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2026/1 Vol.129

装置製作:高山芳の
(多摩美術大学大学院美術研究科デザイン専攻 統合デザイン領域 在籍)
金属・磁石・モーターなどの単純なメカニズムを用いた装置は、重力や摩擦を受け入れながら、ある行為を繰り返します。その姿は、私たちが呼吸し、脈を打ちながら生きていることを思い出させます。本誌では、学部の卒業制作である 10 体の装置〈脈拍〉を中心に、全 12 体の作品を紹介します。

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特集 DEI 宣言

工学系女性研究者育成支援の取組み

田中 真美(東北大学)

はじめに

工学系女性研究者や技術者の育成支援は、国・大学などの研究機関が連携、または独自にさまざまな取組みを全国で実施している。これらの取組みは大きく「理工系進路の選択支援」と「研究者に対する活躍・両立支援」に分類され、本稿ではこの二つの観点で述べていく。

理工系進路支援

女子学生にとって理工学系で学ぶ・理工学系で就職して活躍する姿が想像しにくく、不安につながっていることが、理工系進路を選択するうえで高いハードルになっている。

国の取組みとしては、科学技術振興機構(JST)による「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」(1)や、内閣府男女共同参画を中心に女性活躍推進の一つとして「リコチャレ」(2)があげられる。前者は、全国の大学、高専などの数多くが実施機関として採択・支援されており、ワークショップや課題探求プログラムなどを地域で展開している。女子中高生、そしてその保護者や教員を主な対象として、工系分野への興味・関心を高め、理系進路を志せるように工夫を凝らしたさまざまな活動・支援が行われている。また、女性研究者のキャリアパスやロールモデルを紹介する取組みも進められている。

内閣府のリコチャレは、女子中高生・女子学生が理工系分野に興味・関心を持ち、将来の自分をしっかり描いて進路選択(チャレンジ)できるよう応援する取組みである。理工系分野が充実している大学や企業など「リコチャレ応援団体」の紹介、各団体が実施するイベント情報の提供、理工系分野で活躍する女性からのメッセージ紹介などを行っている。行政機関から大学・短大・高専・専門学校・企業・NPOまで幅広い団体が紹介されており、本機械学会もその一つとして掲載され、LAJの活動もリンクされている。

理工系の各機関が連携した情報発信も積極的に行われている。2012年からは「国立大学56工学系学部ホームページ(輝く工学女子!Tech☆Style)」(3)、2024年からは(独)国立高等専門学校機構による「高専女子プロフィール帳」(4)、また、2025年3月には(一社)八大学工学系連合会から声明「未来を創る女性理工系人材と博士人材を社会へ~工学系の今を皆様に~」が公表され、「つながる工学ウェブ」(5)も開設された。これらWebなどを通して、ロールモデルが少ないという課題への対応や、活躍する女子学生・OGの様子、イベント案内などが積極的に発信されている。

女子学生によるアウトリーチ活動も活発に行われている。工学系に限らず、東北大学のサイエンスアンバサダー(旧サイエンスエンジェル)(6)や名古屋大学の赤りんご隊(7)、大阪公立大学のIRIS(8)、電気通信大学の匠ガール(9)、島根大学のSUN’IN Girls(10)、富山大学のスマートポリネーター(11)などがあげられる。女子中高生や学部生に対して、理系分野の魅力を伝える身近なロールモデルとなり、理系進路や研究キャリアの選択を支援している。図1は東北大学サイエンスアンバサダーによるオープンキャンパスでの活動の様子である。

図1 オープンキャンパスSAの活動の様子

工学系の女子学生に特化した入試も行われている。産業界からの理工系女性人材育成の要請を受け、国立大学として初めて1994年に名古工業大学の機械工学科(現在の電気・機械工学科の一部)で推薦入試(女子特別選抜)が導入された。2018年には芝浦工大でも、工学部の機械・電気系の4学科を対象に「公募制推薦入学者選抜(女子)」を開始した。どちらも機械系が含まれており、女子学生の比率が低い学科のバランス改善を目的としている。現在「女子枠」と呼ばれるこの取組みは、多くの大学で採用され、工学系のジェンダーバランスの課題解決や人材確保につながっている。また、新たに女子大学に工学部を新設する動きも見られ、2022年に奈良女子大学が女子大学として初めて工学部を設立、2024年にはお茶の水女子大学にも共創工学部が設立され、女性の工学教育が推進されている。

企業による取組みとしては、女子中高生向けの職場体験・インターンシップが行われ、企業の研究開発拠点や工場の見学ツアーを実施し、実際の技術者がどのような場所でどのような仕事をしているのかを具体的に見せることで、理工系の仕事のイメージ形成を支援している。また、企業と大学などが連携する取組みとして、女性社員によるキャリア講演・座談会があげられる。企業の女性エンジニアや女性研究者が学校や大学主催のイベントに登壇し、自身のキャリアパス、仕事のやりがい、ワーク・ライフ・バランスなどについて語り、交流することで女子学生が抱える「仕事と家庭の両立」などの不安解消を図っている。さらに、企業による出前授業・実験教室も行われ、専門技術を活かした体験型プログラムを学校に出向いて提供し、技術の面白さを伝える活動もある。これらはリコチャレの一環として行われているケースも多い。

機械学会も関連しているIFAC JAPANの自動制御連合講演会では女子小中学生が制御に触れることを目的としたワークショップ「Girls in Control」(12)が毎年行われている。このような活動はNPO法人などで行われるなど、多くなってきているが、参加した女子学生からは「これまで参加したプログラミング教室では女性が自分ひとりだったが、今回は周りが全員女性でとても嬉しく、楽しかった!」との声が寄せられている。このように、女子学生が安心して理工系を学び、楽しさを実感できる活動は非常に意義深い。

各機関で多様な取組みが行われているが、その一例として東北大学の取組みを紹介する。東北大学工学系および機械系では、オープンキャンパスで女子学生向けイベントを開催しており、工学系イベントでは2日間で約400名が参加する。女性教員と民間企業に勤めるOGの講演(図2㊤)により、工学系学問や技術の面白さ、キャリア形成のロールモデルを伝えている。また、現役の女子学生によるクロストークも行われ、キャンパスライフや学科選択の経緯などが語られ、人気のセッションとなっている。図2㊦は東北大学工学部機械系でのイベントで、女子学生がポスターを用いて来場者に丁寧に説明を行っている様子である。2025年には、企業で働く女性によるスペースも設け、企業でも安心して活躍できることを伝えている。また、女性教員による出前授業も実施しており、図3㊤は女子高校での出前授業の一例の様子である。また、図3㊦は女子高校の教員を対象としたDEI推進に関する講義の様子である。

図2 東北大学のオープンキャンパスの様子
㊤工学系全体での講演会 ㊦機械系のポスターセッション

図3 女性教員による出前講義などの様子
(上)対象は学生、(下)対象は教員

研究者に対する活躍・両立支援

研究者に対する支援は、文部科学省・JSTの科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」があげられる(13)。研究環境のダイバーシティを高め、優れた研究成果の創出につなげることを目的とし、女性研究者のライフイベントおよびワーク・ライフ・バランスに配慮した研究環境の整備や女性研究者の研究力向上のための取組み、女性研究者の積極採用、研究中断や離職からの復帰・復職支援、さらには女性研究者の上位職への積極登用に向けた支援などが行われている。多くの研究機関がこの事業に申請し、さまざまな支援が行われている。

女性研究者比率の向上は不要であると思われるかもしれないが、企業組織における男女の不平等を構造的に分析したカンター教授が提唱する「黄金の3割」(14)では、女性比率が15%以下では少数過ぎてトークン(象徴)的な存在となり、発言できない、孤立する、紛れるように振る舞うことも分かっている。また、スイス国際経営開発研究所のギンカ・トーゲル教授が提唱している「女性比率のティッピング」(15)によると、女性比率が25%以上でマイノリティという認識に到達し、女性の中でもいろいろな人がいると認識され始める。35%に達するとティッピングポイントとなり、単に「女性」としてではなく、その人自身の背景、教育、価値観、個性を持つ個人として意見や見解が聞かれることが可能になり、その意見や見解は、もはや彼女のジェンダーに還元されることはない、と報告されている。以上のように数値を掲げクリアすることは、女性研究者の活躍において大きな意味のあるものである。さらに、女性研究者の3割や35%が達成されれば、学生や社会に対して、ロールモデルとして機能する効果も期待できる。

研究者は常に研究業績が求められるが、出産、育児、介護といったライフイベントにより研究時間の確保が難しい場合がある。現在多くの大学で実施されている女性限定公募では、応募者のキャリア中断期間を考慮して審査する旨が明記されていることが多い。また、これらの期間における研究者・教職員を支援するため、各研究機関では支援システムやこれらの期間について配慮した採用・評価制度などについて工夫がなされている。例えば、東北大学では、該当期間に事務補佐員を配置する支援システムやベビーシッター利用料を負担する制度があり、女性だけでなく男性も利用可能としている。また、人事の選考においては無意識のバイアスの払拭に関する動画視聴や、チェックリストの確認を選考委員に義務づけている。女性応募者数の報告制度も設けられており、各機関で工夫できる余地はまだ多くあると感じている。

その他、2018年に大阪大学が中心となって「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ〔全国ネットワーク中核機関(群)〕」で開始した「全国ダイバーシティネットワーク」(16)がある。全国を8つブロックに分け、地域の特性に応じた取組みを展開し、全国ダイバーシティネットワークプラットフォームの構築を進めている。工学系に特化した取組みではないものの、Webページには理系を目指す女子小中高生向けの支援やポジティブアクションや育成関連情報が多く共有されており、参考にできる。

おわりに

工学系女性研究者育成支援の取組みとして、本稿では「理工系進路選択支援」と「研究者への活躍支援」について述べてきた。工学は社会を支える学問である一方で、その活躍が目に見えにくい部分が多く、イメージも伝わりにくい。このため、パンフレットやWebなどによる情報提供だけでは十分な理解を得ることが難しい。しかし、イベントに参加して実物を目にし、現場の「生の声」を聞くことで、情報が直接参加者に伝わり、大きな安心感につながっている。

東北大学機械系のオープンキャンパスに子どもと参加した保護者から、印象的な感想が寄せられている。ある保護者は、「工学に自分の娘が行くことが想像できないと考えていた私自身の頭の中を一掃する必要がありそうだ」と。これは、保護者の中に無意識のバイアスが存在したことを示しており、こうした活動を通じてそのバイアスをさらに払拭していくことの重要性が浮き彫りになった。

また、先日東北大学の工学系イベントで、女子学生を対象にOGによるキャリアパス講演を実施したところ、多くの質問が寄せられた。特に印象的だったのは「来年卒業し、4月から企業に勤めますが、私はいつ子どもを産んだらよいのでしょう?」という真剣な問いであった。彼女たちは、子どもを産むことで企業に迷惑をかけるのではないかと極めて真剣に考えている。大学や企業は、学生や社員がライフイベントを気にせず安心して学業や仕事に取り組むことが可能であるというメッセージを、繰り返し伝えていくことが非常に重要である。

最後に、図4は東北大学工学部の入学イベントの様子である。工学系は女性比率だけを見ると少なく感じられるが、関わる母数自体は非常に大きい。このため「工学系には多くの女性がいる」という事実を視覚的に伝えていくことが極めて重要である。実際、ある学生はこれを見て工学系に進路を考え直している。また、機械系でも新入生歓迎会を実施し「ウェルカム感」を伝えることで、学生に安心感を持ってもらえるよう努めている。

図4 東北大学女子新入生歓迎会の様子
㊤工学部全体 ㊦機械系

以上、本稿で述べた活動は多大な労力を伴うが、女子学生が工学系の進路やキャリアを安心して選択できるよう、各機関には引き続き現場の「生の声」を届けていただきたいと願っている。また、この種の支援活動は継続的な労力が必要とされるため、関係機関間の連携がますます重要となる。機械学会もその一翼を担い、活動を推進していけることを期待し、本稿の結びとする。


参考文献

(1) 科学技術振興機構(JST)「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」,
https://www.jst.go.jp/cpse/jyoshi/ (2025年11月24日).

(2) 内閣府 理工チャレンジ(リコチャレ),
https://www.gender.go.jp/c-challenge/(2025年11月24日).

(3) 国立大学56工学系学部ホームページ(輝く工学女子!Tech☆Style),
https://www.mirai-kougaku.jp/tech_style/(2025年11月24日).

(4) 国立高等専門学校機構 高専女子プロフィール帳,
https://kosenjoshi.kosen-k.go.jp/(2025年11月24日).

(5) 八大学工学系連合会 つながる工学ウェブ,
https://8uea.org/sp/(2025年11月24日).

(6) 東北大学サイエンスアンバサダー,
https://dei.tohoku.ac.jp/support_program/next_generation/sa/(2025年11月24日).

(7) 名古屋大学 赤りんご隊,
https://acalingo.jimdofree.com/(2025年11月24日).

(8) 大阪公立大学 IRIS,
https://www.omu.ac.jp/r-support/iris/(2025年11月24日).

(9) 電気通信大学 匠ガール,
http://www.ge.uec.ac.jp/girl/(2025年11月24日).

(10) 島根大学 SUN’IN Girls,
https://diversity.shimane-u.ac.jp/project/sun-in-girls/(2025年11月24日).

(11) 富山大学 スマートポリネーター,
https://www.u-toyama.ac.jp/news-topics/115442/(2025年11月24日).

(12) IFAC Girls in control,
https://www.ifac-control.org/areas/girls-in-control-gic-workshop-and-material(2025年11月24日).

(13) 文部科学省・JSTの科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」,
https://www.jst.go.jp/shincho/josei_shien/(2025年11月24日).

(14) カンター黄金の3割,Kanter, R. M. (1977) Men and Women of the Corporation. Basic Books: New York.

(15) 女性比率のティッピング Where are women leaders today?,
https://www.imd.org/research-knowledge/organizational-behavior/articles/where-are-women-leaders-today/(2025年11月24日).

(16) 全国ダイバーシティネットワーク,
https://opened.network/(2025年11月24日).


<フェロー>

田中 真美

◎東北大学副学長(ダイバーシティ担当)、
東北大学DEI推進センター長、東北大学工学系女性研究者育成支援推進室(ALicE)室長、
東北大学医工学研究科/工学研究科 教授

◎専門:機械工学、医療福祉工学、メディカルメカトロニクス

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