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2025/6 Vol.128

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特集 母国語で学術論文を書く意義

「機械の研究」歴史と役割

及川 雅司〔(株)養賢堂〕

「機械の研究」の変遷

「機械の研究」誌は、機械工学分野の最前線の知見を発信する目的で創刊された。その歴史は深く、創刊当初から学術界との密接な関係を築き、数々の重要な研究成果を世に送り出してきた。本誌は、技術者や研究者にとっての知識共有の場として機能するとともに、日本国内の技術革新を支える重要な役割を果たしてきている。

創刊号

弊誌「機械の研究」は、1949年に創刊された(図1)。戦後間もないこのころ、日本では戦後初の特急列車「へいわ」の運行が開始(1)され、湯川秀樹氏が日本人初のノーベル物理学賞を受賞しており(2)、日本国内における研究や開発において、大きな進展があったことがうかがえる。

創刊号に掲載された「創刊のことば」には、『何としても真先に手をつくべきこと、そして効果がたしかに期待できることは、学問と実地とをもっと緊密につなぐことだと思います。(中略)また書き方は従来の学術雑誌に見受けるような、ひとりよがりの数式羅列を避けて「如何にして難解の理論をすらすら頭にはいるように記載するか」という点に意を注いで、機械工学の実用化につとめると共に、技術教育のあたらしいゆき方に心をとめて編集いたす考えです。』と述べられている。「学問と実地を緊密に繋ぐ」や「難解の理論をすらすら頭にはいるように記載する」といったことについては、創刊当初から現在の77巻まで変わらぬ思いで刊行している。

*:一部現代語として読みやすく修正

図1 「機械の研究」創刊号の目次

第77巻を迎えて

「機械の研究」は、2025年で第77巻を迎えた。前述したとおり、その役割や編集方針は一切変わっていない。ただ、時代はオープンアクセスであったり、英語論文が評価されたりする状態となっている。確かに、英語で論文を執筆し、世界から評価される形で発表することは重要である。

一方で、母国語ではない英語で執筆し、ときにはAIに翻訳させ、さらにはネイティブチェックを受けて掲載しているケースも多い。すべてではないが、そのような執筆状況であれば、本当に正しく伝わっているかもわからないし、読みづらい可能性すらあるだろう。

このようななか、弊誌では全編日本語で掲載することを加速させている。図版ですらもほぼすべて編集部で日本語に修正し掲載している。いかに「難解の理論をすらすら頭にはいるように記載するか」ということを達成するためである。

また、掲載する記事は、研究の細分化や高度化に合わせて、必ずしも「機械」だけにとどまらないようにしている。他分野の研究から着想を得ることも期待して、統計や品質工学、その他あらゆる科学技術分野の記事を掲載することにしている。オムニバス形式となるように留意して編集している。

読者ならびに執筆者にもこれらの事項を共有し、ご理解いただき、少しでも目を通していただくことを期待している。

母国語で学術論文を書く意義

母国語で学術論文を書くことには、いくつかの重要な意義がある。まず、技術や学術知識の普及という観点から、専門的な知識をより広い層(他分野の研究者や開発者)に伝える手段となる。英語が国際的な学術言語としての地位を確立している一方で、母国語で執筆された研究成果は、国内の若手研究者や学生が学びやすい形で提供されるため、学術教育の質を向上させることが期待される。また、文化的視点からみると、言語そのものの保存や発展にも寄与する。技術用語や概念が母国語に翻訳・体系化されることで、その言語の技術的表現力が向上し、結果的に社会全体の技術的・学術的なリテラシーが向上する可能性がある。

おわりに

「機械の研究」誌の編集長として、これまでの歴史を振り返りながら、母国語で学術論文を書く意義を改めて考えることは、非常に意義深い。本誌が果たしてきた役割は、単に情報伝達に留まらず、国内の学術環境における架け橋としての責任を担ってきたといえる。そして、母国語での論文執筆が未来の研究者や技術者を育む上で不可欠であることも明確である。このような視点を通じて、本誌がこれからも機械工学分野における知の中心として発展し続けることを願い、編集方針を進めていく所存である。


参考文献

(1)昭和を駆け抜けた超特急, 厚生労働省,
https://www.mhlw.go.jp/content/12101000/001236147.pdf(参照日2025年4月1日).

(2)湯川秀樹とは, 大阪大学,
https://www-yukawa.phys.sci.osaka-u.ac.jp/yukawahideki(参照日2025年4月1日).


及川 雅司

◎(株)養賢堂 機械の研究 編集部

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