2. 人材育成・工学教育

2・1 人材育成・工学教育の動向

社会環境の変化に伴って高等教育に対する社会からの要請も変化し,大学教育は大きな変革を迫られている.高等教育ではアクティブ・ラーニングの重要性が指摘され,従来の講義を主体とした座学および試験ではなく,自習を前提としたグループでの議論を大学で行うように促されている.コンピュータ利用のいわゆるe-ラーニングも一般的になり,コンピュータによる事前学習を課している教育機関も増えてきている.講義のシラバスは学生と教師の契約書として扱われ,その内容を忠実に教えることが求められる.しかし,どのような形態であれ,社会へ輩出する人材に対する教育の責任は,最高学府を自負する大学が負う必要がある.

大学に入学する学生の質の変化は著しく,大学の教育現場では戸惑いもまだみられる.2013年から高等学校では年次進行で指導要領が実施され,教える内容は以前と比較して多くはなったが,その成果が現れるまでまだ多くの時間が必要である.文部科学省関係では,2014年12月の中央教育審議会答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育,大学教育,大学入学者選抜の一体的改革について」,2015年1月の「高大接続改革実行プラン」に基づき,2016年3月に「高大接続システム改革会議」の最終報告がとりまとめられた.その中で,高大接続システム改革は,高等学校教育改革,大学教育改革および大学入学者選抜改革をシステムとして,一貫した理念の下,一体的に行う改革である,と位置づけている.大学教育改革においては,卒業認定・学位授与の方針,教育課程編成・実施の方針,さらには入学者受け入れの方針の3つの方針に基づいた大学教育を受けられるように提言している.また,入学者選抜改革については,大学入学希望者学力評価テスト(仮称)の導入を求めている.高等教育機関では,大学としての自由度を保ちながら社会からの要請に応えた人材育成が求められている.

2・1・1 工学系高等教育機関での学生の動向

大学数は779校となり前年と比較して2校減少したが,大学生は2 860千人で前年より5千人増加し,大学院は249千人で前年度より2千人減少している.大学学部の女子学生が占める割合は43.1%となり前年度より0.4ポイント増加している.大学および大学院の専門別では,工学系の学部生が全体の15.2%,大学院修士課程では41.8%,博士課程では17.9%を占めている.

大学生の学部卒業後の調査によれば,卒業者の大学院への進学は全体で11.0%,就職率は72.6%(男子が67.8%,女子は78.5%)であり,72.6%のうち正規の職員等は68.9%を占めている.

修士課程(前期課程)修了者の中で,博士課程への進学率は9.9%,就職率は76.2%で前年度より1.8ポイント上昇している.就職者総数を産業別に見ると製造業が42.0%と最も高く,次いで情報通信業が11.6%,教育,学習支援業が8.6%となっている.

博士課程(後期課程)修了者は就職率が67.2%となり前年度より1.2ポイント上昇した.正規の職員などは51.4%,非正規職員などが15.8%となっている.「ポストドクター」等の数は1 427人で,修了者に占める専攻分野別の割合は,工学が26.2%で最も高い.

2・1・2 日本機械学会の活動

能力開発促進機構と産官学連携センターを統合したイノベーションセンターは2015年度で7年目に入り,人材育成・活用のために①技術者教育委員会,②人材活躍・中小企業支援事業委員会を設置して活動を行い,認証・認定のために③JABEE(日本技術者教育認定機構)事業委員会,④技術者資格事業委員会,さらに技術開発を促進するために⑤研究協力事業委員会,⑥技術ロードマップ委員会を設置して活動を継続している.

人材育成は成果が現れるまで時間を要するために,継続性が最重要である.また同時に,PDCA(Plan Do Check Action)サイクルを利用して常に改革を行う必要がある.技術者教育委員会を中心に技術士養成講座を企画し,学会活動を通して情報を共有し,技術者としてのレベル向上を促進できるように活動を行っている.

〔森下 信 横浜国立大学

2・2 技術者教育プログラム認定の動向

日本技術者教育認定機構(JABEE)が行う高等教育機関における技術者教育プログラムの認定審査において,当初から本会は機械及び関連の工学分野審査委員会の幹事学会として活動を行っている[1].2014年度(2015年4月認定)には,学士・修士課程を合わせて12プログラムが新たに認定され,JABEEにおける全16技術分野の認定プログラムの総数は172教育機関で486プログラムになり,認定プログラムからの修了生の累計は約22万人に達している.2015年度にはJABEEプログラム修了生の中から1 550名が技術士二次試験に臨み158名が合格しており,合格率も昨年度の9.1%から10.2%へ向上している[2].2014年度の審査対象は,中間審査が18%,認定継続審査が71%であったが,新規審査は11%と例年に比べて減少した.機械及び関連の工学分野は,2002年度からの認定プログラム(旧基準の機械および機械関連分野のプログラムを含む)の累計が80プログラムと,引き続き16技術分野中で最多(約16.5%)である.認定プログラムの一覧は,JABEEのホームページ上で公開されている[3].

2014年度の審査では,新規審査は100%,認定継続審査の85%,中間審査の40%が新基準[4]で受審した.旧基準の適用期間は2015年度審査までであることから,今後は新基準をもとにした教育の質保証と継続的改善が図られるものと期待される.また,JABEEにおける審査の趣旨や要点を事前に理解いただくために2013年度より導入された予備審査制度[5]によって,2014年度は4プログラムが暫定認定を得ている.さらに,審査チームの質の向上を図るため,JABEEとして審査員研修を実施して基準や審査手順の変更の趣旨の徹底を図った.特に,新基準で達成すべき能力項目に加えられた「チームで仕事をする能力」については,どの程度の範囲の分野から成り立つチームでの協働を要件とすべきかについて議論が重ねられた.本会でも,前年に引き続き,2015年度年次大会会期中の9月14日に,北海道大学において,イノベーションセンターJABEE事業委員会の主催で審査員研修フォーラムを開催した.

一方,アジア諸国における技術者教育認定団体設立の動きに合わせて,JABEEは国際協力機構(JICA)に協力する形でインドネシアでの認定制度立ち上げの準備作業を実施している[6].2014年度には同国の1プログラムが審査を受け,JABEEとして初めて認定した海外教育プログラムが誕生している.他方,JABEEは,認定する技術者教育の国際的同等性を担保するためのワシントン協定へ継続加盟が認められているが.その際にも指摘されている分野を跨いだメンバーによるチームワーク力の教育の強化が急務である.JABEEは引き続き,このテーマを研修会で取り上げたり,ワークショップを開催するなどして啓蒙に努めることとしているが,各教育プログラムにおいても継続した改善を期待したい.

〔佐藤 勲 東京工業大学

2・3 技術者資格認定・認証の動向

2・3・1 ISO18436準拠機械状態監視診断技術者の認証

我が国の産業界は,競争力維持,強化のため,機械設備の安定安全操業が不可欠な環境にある.本会では,その一助として,2004年よりISO18436-2に準拠した機械状態監視診断技術者(振動)を,また,2009年からは日本トライボロジー学会と協力して,ISO18436-4に準拠した機械状態監視診断技術者(トライボロジー)の資格認証事業を実施している.以下に,両診断技術者の2015年度の資格認証試験の概要と現況のトピックスを示す.

(1)ISO18436-2に準拠した機械状態監視診断技術者(振動)

第1回試験が6月27日に,第2回試験が11月21日(カテゴリIVの記述,面接試験は12月12日)に実施された.合格者数(合格率,受験者数)は,カテゴリI/II/III/IVでそれぞれ,33名(97%,34名)/211名(85%,248名)/26名(67%,39名)/4名(100%,4名)であった.2015年末での合格者数総数は,4 267名となった.また,10月24日には,マレーシアにて,第2回目となる資格認証試験を実施し,カテゴリI/IIで合格者数(合格率,受験者数)はそれぞれ5名(100%,5名)/3名(60%,5名)であった.

(2)ISO18436-4に準拠した機械状態監視診断技術者(トライボロジー)

第1回試験(カテゴリI)を7月11日に,第2回試験(カテゴリIII)を9月19日(面接試験は10月3日),第3回試験(カテゴリII)を12月7日に実施した.合格者数(合格率,受験者数)は,カテゴリI/II/IIIでそれぞれ,63名(63%,100名)/14名(78%,18名)/ 3名(50%,6名)であった.結果,2014年末での合格者数総数は,966名となった.

(3)その他の活動

機械状態監視診断技術者(振動)については,年一回,コミュニティを開催し,資格認証者間での情報交換,共有を推進している.第5回目となった2015年は大阪で開催され,初めてトライボロジー分野の状態監視について話題提供があり,技術交流の幅を広げている.2016年度は7月15日に名古屋での開催予定である.コミュニティに関する情報は,本会のホームページhttp://www.jsme.or.jp/JOTAIWEB/toppage.htmを参照されたい.本ホームページには機械状態監視診断技術者の認定試験の詳細についても記載されている.

2014年よりマレーシアにおける認証事業を開始したが,日本以外の国での認証事業の実情を把握し,国内における認証事業を推進するため,韓国KSNVE,米国VIと定期的に会合を行っている.当該資格認証事業が,機械技術者,機械状態監視診断技術者の技術レベルおよび社会的地位の向上に貢献できるよう,更に事業推進していく.

〔藤原 浩幸 防衛大学校

2・3・2 計算力学技術者認定

機械設計プロセスにおける計算力学(CAE)の急速な普及とともに,産業界において,計算力学技術者の品質保証が重要な課題となっている.本会では,CAEに携わる技術者の能力レベルを認定・保証するため,2003年度から計算力学技術者認定試験を実施している.2015年度も,イノベーションセンターの主催により,本会関連部門・支部の協力,国内53学協会の協賛,日本機械工業連合会,日本産業機械工業会,日本電機工業会の後援を得て,固体力学,熱流体力学,振動分野の上級アナリスト試験を9月6日(日)に,1・2級認定試験を12月19日(土)に実施した.固体分野は全国5会場(関東,東海,関西,北陸,九州地区),熱流体分野と振動分野は全国4会場(関東,東海,関西,九州地区)で試験が行われた.合格者数および合格率は,固体分野が上級アナリスト:5名(71%),1級:76名(49%),2級:154名(24%),熱流体分野が上級アナリスト:4名(80%),1級:36名(29%),2級:153名(63%),振動分野が上級アナリスト:1名(50%),1級:59名(64%),2級:94名(55%)であった.また,書類審査による初級認定者は,固体分野が80名,熱流体分野が44名,振動分野が9名であった.認定試験開始以来,各級の受験者数・合格者数は共に順調に増加し,これまでの累計で6 789名という多くの認定者が誕生している.

また,2014年度から開始した非営利組織NAFEMS(The National Agency for Finite Element Methods and Standards)におけるPSE(Professional Simulation Engineer)資格と上級アナリスト資格との国際相互認証の協定に基づき,固体分野上級アナリスト7名がNAFEMSのPSEとしてあらたに認定された.

計算力学技術者の認定試験の詳細や合格者のリストなどについては,http://www.jsme.or.jp/cee/cmnintei.htmをご覧いただきたい.

〔長嶋 利夫 上智大学

 

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