特集 水素社会の光と影
水素侵入環境下の構造用金属材料の今
耐水素材料に向けた灯火
水素脆化研究150年の今、お届けしたいメッセージ
水素社会実現に向けた材料特性面の課題、それは水素脆化である。今からちょうど150年前、英国の冶金学者WH Johnsonは、第二次産業革命末期の伸線産業に影響を与えた現象、すなわち、鉄線や鋼線の表面から錆を除去するために施される酸洗い処理後に鉄線や鋼線が脆くなるという現象について、先駆的な研究を行った。1875年、Johnsonはこの発見を『Proceedings of the Royal Society of London』誌(1)に、その後『Nature』誌(2)にも発表し、この現象を説明する仮説を提案した。以来150年にわたって脆化メカニズムと安全使用条件さらに耐水素脆化性に優れた材料開発に関する研究が続けられてきた。しかし、工業的に高度化を続ける社会が求める「今の要求目標」には達していない。「金属材料の脆化課題において最も難しいのは、水素脆化の完全なメカニズム解明と、それを正確に予測・制御することである」と認識されている。
しかし本稿の目的は、水素脆化克服の困難さを紹介するものではない。筆者は1997年にNIMSの前身である科学技術庁・金属材料技術研究所に異動して以来、水素脆化克服に関する研究を続けてきた。この28年間で得た経験・知識を基にして、耐水素脆化に優れた金属材料(耐水素材料)開発に向けた「灯火」が、今ここに、しっかりとあることを読者の方々にお伝えしたいと思う。本稿では特に近年10年以内に見出された新しい研究知見を紹介する。
耐水素材料:非鉄金属
高圧水素ガス中での優れモノ:ベリリウム銅
「金属や高分子に限らずすべての材料は水素で材質劣化・脆化する」と言われることが多い。しかし、これは正しくない。例えば高圧水素ガス下で脆化しない高強度金属がある。ベリリウム銅である。銅にベリリウムを0.5~3wt%含む合金で、高い強度、耐食性、良好な導電性、非磁性の特性を持ち、電子部品をはじめ広い用途に使われている。金属ミクロ組織としては、FCC(面心立方格子)のマトリクスに微細なベリリウム粒子が析出している。この析出強化高強度ベリリウム銅は高圧水素ガス下で強度低下しない。
YamabeとTakagoshiらは、引張強さ1400MPaのベリリウム銅合金を室温115MPa水素ガス下で低ひずみ速度引張試験を行い、引張強さと破断絞りさらに切欠き強度が全く低下しないことを報告した(3)。さらにOgawaとYamabeらは、引張強さを1230MPaに調整した材料でCT試験片を用いたき裂進展速度と破壊靭性についても評価を行い、高圧水素ガス下において材料特性の低下がないことを報告した(4)。
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キーワード:特集 水素社会の光と影
装置製作:高山芳の
(多摩美術大学大学院美術研究科デザイン専攻 統合デザイン領域 在籍)
金属・磁石・モーターなどの単純なメカニズムを用いた装置は、重力や摩擦を受け入れながら、ある行為を繰り返します。その姿は、私たちが呼吸し、脈を打ちながら生きていることを思い出させます。本誌では、学部の卒業制作である 10 体の装置〈脈拍〉を中心に、全 12 体の作品を紹介します。