日本機械学会サイト

目次に戻る

2026/1 Vol.129

装置製作:高山芳の
(多摩美術大学大学院美術研究科デザイン専攻 統合デザイン領域 在籍)
金属・磁石・モーターなどの単純なメカニズムを用いた装置は、重力や摩擦を受け入れながら、ある行為を繰り返します。その姿は、私たちが呼吸し、脈を打ちながら生きていることを思い出させます。本誌では、学部の卒業制作である 10 体の装置〈脈拍〉を中心に、全 12 体の作品を紹介します。

バックナンバー

超低コスト化設計による戦略的競争力の強化

第1回 モノづくりの次は品質コストマネジメントで勝負

國井 良昌(國井技術士設計事務所)

はじめに

本誌関係者からの依頼により、2024年12月に『技術者こそコミュニケーション力を磨け!』、2025年12月に『「匠のワザ」でトラブル完全対策法を学ぶ!』の連載を終えた。ご愛読に深く感謝申し上げたい。

さて、今回の連載も当事務所からの熱血指導をお届けしていく。その熱量の背景は以下の通りである。設計コンサルタント業務を通して、

①日本企業からの低コスト化に関する技術指導の依頼がない。

②海外企業からの依頼は頻繁であり、むしろ増加傾向にある。

③技術セミナー企業のメニューに、コスト関連のテーマが見当たらない。

かつて「安かろう 悪かろう」と批判された日本企業は、絶え間ない努力によって、世界に名だたる「メイド・イン・ジャパン」を築き上げた。しかし、技術者の四科目であるQ(Quality、品質)、C(Cost、コスト)、D(Delivery、期日)、Pa(Patent、特許)のQCDPaのうち、Qに偏りすぎた結果、過剰品質を生み、Cを軽視した。そのため、韓国や中国のコストパフォーマンス製品群に市場を奪われ、さらに、トランプ政権下の関税問題が競争力低下に拍車をかけた。

さて、初回の本稿は、連載のメインタイトルである「超低コスト化設計による戦略的競争力の強化」に関して、残り11回に渡る「シラバスもどき」となれば幸いである。筆者としては、「低コスト化は技術の総合力」であることを本連載の一貫したメインテーマとしたい。

お受験は足し算で勝負 技術者は掛け算で勝負

日本社会で最も勉強しているのは「お受験」に臨む子どもたちだと言われて久しい。現在もその構図に大きな変化は見られないが、当事務所では、いずれ「大学生たち」がその位置に代替される日が来ると確信している。

かつての「お受験」の科目は「国語・算数・理科・社会」の四科目であり、希望校に合格するには、国+算+理+社=総合点で判定された。これが総合点評価法、つまり、足し算の世界である。

一方、当事務所がクライアント企業に提唱しているのが「技術者の四科目」、すなわち、Q(品質)、C(コスト)、D(納期)、Pa(特許)である。高品質は前提であり、そこにC・D・Paを加味した商品開発のストラテジーがなければ、競争の土俵に立てない。

例えば、宇宙開発。特に打ち上げロケットが、その象徴である。価格競争は1990年代後半から顕在化し、2000年代にはヨーロッパのアリアン、中国の長征シリーズが価格優位を確立している。25年も前の話だ。今、日本のH3ロケットは、打ち上げ成功は当然として、価格競争力の実効性が問われている。まさか、味噌醤油の「日本!モノづくり」の精神論で戦うのかと、余計な心配をしてしまう。

今、日本人技術者に求められるのは、Q×C×D×Pa=総合技術力という掛け算の発想である。ひとつでもゼロなら、結果はゼロになる。技術者なら、この現実に一刻も早く気づいてほしい。

味噌醤油の「日本!モノづくり」のQ1本で勝てるのか?

「日本!モノづくり」の語源を辿ると、「失われた30年」とNHKの「プロジェクトX」に行き着く。前者は1990年のバブル崩壊以降の経済停滞、後者は2000年から2005年に放映された人気番組である。これは、技術者たちの挑戦を描き、日本人の「モノづくり精神」や「挑戦する価値」を再評価する番組であり、韓国製・中国製の台頭で「メイド・イン・ジャパン」の価値が揺らぐ中、日本人技術者の誇りを再構築する役割を果たした。

当事務所の分析によれば、プロジェクトXの主人公は生産技術者と研究者であり、設計者は登場していない。つまり「日本!モノづくり」の掛け声は、製造部中心であり、設計者は議論の枠外に置かれてきた。いわゆる「蚊帳の外」。

設計とは、製品の価値・機能・安全性・コストを決定づける最上流工程である。これを軽視することは、日本の製造業における技術競争力の根幹を揺るがす要因であり、韓国・中国製品の台頭に対して十分な対抗力を持てないという、産業構造上の深刻な課題である。

日本の製造業は品質至上主義に傾きすぎ、CとDのマネジメントが不十分である。筆者が、ここまで主張すると、必ず反論が出る。「いや、CもDもマネジメントしている」と。しかし、Qの次に位置する重要なCをどのようにマネジメントしているのか問い詰めると多くの日本企業は口ごもる。ここぞとばかりに反撃して突っ込むと、実は日本企業独特の「ベンダー虐め」の存在があった。

質(たち)の悪い企業に至っては、進出した海外先でも「ベンダー虐め」をしいているから情けない。なぜ、虐めるのか?それは、図1に示す『世界に低コスト化ツールは「5+2」の合計7個ある』を知らず、精神論で攻めまくっているのである。

かつて、大手自動車企業の掛け声を今でも思い出す。「乾いた雑巾を絞りまくれ」。まるで、現実的な手段を欠いた精神論に頼る姿勢と同様である。低コスト化とは、7個のツールを取捨選択し、合理的に構築する開発プロセスである。ここで一度、締めくくろう。

低コスト化とは、図1の開発ツールを取捨選択して実行する開発プロセスであることを強調したい。

図1 世界に低コスト化ツールは「5+2」の合計7個ある
〔出典:ついてきなぁ!品質とコストを両立させる「超低コスト化設計法」(日刊工業新聞社刊)〕

時代は品質コストマネジメント

「日本!モノづくり」のQ一本主義に偏った日本企業は、過剰品質に陥り、「失われた30年」を迎えた。今こそ「モノづくりの再定義」が必要である。その鍵は、「品質コストマネジメント」である。

実は、あまり知られていない単語がある。それは、「2001年CAD元年」。さらに、一部のコンサルタントしか知らない単語がある。それは、「2001年トラブル多発元年」。お金持ちの自動車企業から順に3次元CADが導入された。設計書がない日本企業、設計書が書けない日本人設計者は、いきなり3次元CADの前に座り、Qしか考えない設計、いや、造形物を画面に作り込んでいくのである。「日本!モノづくり」の限界が露呈した。

批判的に見れば、技術者に求められる四科目のうち、品質(Q)以外は設計工程から事実上排除されている。Qしか設計しない。これが、「日本!モノづくり」の現実である。

ここで提唱するのがメインタイトルである「モノづくりの次は、品質コストマネジメントで勝負」である。隣国でコンサルタントを実施すると、大変厳しい非難を浴びる。それは、「日本人はすぐ精神論で語る」と。

どういうことかと言うと、「QとCのバランスを取れ」とか、「QとCの最適化を目指せ」という文言である。この二つのアドバイスを受けた開発現場は、明日から何をすればよいのか?どうすれば良いのか?と路頭に迷う。

そこで図2を参照してほしい。QとCの最適化を「見える化」することで、開発現場に具体的な指針を示す。図1で示した7つの開発ツールを取捨選択し、合理的に低コスト化を進めることが重要だ。

連載タイトルの「超低コスト化設計による戦略的競争力の強化」は、日本企業、そして、日本の技術者に対して、グローバルにおける近未来の勝負所に資する内容と確信する。

図2 品質コストマネジメントの見える化
〔出典:ついてきなぁ!品質とコストを両立させる「超低コスト化設計法」(日刊工業新聞社刊)〕


参考文献

(1) 國井良昌, ついてきなぁ!品質とコストを両立させる『超低コスト化設計法』, 日刊工業新聞社刊.


<正員>

國井 良昌

◎國井技術士設計事務所 所長/技術士(機械部門)
◎専門:機械設計、設計工学

ホームページ:https://a-design-office.com/
ブログ:https://kunii.biz/

キーワード: