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2025/6 Vol.128

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和文学術誌目次

日本機械学会論文集 掲載論文 Vol.91, No.945, 2025

公開日:2025年5月25日

https://www.jstage.jst.go.jp/browse/transjsme/91/945/_contents/-char/ja

<材料力学,機械材料,材料加工>

界面上の応力が一定で特異応力場が存在しない突合せ継手の接着強度用

小田 和広, 三原 誠大, 野田 尚昭

https://doi.org/10.1299/transjsme.25-00025

JISで規定されている接着強度試験方法では,接着試験片に特異応力場が生じるため,接着強度は接着層厚さや端部形状によって変化する.そこで本研究では,一定の界面応力分布を得るために突出し型突合せ継手を提案し,特異応力のない接着強度を実験により新たに求めた.突出し型の接着強度は,接着層厚さhに依存せず一定の臨界応力47.7MPaとして表せることを明らかにした.また,JIS突合せ継手では,h=0.1mmを境に,内部応力による破壊と特異応力場による破壊を区別できることもわかった.特異応力場による破壊の場合,平均応力が突合せ継手本来の強度47.7MPaとなる領域を計算すると,接着端から14.7μmの位置で破壊が発生すると考えられる.

<熱工学,内燃機関,動力エネルギーシステム>

点火コイルの放電情報を用いた内燃機関の失火状態検知技術の開発

助川 義寛, 米谷 直樹, 草壁 亮, 藤山 幸雄, 内勢 義文

https://doi.org/10.1299/transjsme.25-00030

低コストでかつ水素等の非炭化水素燃料へ適用可能な内燃機関の失火検知技術が求められている.本研究では点火コイルの放電状態が燃焼室内の圧力によって変化することに着目し,点火コイルの放電情報を利用した失火状態の検知手法を開発した.本手法では,膨張行程に実施した検知用放電におけるコイル1次側電圧,2次側電流の時系列データから定義した放電特徴量の大きさに基づいて,失火状態と燃焼状態を判別した.検知用放電のタイミングを圧縮上死点後50~80degCA,コイルチャージ期間を0.25msとすることで,高い失火検知精度が得られることが明らかになった.

<設計,機素・潤滑,情報・知能,製造,システム>

有制約最適化問題を対象とした粒子群最適化の一提案(第1報:ベンチマーク問題を用いた基礎的検討)

福原 颯, 勝又 暢久, 荒川 雅生

https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00262

顧客要求の多様化に対応するための、品質向上と設計効率化を両立した設計手法が求められている。特に産業用機器のような生産財の場合には、製品系列の多様性を保ちつつカスタマイゼーションを抑えるために、モジュールに求められる多様性を適切に先行評価できる開発法が必要である。現状、その評価は暗黙的であり、技術継承性も課題である。本論文では、モジュールの多様性を可視化分析して事前評価できる手法を提案し、サーボモータで試行した結果を紹介する。提案手法を用いることで、属人的な手法の標準化や形式知化が期待できる。

運転中の視覚・聴覚警告がメンタルワークロードに与える影響

佐藤 あかね,茅原 崇徳,坂本 二郎

https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00062

有制約最適化問題は現実で頻繁に現れる重要な問題である.粒子群最適化(PSO)はそのシンプルさと効率的な収束性能から,これらの問題に対して広く成功を収めてきた.しかしながら,従来の方法は依然として探索効率に課題を有しており,最適解探索には多大な計算量を要する.本研究では,この課題を解決するため,新しいアルゴリズムとして独立2集団型PSO(I2GPSO)を提案する.このPSOは,既存の制約処理手法,新しい粒子構造,新しい局所探索オペレーターを基調とすることで,効率的かつ安定的な探索を実現する.11個の数値ベンチマーク問題を通じて,I2GPSOの有効性を確認した.

角断面コイルばねに対する実用設計式

田畑 稔

https://doi.org/10.1299/transjsme.25-00031

プレス加工機,金型機械,射出成型機,建設機械および荷重試験機など,大きなばね荷重を必要とする機械においては角断面コイルばね(角ばね)が使用されている.角ばねの設計においては,Lieseckeにより提唱された式が従来から使われて来た.しかし,この式は,ばねのピッチ角が考慮されておらず,さらに式に用いている係数の値をグラフから読み取らなければならない不便さがある.そこで,本報では,FEMの解析結果を用い,グラフからの読み取りを必要とせず,かつ設計計算に用いるのに有用な角ばねの設計式を求めたので報告する.

<生体工学,医工学,スポーツ工学,人間工学>

卓球ラケットとボールの衝突時の相互運動解析

石塚 由奈, 今田 良徳, 野澤 正和, 上林 一彦, 小林 義和

https://doi.org/10.1299/transjsme.25-00035

卓球は,世界中で広くプレーされ,オリンピックでもプレーされるスポーツであるが,卓球台が設置可能であれば,様々な施設で楽しまれるレクリエーションスポーツでもある.卓球の試合中のボールの回転は,観察者やプレーヤーからはほとんど見えないため,十分理解されていない.本研究では,卓球選手が卓球ラケットを通して目,耳,触覚で感じる卓球ボールの回転などの挙動を明らかにすることを目的とした.卓球マシンから発射された様々な回転のボールの回転運動と並進運動を高速度カメラを用いて評価した.様々な回転のボールを地面に対して90度に固定したラケットに衝突させた後,ラケットのひずみを調べた.回転のないボールを自由落下させ,水平に固定したラケットに衝突させた.ラケット先端とラケット中央に衝突したボールのひずみ値を高速フーリエ変換解析した.また,衝突前後のボールの運動エネルギー値を比較した.その結果,ラケットに衝突した後のボールの回転数が減少していることが示された.また,インパクト後のボールの並進速度は低下した.回転のあるボールをラケットで打撃すると,グリップのひずみによる振動がある時間(0.2秒)持続する.ラケット中央でボールが自由落下した場合,ラケット先端でボールが自由落下した場合よりも振動は小さくなる.プレーヤーはボールの回転を目や耳で感じるだけでなく,グリップ部の振動の強さに関連した情報として感じていると考えられる.ラケットの振動形状は,ボールがラケット中央に当たった場合とラケット先端に当たった場合で異なり,ボールがラケット中央に当たった場合の方が振動が小さいため,高速,高インパクト,高回転などのボールを巧みに返球することができる.

オプティカルフローとエッジ検出を利用した歩行動画像における踵接地およびつま先離地フレームの検出手法の提案

小林 潤也, 中沢 信明

https://doi.org/10.1299/transjsme.25-00049

本研究では歩行者のプライバシーに配慮した足元動画像から,ステップ長や歩行速度などの歩行特徴を抽出するために,踵接地とつま先離地フレームの検出,ならびに踵接地位置の抽出手法の提案を行った.ここではオプティカルフローとエッジ検出を利用して歩行者の足を画像内から抽出した上で,オプティカルフローにより加速度場を推定することで踵接地フレームを検出し,静止している領域を利用することでつま先離地フレームを検出した.また,同じく静止領域を利用することで,踵接地位置を検出した.複数のカメラ方向条件を設けた歩行実験の結果,すべての条件において踵接地とつま先離地フレーム検出,踵接地位置抽出のF値が80 %を上回った.

<交通・物流>

自動速度制御装置による制限速度遵守が対自転車の出会い頭事故発生の低減に与える効果)

髙木 裕太, 齊藤 裕一, 伊藤 誠

https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00201

交通事故死者の約半数は歩行者と自転車の利用者である.また,制限速度超過は交通死亡事故に係る道路交通の懸案事項の一つである.交通事故削減のため,自動速度制御装置(ISA)の利用が検討されている.本研究の目的は,ドライブレコーダデータを活用して,自動速度制御装置の使用が対自転車事故発生の低減に与える効果を分析することである.事故低減効果の分析には,制限速度30 km/hの見通しの悪い交差点のデータを使用し,自動速度制御装置が自車速度を制限速度に抑える制御を行うことを仮定した.分析の結果,制限速度超過かつ安全マージン不足データ129件中100件(78 %)のデータにて安全マージンの不足が解消された.

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