技術のみちのり
新溶接技術が叶えた車の軽量化 トヨタ自動車(株)

2024年度学会賞(技術)
「HLA溶接を用いた一体差厚曲線TWB構造と量産設備の開発」
トヨタ自動車(株)
世界初! 一体差厚曲線TWB構造
トヨタ自動車(株)は業界に先駆けた量産技術となる曲線TWB(Tailor Welded Blank 図1③)技術を開発し、強度を確保しつつ、ラダーフレームの軽量化を実現した。2021年に発売した新型ランドクルーザー300は、この技術によりフレームの重量を11.2Kg軽くすることに成功した。
ランドクルーザーのようなラダーフレーム構造(フレームシャシーの上にボディが搭載)のSUV車は、砂漠や原野などオフロード環境で使われることが多いので、車体は頑丈で重く、大排気量エンジンを必要とする。しかし燃費規制やカーボンニュートラル達成が求められる今、軽量化は必須事項だ。
2015年頃、ランドクルーザーのフルモデルチェンジが決まり、軽量化するための開発企画が始まった。江川と小野田はラダーフレームの軽量化について話し合っていた。ラダーフレームには強度が必要なので、本体に補強材を溶接するリンフォース(R/F)構造が長年使われてきた(図1①)。そこで「R/F構造を廃止して、ラダーフレームを新技術で軽量化し生まれ変わらせよう!」と考えたのだ。技術者たちの挑戦が始まった。

図1 従来構造との比較
軽量化のための新技術を探せ!
だが、その技術は何だ? 軽量化の手法としては、板厚や材質の異なる複数の鋼板を溶接で繋ぎ合わせて1枚の鋼板にする「直線TWB」技術がある(図1②)。しかしトヨタでは、当初ラダーフレームには強度不足で使えないと考えられていた。
江川と小野田は、R/F構造の本体と補強材を一体化すると、溶接線は曲線にする方が効率的だと気がついた。小野田がCAE解析を行うと、一体化して1枚にしたほうが板厚はR/F構造より薄くなり、大きな軽量化が期待できることがわかった。そこで江川たちは、なんと! 溶接線を曲線にした「曲線TWB」(図1③)の技術開発を提案したのだ。直線TWBは溶接線が直線であるがゆえに、補強が不要な部分の板厚も厚くしてしまう。しかし曲線TWBなら必要な箇所にだけ補強することが可能だ。直線TWBを使った場合はR/F構造より4.8kg軽量化できるが、曲線TWBだと11.2kgも軽量化できると予測した。
大多数反対
曲線TWB開発提案の説明会に50人くらいの技術者が集まったが、説明が終わるといきなり「反対」の声があがった。賛成の人たちはほんの少数だ。新里は上司に反対されても協力しようと決心した。実際、曲線TWB開発は非常に難しい。曲線だと最低3面の板合わせを行わなければならない。大激論の末、この技術が本当に実用化できるのかデータを提出することになり、賛成派には2カ月の猶予が与えられた。2カ月後、江川たちの出した評価結果に上司は納得し、曲線TWBを開発して量産に使っていくことが決まった。この頃には理解者が増え、工場の部長、生産技術部の専務などがこの大いなる挑戦に応援や協力をしてくれた。こうして開発がスタートした。
板隙問題
だが、道のりは険しい。新里は要素技術開発を担当し、強度信頼性を確保するための検討を行ったが、強度不足の事態にぶつかっては乗り越えるの繰り返しだった。量産化担当の内山は断崖絶壁に立たされた気分だった。内山の所属する車体製造技術部では直線TWBを経験していたので、開発の難しさがよくわかっていた。でも、やるしかなかった。
薄板と厚板の隙間をレーザで溶接するのだが、どこを狙うと品質良く溶接できるかが重要だ(図2)。ラダーフレーム設計担当の小松崎は、つなぎ目を強くするために「薄板と厚板の隙間を溶融金属でしっかり埋めて、溶接時にできる薄板と厚板の間のくぼみをゼロに近づける(図2の右)」という厳しい要求品質を出していた。

図2 曲線TWBによる溶接良品条件の拡大(左)と強度を確保するための良品条件(右)
内山がパイロットラインを設けて量産化できるかテストをすると、10枚中6枚が品質不良という結果になった。原因は、異なる鋼板の熱膨張差や溶接熱歪みによって、溶接した部分が冷えて縮み、まだ溶接していない部分の板の隙間がd1からd2に拡大するからだ(図3)。
そこで二つの対策を考えた。治具で押さえて板隙の広がりを防止し、溶着金属(溶接中に加える金属材料)を増やして拡大した隙間を埋めるのだ。治具に関しては、直線TWBならどのくらいの力で押さえれば板隙が広がらないというノウハウがある。しかし曲線TWBは未知の領域だ。熱膨張で広がる力が計算できなくて、試行錯誤で治具を何度も作り直し、治具全体の剛性を上げ、治具全体で歪を受け止める構造の開発を行うなどして対処した。

図3 溶接時の板隙変化
ハイブリッドで行こう!
溶着金属を増やすための溶接方法を模索している時、溶接機メーカーからの情報でレーザ・アークハイブリッド溶接技術を知った。レーザ溶接とアーク溶接を組み合わせた技術で、造船業界などで採用されているという。さっそく、造船と同じように先にレーザ溶接、次にアーク溶接を行ったのだが、要求された品質を満足できなかった。溶接中に発生するスパッタ(溶融した金属が飛散したもの)が多く発生し、品質不良に直結してしまったのだ。
そこで対策を議論する中で、メンバーより逆転の発想の提案があった。溶接の順番をひっくり返し、先にアーク溶接を使って溶接ワイヤと隙間周辺の広い範囲を溶かし、次にレーザ溶接で穴を開け、溶融金属を板厚方向に流し込み接合する方法だ。この方法を試してみるとスパッタの発生量が低減でき、要求品質を満足することができた。光明が差した瞬間だ。さらなるレベルアップとして検討したレーザのツインスポット化(図4)は、シングルスポットよりも広範囲を溶かすことができるため、溶接狙い位置が多少ずれても問題なく薄板と厚板を接合できる利点がある。これにより溶接良品条件範囲(ロバスト性)は拡大し、溶接スピードも上がり、量産が可能になった(図2)。かくして、アーク溶接とレーザ溶接を組み合わせたHLA溶接(Hybrid Laser-Arc Welding)技術の獲得により、曲線TWB技術が実現した。

図4 ツインスポット化による良品範囲の拡大
チームワークの勝利
約6年かけて誕生した量産技術「曲線TWB」。日本では5車種に使われ、車の軽量化に貢献している。良い車を作るために部署の壁を取り払い、みんなで協力して困難を乗り越えたことが成功につながった。
先行開発・試作フェーズから量産フェーズに移行する場合、環境や条件のさまざまな変化に対応できる技術が必要となり、トライアンドエラーはつきものだ。しかし限られた期間で開発を成し遂げるには、初期から理論に基づいた検討を心がけ、原因を突き止め対策することによって少ないトライアンドエラーで量産技術に挑むことが大切だ。そしてなにより物作りへの揺るぎない探求心こそがどんな困難にも打ち勝つパワーとなる。
取材・文 山田ふしぎ
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