4月25日

https://www.jstage.jst.go.jp/browse/transjsme/91/944/_contents/-char/ja

<流体工学,流体機械>

逆圧力勾配下の乱流境界層におけるリブレットによる抵抗低減の実験的検証

野々宮 巧人, 笹森 萌奈美, 望月 信介

https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00231

逆圧力勾配下の乱流境界層におけるリブレットに関する実験的検証を行った.滑面とリブレット面の局所壁面せん断応力を壁面せん断応力直接測定装置で,速度分布及び乱れ強さ分布を熱線流速計で計測した.浮動片要素リップ部の圧力分布の推定から,圧力勾配下における壁面せん断応力直接計測の補正に成功した.β≅0.4の逆圧力勾配下において,9.5<s+<11.6の台形溝リブレットの壁面せん断応力低減率は零圧力勾配下とほぼ等しい.リブレット面上のカルマン定数κは変化しないが,対数法則の切片Cは増加する.リブレットと滑面の乱れ強さの最大値は局所壁面せん断応力を用いて整理できる.リブレット面の乱れ強さが最大値となる位置は,滑面に比べて壁遠方に移動する.

<熱工学,内燃機関,動力エネルギーシステム>

T継手配管における流れ加速型腐食起因の減肉傾向推定手法の構築

渡辺 瞬, 森田 良

https://doi.org/10.1299/transjsme.25-00039

流れ加速型腐食による配管減肉の予測モデル式を用いて,T継手の口径比や流速比,レイノルズ数をパラメータとした減肉分布評価を行った.枝管と主管からの流れが合流する場合,偏流や剥離等の流れの乱れに伴って,測定困難部位であるT継手の曲率部において減肉傾向が顕著になることが分かった.曲率部の空間的な減肉傾向は,配管の設計情報で表現される関数によって整理できることが示唆された.曲率部の減肉量を測定可能領域の肉厚測定データから推定するために,増倍係数なる指標を導入した.増倍係数は,設計情報により相関式化が可能であり,枝管と主管双方向からの流れが合流する場合において最大で1.5程度の値を取ることが分かった.

<機械力学,計測,自動制御,ロボティクス,メカトロニクス>

自己符号化器とスペクトル特性を併用した生産設備の異常診断

坂 風樹, 千田 有一, 種村 昌也, 千野 淳也, 菅谷 真人, 松原 雅春

https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00161

本論文では,周波数スペクトル信号に基づく生産設備の異常検知問題を扱う.一般的な自己符号化器のみを用いた異常検知方法では,共振周波数付近のスペクトルが変化した場合に異常検知性能が劣化するため,パワースペクトルを一定の周波数幅で包括的に取り扱う方法を併用した新しい方法を提案した.実際の設備異常時のデータを用いて提案方法の有効性を検証した結果,共振周波数付近の振幅揺らぎに対してロバストに対応でき,自己符号化器のみを用いた方法よりも高い精度で異常を検出できることが示された.

支持部にギャップを有する機械構造物の耐震設計の余裕に関する試験的検討

皆川 祐輔, 飯島 唯司, 丸山 直伴

https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00211

本研究ではギャップを考慮しない線形評価を基本とする耐震設計の余裕を確認することを目的とする.両端にギャップを有する簡易試験体を用いた加振試験を行い,構造健全性に関連するひずみ,及び衝突時に増加傾向となる応答加速度に着目して分析した.ひずみや応答加速度へのギャップの影響を評価するため,ギャップを最大入力変位で正規化した無次元量をパラメータとして分析した.分析結果からひずみや応答加速度へのギャップの影響を確認し,ギャップを考慮するとひずみは減少傾向となった.よって,ギャップを考慮しない線形評価を行う耐震設計の余裕を確認した.

リーバスドラムにおけるワイヤロープ食い込みによる乱巻き

中山 周一, 清水 健太, 田原 久雄

https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00238

多層巻きドラムにおけるワイヤロープ食い込みによる乱巻きについて,実験的手法により研究した.ドラムにワイヤロープが整列巻きされているように見える状態でも,吊り荷の吊り上げによりロープの食い込みにより乱巻きとなる場合がある.乱巻きはワイヤロープの損傷や,ロープを繰り出せない逆巻き等に至る恐れがある.ワイヤロープに負荷を掛けた状態で巻き取る予備荷重が食い込み抑制に有効であることが一般的に知られているが,リーバスドラムと呼ばれるドラムでは食い込み抑制に必要となる予備荷重が溝無ドラムより小さく食い込み抑制に優れれていることを確認した.加えて,溝無ドラムでは多層にわたる深い食い込みが発生し逆巻きになる場合があるのに比べて,リーバスでの食い込みは1層で起こる.リーバスドラムでの食い込み発生メカニズムは溝無ドラムとは異なり,ドラム上の多層巻きの最上層のロープがまとまって動く現象により食い込みが発生することを明らかにした.

<マイクロ・ナノ工学>

圧電応答力顕微鏡測定における試料表面形状に起因した付加的な応答に関する検討

池本 翔太郎, 安部 正高, 服部 梓, 澄川 貴志

https://doi.org/10.1299/transjsme.25-00034

圧電応答力顕微鏡(PFM)の圧電応答信号に与える試料表面形状の影響を明らかにするために,表面に周期的な山型突起を配置したSi試験片を作製し,PFM測定を実施した.その結果,PFMの面内感度方向と山型突起部の傾斜面方向が平行に近いほど,表面形状の影響を受けた圧電応答が得られた.また,二次元静電場解析によりConverse flexoelectricityの影響は無視できることが示された.さらに,導電性材料のPFM測定を実施し,このような表面形状に依存する付加的な応答は,帯電した表面の静電力によって生じることが示された.以上の結果は,PFM測定における表面形状の影響を評価するための指針を提供する.

<計算力学>

自動運転システムとドライバーの協調制御を目指したリアルタイム集中度計測のための一考察

安部 博枝, Diago Luis, 南畑 淳史, 萩原 一郎

https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00222

システムが運転を担い, 立ち行かなくなると横にいるドライバーに運転を任せる自動運転レベル3では, システムが運転手の集中度を把握できることが望ましい. そこで脳波で得られる集中度を表情分析で得る教師データとして用いるシステムを開発した. 目,鼻,口の配置を手掛かりに顔部を抽出するアルゴリズムを採用し, 提案するホログラフィックニューラルネットワークにファジイ数量化理論を組み込んだFQHNNとLSTMと比較し前者の優秀性を示した. 更に, 被験者によっては, 集中度把握に重要な顔部分が明確になる場合があり, 全パラメータを参照するより重要部分のパラメータだけを利用する方の精度が高い事があることを示した.

<設計,機素・潤滑,情報・知能,製造,システム>

モーターコイルの巻線工程における不良予測に向けた銅線の動的挙動解析

長野 将人, 廣澤 太一, 若松 栄史, 岩田 剛治, 鈴木 寛典, 中上 匠, 田中 崇裕

https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00200

本研究は,モーターコイルの巻線工程での銅線の挙動をシミュレートすることで,巻き直しを必要とする巻き膨らみなどの製造不良を事前に予測することを目的とする.銅線を,複数の質点がバネで連結された離散モデルで表現し,銅線の伸縮,曲げ,ねじりについて弾塑性変形を定式化した.また,計算量を低減するために,シミュレーション範囲を限定し,範囲外からの銅線の供給について表現する手法も示した.提案手法でシミュレーションをした結果,巻き膨らみ現象に対する鉄芯の回転速度と張力の影響が,実現象に即したものであることが確認できた.

流体解析結果の目視評価における視線特徴の抽出と熟練度識別技術の開発

前田 太一, 綿貫 啓一

https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00261

製造業において知識伝承を目的に様々なシステムが開発されている.知識を効率良く伝承するには,システムのユーザの熟練度に合った知識を提示することが有効である.本研究では視線から熟練度を判定することを狙いとし,流体解析結果から渦を探索するタスクにおいて,注視時間,注視回数,視線移動回数,平均瞳孔径を特徴量とし,機械学習を活用した熟練度の推定手法を構築した.熟練者 8 名,中級者 8 名,非熟練者 8 名の視線を計測し,視線特徴量から熟練度に応じた渦探索の特徴を明らかにした.そのうえで,機械学習を用いてユーザの熟練度を推定するモデルを構築し,熟練度を83.1±11.6%の精度にて推定きることがわかった.

<生体工学,医工学,スポーツ工学,人間工学>

短パルスレーザを用いた細胞内アクチンストレスファイバの切断とその収縮および再生挙動の解析

神邊 千穂, 長山 和亮

https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00271

生体内で荷重を担う組織の細胞は,アクチンストレスファイバと呼ばれる収縮性線維構造を持つ.従来,ストレスファイバに関する研究は,その力学特性や収縮特性,力学刺激に対する応答などが報告されてきた.本論文では,細胞構造を支持する上で重要な役割を持つストレスファイバに注目し,これらが物理的な損傷を受けた際の挙動に着目した.すなわち,筋芽細胞の輪郭を形成するストレスファイバを短パルスレーザで切断し,その後の収縮挙動を詳しく調べた.そして,切断したストレスファイバが収縮しながら再生するという興味深い現象を発見した.切断したストレスファイバの収縮挙動は1次遅れ系モデル式で良好に近似でき,切断・収縮後に再生したファイバに比べて,再生しなかったファイバの飽和収縮率と収縮時定数が大きくなる傾向が得られた.このことから,物理的に切断されたストレスファイバの再生は,ファイバ自身の張力や,ファイバ周囲の細胞内構成要素から受ける粘性抵抗の影響を受けていることが示唆された.

<交通・物流>

4自由度アーム機構をアドオンした車いすによる模擬気動車両の乗降検証

竹森 史暁

https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00244

気動車は,車両床へのアクセスは車両乗降口から一段上がったステップ構造となっているため,車いすユーザーにとって気動車の乗降口へのアクセシビリティは著しく低下する.本論文では,車いすユーザーの公共交通車両の乗降移動をアデンドする機構とその制御システムを提案する.本機構は接地アームによる昇降と車輪による走行機能を併用した移動機能を有し,既存の車いすの前後にアドオンする形でそれぞれ2自由度のアーム機構+走行機構から成る.本論文では,この機構を用いて車いす単独による気動車に対する乗降移動の可能性を示すともに,昇段降段の際に生じる躍度を定量的に抑制する段差踏破運動について言及する.

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