18. ロボティクス・メカトロニクス

18・1 総論

一般社会においてロボティクス・メカトロニクス技術への期待が急速に膨らんでいる.「つくばロボット特区」における実証実験,「ハウステンボス」におけるスマートロボット実証実験,あるいはロボットタクシーの実証実験等,多くの実証実験が各地で盛んに行われ,本格的なロボット社会の到来が現実のものとして捉えられるようになってきた.また,2015年度も様々なロボット関連の国の大型プロジェクトが展開されている.そこで,昨年度に引き続き,「内閣府のロボット関連プロジェクト」,「経産省プロジェクト」,「インフラプロジェクト」について説明する.ロボティクス・メカトロニクス部門(以下,本部門)では廃炉問題について継続的な企画や支援を行っている.廃炉問題ではロボット技術が重要であり,今後更に新たなロボット技術の研究開発が必要である.一方,ロボット分野における医療・薬事に関しても動きが活発となっている.そこでロボティクス・メカトロニクス分野に関連する薬事の承認に関する説明を加えた.本部門の最も大きなイベントであるROBOMECH2015の発表件数は1 325件,参加者は1 971人であった.これは,部門講演会としては非常に大規模であり,本会の年次大会の規模に匹敵する.そのROBOMECH2015において,「マイクロ・ナノ」に関する多くの研究成果が発表されたので解説する.最後に,ロボティクス・メカトロニクス分野のロードマップについて紹介する.

〔木口 量夫 九州大学

18・2 内閣府のロボット関連プロジェクト

内閣府では,総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)における科学技術に関する総合的な戦略の策定など,イノベーション創造に向けた政策の推進に取り組んでいる.その取り組みの一つとして,戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)と革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)が2014年から進められている.

SIPは,CSTIが自らの司令塔機能を発揮して,府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて,科学技術イノベーションを実現するために新たに創設されたプログラムである.国家的・経済的重要性の観点から,CSTIが(2015年から1課題を加え)11の対象課題とプログラムディレクター(PD)を決定し,研究開発に取り組んでいる.SIPでは,2015年10月に「SIPシンポジウム2015~日本発の科学技術イノベーションが未来を拓く~」が開催され,各課題の進捗状況の概要説明が行われている.また,本部門に関連が深い取組として,「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術(藤野陽三PD)」,「次世代海洋資源調査技術(浦辺PD)」,「次世代農林水産業創造技術(西尾健PD)」があり,それぞれ公開シンポジウム等が行われている.

ImPACTは,実現すれば産業や社会のあり方に大きな変革をもたらす革新的な科学技術イノベーションの創出を目指し,ハイリスク・ハイインパクトな挑戦的研究開発を推進することを目的として創設されたプログラムである.公募により,(2015年から4名を加え)16名のプログラムディレクター(PM)を選定した.ImPACTでは,2015年3月に「ImPACTキックオフ・フォーラム」が開催され,PMがどのような構想に挑戦するか,どのようなイノベーションが期待できるか等について紹介された.また,ロボティクス・メカトロニクス部門に関連するプログラムとしては,「重介護ゼロ社会を実現する革新的サイバニックシステム(山海嘉之PM)」「タフ・ロボティクス・チャレンジ(田所諭PM)」が,それぞれ研究開発に取り組んでいる.

〔小笠原 伸二 安川電機(内閣府出向)

18・3 経産省プロジェクト

2015年,経済産業省をはじめとする政府のロボットに対する取り組みのなかでも,重要なトピックスのひとつが「ロボット新戦略」[1]のとりまとめであった.2015年2月10日の日本経済再生本部決定文書である「ロボット新戦略」は,ITと融合したロボット開発競争が激化している世界の産業変化に対応し,産業界や省庁間の壁を取り払い,官民一体で日本のロボット技術を世界の中心で輝かせるための戦略と道筋を示すものである.これは2014年から計6回開催された「ロボット革命実現会議」での議論をまとめたものであり,革命実現のための日本がとるべき戦略を,「世界のロボットイノベーション拠点に」,「世界一のロボット利活用社会」,「IoT時代のロボットで世界をリード」の3本柱として謳っている.ロボット技術の底上げはもちろんのこと,これまでロボットが導入されてこなかった産業分野への活用や普及,ロボットの国際標準化,人材育成などにも言及されている.

このアクションプランを実行すべく,「ロボット新戦略」の具体的な推進母体として,2015年5月には「ロボット革命イニシアティブ協議会」が設置された.この協議会の下には,「IoTによる製造ビジネス変革」,「ロボット利活用推進」,「ロボットイノベーション」3つのワーキンググループ(WG)を設置し,産官学が一体となって具体的課題に取り組んでいる.このうち,ロボットイノベーションWGの下には更に3つのサブワーキンググループ(SWG)が設置され,そのひとつに「ロボットオリンピック(仮称)SWG」が置かれた.本SWGは,ロボットの研究開発及び社会実装を加速させることを目的に,2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に合わせ,2020年に日本において開催されるロボットの国際競技大会についての検討を行った.「ロボット新戦略」にも記載されているこの世界的イベントに向けて,2015年末には実行委員会と実行委員会諮問会議が発足した.今後は実行委員会を中心に,2018年のプレ大会,2020年の本大会に向けて行動がとられる.

最後に経済産業省として2015年に実施されたロボットに関する個別事業のうち主だったものを紹介する(図1参照).実用化段階にある技術を直ちに市場に導入加速させる領域(いわゆる1.0領域)において,「ロボット導入実証事業」(平成32年度まで)ではロボット未活用領域へのロボット導入促進を図っている.現場ニーズに即応した市場化技術開発(1.5領域)では,「ロボット活用型市場化適用技術開発PJ」(平成31年度まで),「ロボット介護機器開発・導入促進事業」(平成29年度まで),「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発PJ」(平成30年度まで)でそれぞれ,ものづくり・サービス分野,介護分野,インフラ分野において,ユーザーニーズにマッチし,実際に活用できるロボットの開発や導入を行っている.次世代を見据えた新たなシーズを創出する技術開発(2.0領域)では「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」(平成31年度まで)において,人工知能等の中核的な技術開発を産学官の連携で実施している.

図1 
図1 

〔阪野 貴彦 産業技術総合研究所

18・4 インフラプロジェクト

2013年,国土交通省と経済産業省が連携・協力して「次世代社会インフラ用ロボット開発・導入検討会」が開かれた.ここでは,次世代社会インフラ用ロボット開発・導入の重点分野として,橋梁の維持管理/トンネルの維持管理/河川およびダムの水中維持管理/災害状況調査/災害応急復旧,の5分野を設定した.これらの分野に対し,経済産業省は,民間企業や研究機関による機器の開発,国土交通省は,試作システムの現場実証・評価を協力して行うことを決定した[1].

この提言に対し,2014年には,NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は,「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト」を立ち上げ,5つの重点分野に関するロボット技術開発の公募を行った.その結果,橋梁維持管理4件,水中維持管理2件,災害調査5件の計11件の課題が採択され,NEDOからの委託研究として,研究開発が進められてきた.これらの課題の中には,近年,活用が注目を集めているドローンを用いた研究開発も含まれる.2015年度末のステージゲートを経て,2016年からの2年間は,研究助成として研究開発が進められる予定である.それぞれの課題では,開発してきた技術を評価するため,下記に示す国土交通省主導の現場検証に応募し,現場検証を受けることが求められる.なお,SIP(戦略イノベーション想像プログラム)の「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術(4)ロボット技術の研究開発」においても,2014年に,橋梁やトンネルの維持管理ならびに,災害時の応急復旧に関するロボット技術に関する公募が行われ,研究開発が進められている.

国土交通省は,上記の公募と同期し,2014年以降,2年間の予定で,上記の五つの重点分野について,実際にロボットが検査・調査等に働くべき現場を設定し,各課題について実証評価を受けるロボット技術を公募してきた.2015年には,NEDOの委託研究課題ならびに,SIPの公募課題を含む,災害調査分野15件,応急復旧分野8件,橋梁維持管理分野21件,トンネル維持管理分野13件,水中維持管理分野13件(合計70件)の応募があり,各フィールドにおいて,現場検証が行われた.評価は,橋梁やトンネルなどの検査・管理の専門家を中心に行われ,2015年の評価の結果,災害調査において活用を推薦する課題が8件,応急復旧分野において活用を推薦する課題が3件,橋梁維持管理分野において試行的導入に向けた検証を推薦する課題が5件,トンネル維持管理分野において試行的導入に向けた検証を推薦する課題が8件,水中維持管理分野において,試行的導入を推薦する課題が7件採択された.この現場検証は,2015年で終了となるが,国土交通省は,この評価結果を受け,2016年以降,試行的導入や活用促進を進める予定である.

〔永谷 圭司 東北大学

18・5 福島廃炉関係

東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置では,放射線量が高く,人が近づくことが困難な環境が多々存在し,ロボット技術,遠隔技術の活用が必須となっている.これまでに,瓦礫除去,内部調査(映像取得,放射線量等の計測など),除染,サンプリング(ダスト,汚染水,コンクリートコアなど)などにおいて,様々なロボットや遠隔操作機器が投入されている[1, 2, 3].事故直後は,軍事用ロボット,無人化施工機械などを主として活用したが,事故が発生した原子力発電所という特殊な状況で廃炉作業を具体的に進めるには,用途に応じ,専用機を新たに開発せざるを得ない.最近の開発例と成果について述べる.

○国際廃炉研究開発機構(IRID)と日立GEニュークリア・エナジー(日立GE)が開発した形状変化型ロボットによる1号機原子炉格納容器の内部調査(B1調査)が行われ,ペデスタル外側の映像の取得,放射線量率の計測等が行われた.ロボットは,X100Bと呼ばれるペネトレーションから挿入され,調査が行われた.一部の調査は,ロボットがグレーチング床の溝にスタックしたために実施できなかったが,概ね調査は成功し,貴重な情報を取得することができた.

○2号機原子炉格納容器の内部調査(A2調査)として,IRIDと東芝は,サソリ型ロボットの開発を行っている.X6と呼ばれるペネトレーションからの投入が予定されているが,X6には遮へい用のブロックが積まれていた.そこで三菱重工業は,遮へいブロック撤去装置TEMBOを開発し,これを用いたブロックの撤去作業が行われた.撤去はほぼ順調に行われたが,最下層のブロックは固着しており,Packbotによる調査に基づき,個別に撤去が行われた.しかし,X6周辺は高線量環境であり,現在でも,線量を低減させるための除染作業が行われている.

○除染に関しては,IRIDと日立GE,東芝,三菱重工業が低所用除染装置,高所用除染装置,さらには上部階用除染装置の開発を行っている.具体的には,高圧水,吸引・ブラスト,ドライアイスブラストなどの除染装置を移動台車に搭載した機器となっている.上部階用除染装置は,日立GE,東芝,三菱重工業が分担して開発した作業台車,搬送台車,支援台車,中継台車などが連結されたシステムとなっており,これによる上部階の除染が期待されている.

○東京電力は,移動台車の上にスマートフォンを搭載した小型調査装置(スマホロボット)を開発した.3Dプリンタで製作されたボディの上にスマートフォンと照明を搭載した構造となっており,開発コストが極めて安い.このロボットは,棒の先にカメラを固定した俯瞰カメラ装置とともに,3号機原子炉格納容器機器ハッチの水漏れ等の調査に使用され,ミッションを達成した.

○IRIDと東芝は,3号機の使用済燃料プールからの燃料取り出しに向け,燃料取出機(FMH)の開発を行っている.この装置では,懸垂型搬送機構として米国PAR Systems社のTensile Trussが活用されている.

○1号機のオペレーションフロアの調査用として,能動スコープカメラが活用された.これは,東北大学田所諭教授と清水建設が共同で,被災建物内探査システム「ロボ・スコープ」として開発したものであり,水素爆発で崩壊したオペレーションフロアの天井の内部の瓦礫の様子を調査するために使用された.

これらの研究開発と並行して,平成28年3月にJAEA楢葉遠隔技術開発センター(モックアップ試験施設)が完成した.廃炉のための遠隔操作機器の実証試験や,災害対応ロボットの実証試験,オペレータの訓練,人材育成などに活用されている.

30~40年かかるとされている廃炉工程においてロボット技術や遠隔操作技術の活用は今後も不可欠である.これまでの失敗事例の分析に基づく機器の安定性・確実性の向上,共通基盤化,効率化とともに,より高い放射線環境下で動作可能なデバイス,燃料デブリのサンプリングや切断・取り出しのための機器やシステムの開発が今後重要となる.

〔淺間 一 東京大学

18・6 ロボット分野における医療・薬事

医療機器の承認の議論では,対象とする機器がどのような機器として定義され,リスク分類されるかは重要な論点となる.医療機器の一般的名称[1]では「手術用ロボット手術ユニット」と「手術用ロボットナビゲーションユニット」が規定されており,前者は「縫合,剥離,切断等の組織に対する処置や人工装具の装着等を行う,手術支援装置をいう.直視下あるいは内視鏡下の手術で使用される.制御システムはコンピュータ技術に基づいており,通常,術者用コンソール,器具操作用のアーム等の一連のシステムから構成される.外科医の訓練補助装置として用いる場合もある.」と,後者は「ナビゲーション(例えば,脊椎手術における椎弓根スクリューの配置等)のために,手術時に用いる装置をいう.本品はコンピュータ技術に基づいており,術者用コンソール,画像処理解析装置等から構成される.また手術器械の追跡に用いる位置検出装置も接続されている.コンピュータに入力される情報には,通常,CT又はMRI,超音波,透視X線,解剖学的ランドマークが用いられるが,術前画像を用いない場合もある.それらの情報から得られた空間座標をテンプレートとして用い,手術器械とその角度がわかる正確な三次元像を得るため,ロケーションポイントを読み取ることによって器具使用を追跡する.外科医の訓練補助装置としても用いる.」と定義されている.両者とも医療機器のクラスIII(不具合が生じた場合,人体へのリスクが比較的高いと考えられるもの)と分類されている.

一方,2015年11月に承認されたCYBERDYNE株式会社の装着型のHAL医療用下肢は「生体信号反応式運動機能改善装置」(生体信号に基づき関節を運動させることで,機能改善を図る能動型装置をいう)という一般的名称の機器として取り扱われ,クラスII(不具合が生じた場合でも,人体へのリスクが比較的低いと考えられるもの)と分類されている.その適用範囲は緩徐進行性の神経・筋疾患は8疾患に限定されている[2].

2013年に承認された外部磁場により体内に挿入したカテーテルを操作し,対外より遠隔操作し心臓内の電気生理的なマッピングや,焼灼治療(カテーテルアブレーション)を支援する磁気式カテーテル遠隔操作システム[3]は,医薬品医療器総合機構の審査報告書では「心臓マッピングシステムワークステーション」(心臓に適用する専用のカテーテル等を心臓の標的部位に対して経皮的にナビゲートする(正しい方向と位置に進める)操作ユニットである.専用のソフトウエアを使用しており,磁力や機械的動力等を用いてカテーテルを操作する.本装置は主に電気生理学的検査及び心筋アブレーションに使用される.)という一般的名称で取り扱われ,体外に設置される地場制御部を含むシステムはクラスIIに分類されている[1, 4].一方このシステムが操作する心臓アブレーション用カテーテルはクラスIV(患者への侵襲性が高く,不具合が生じた場合,生命の危険に直結する恐れがあるもの)に分類されている.

このように医療用ロボットはその用途,実現する機能に基づき,リスクの程度による分類が異なり,その安全性,有効性,信頼性を議論される.その適用範囲も有効性を示すエビデンスに基づき限定される.実際の承認申請に当たっては医薬品医療器総合機構の相談機能を十分活用することが重要である.また医療機器の安全規格を定めるISO(International Organization for Standardization)とIEC(International Electrotechnical Commission) のジョイントワーキンググループ9において医療用ロボットの安全規格の検討が進められている.今後この議論に注目する必要がある[5].

〔佐久間 一郎 東京大学

18・7 マイクロ・ナノ

ロボティクス・メカトロニクス講演会は当部門のフラグシップカンファレンスであり,2015年の講演会(京都)[1]では,ナノ・マイクロシステム分野は7セッション:MEMSとナノテクノロジー,ナノ・マイクロ作業システム,ナノ・マイクロ流体システム,バイオアセンブラ,マイクロロボット・マイクロマシン,バイオマニピュレーション,機能性界面から構成され,合計84件の発表があった.傾向として,マイクロ流体システムや細胞を対象としたデバイスやシステムに関する発表数が多かった.これは科研費新学術領域研究「超高速バイオアセンブラ」(2011~2015年度,領域代表:新井健生)により,この分野が進展したことが一因といえる.細胞の品質管理や組織構築においては,細胞間や環境との相互作用に関する知見を得ることは重要であり,これに関連した操作・計測ツール,デバイスやシステムに関わる技術は本部門に関わりが深いため少し詳しく述べる.本部門講演会の傾向から,細胞の操作,刺激,モニタリング,特性計測を始め,細胞のアセンブリやアセンブリされた構造体とその培養環境の計測を目的とした研究開発が活発化しているとみてとれる.細胞の操作では,気液界面を用いて細胞をダメージレスで高速分離する研究や,磁気テザーにより微粒子を三次元非接触操作する研究が進められている.細胞内への物質導入では,微小電極を用いる方法,電界誘起バブルを用いる方法や,レーザ照射による局所加熱による方法などが研究されている.また,1細胞の機械的特性計測の研究が進展し,マイクロ流体チップやマイクロハンドを用いた様々なアプローチで,卵細胞,動物細胞,ラン藻など様々な大きさの対象の力計測が可能となっている.細胞のアセンブリ方法としては,細胞を包埋したハイドロゲルファイバを用いる方法,生分解性材料に細胞を包埋してパターン化する方法,細胞シートを巻き取って円管構造を構築する方法などの報告がある.再生医療を目的とした研究もあれば,筋細胞を用いたバイオアクチュエータに関する試みもなされている.また,培養環境の恒常性を保ち,細胞動態を連続的に測定することが重要で,例えばグルコースセンサの高感度化に関する研究が進められている.さらに,アセンブリされた構造体や組織の機械特性計測も重要であり,例えば積層細胞を吸引固定して引っ張り試験するための計測法が研究されている.マイクロ流体システムに関しては,環境の計測手法や流体制御手法が重要で,例えば,振動誘起流れによる局所流れやそれを用いた操作法は新しい流体制御手法として興味深い.その他,医療・福祉システム,センシング(特に触覚と力覚),人間および生物規範(バイオミメティクス・バイオメカトロニクス)などにおいてもナノ・マイクロメカトロニクスに関連した多数の発表があった.最近では,生命機能の模倣を目指したバイオミメティックシステムや,患者の物理特性や微細な構造を再現しセンサを組み込んだバイオニックシミュレータが注目され始めており,これに関連したナノ・マイクロシステム分野の研究開発が必要とされている.

〔新井 史人 名古屋大学

18・8 ロードマップ

2014年度のロードマップ調査では「製造分野」「サービス分野」「特殊環境分野」のローリングを主に実施してきたが,2015年度はこの3分野にまたがり,人や社会に関わるロボット要素技術として「アシスト(ハードとスキルの両面)」と「社会ロボティクス」を調査した.「アシスト技術」は「人を手助け」する技術として様々な分野での活用が期待されているが,まだニーズとシーズのギャップが大きく,それを埋めるブレイクスルーが必要な技術である.「社会ロボティクス技術」はこれまで環境や空間の知能化,構造化技術などとして進められてきたが,今後はインターネットを介して社会そのものにロボット技術を浸透させ,一見ロボットには見えないが社会を支える高度な機能を持つロボットとして位置付け,新たなサービスを提供するツールとして期待できる.2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは,ロボット活用により安全・安心な技術が期待されており,その技術的方向性を示して行きたい.

「アシスト技術」では,人が装着あるいは移乗して重作業や繰返し作業の軽減・効率化を目指す作業アシスト,医療・福祉における身体のリハビリ促進や介護を目指す医療アシスト,製造業における作業スキル補助や高度な手術支援を目指すスキルアシストを対象と考えて行く.作業アシストでは建設業における苦渋作業軽減や少子高齢者化による労働者不足への対策として大手ゼネコンが最近進めている[1].既に数社から作業対象を絞り込んだアシストスーツが販売され,試験的な運用が行われている.ロボット化した作業現場のイメージをアピールできる利点もあるが,装着性能,安全性,コストなど今後の課題も残されている.医療アシストでは疾患者の手足のリハビリ,歩行支援,移乗アシスト,介護者の移し替えによる荷重軽減など多くの場面でアシスト技術が必要とされ,その取り組みは実施されている.しかしながら,現場のニーズが多種多様であり,十分にカバーできていない傾向もある.スキルアシストでは先ず誰もが標準レベルの作業を可能にする支援技術が求められている.既に組立工場における部材の位置決めや重量物移動の軽減(力制御),鋳造物の注湯制御アシスト,手震の抑制,細い血管の縫合や神経の剥離などが実施されており,こうした高度なスキルを維持する技術も必要となる.

「社会ロボティクス技術」では,インターネットを介して簡単にロボットが扱える技術,ロボットからインターネットのアプリやデバイスを利用できる技術(情報検索など)が重要となる.関連技術の動向としては,AIや情報通信・ネットワーク,GNSSシステム,センサ・センシングシステムが関係する.こうした視点から実環境への導入・適用化を検討すると,屋外ではITS(高度道路交通システム)システムによる交通安全支援や自動走行システム,建屋・施設内では施設内移動ロボットの高度化機能支援,家庭内ではホームロボット(クリーナロボット)やコミュニケーションロボット(癒し,見守りロボットなど),LAN端末によるセキュリティーサービス,健康モニタリングなどが今後も普及して行くと見込まれる.

〔井上 文宏 湘南工科大学

18・3の文献

[ 1 ]
ロボット新戦略http://www.kantei.go.jp/jp/singi/robot/pdf/senryaku.pdf.

18・4の文献

[ 1 ]
国土交通省総合政策局, “建設ロボット技術の開発・活用に向けて~災害・老朽化に立ち向かい、建設現場を変える力~”, http://www.mlit.go.jp/common/000995047.pdf.

18・5の文献

[ 1 ]
淺間 一:“災害対応のためのロボット技術開発と運用”, 建設機械施工, Vol.66, No.4, pp.59–63(2014).
[ 2 ]
淺間 一:“福島原発事故および廃炉対策におけるロボット技術の活用”, 日本機械学会誌, vol. 117, pp. 647–651(2014).
[ 3 ]
淺間 一:“18. ロボティクス・メカトロニクス(18.6福島廃炉関係)”, 日本機械学会誌, vol. 118, no. 1161, pp. 512–513(2015).

18・7の文献

[ 1 ]
日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2015.

18・8の文献

[ 1 ]
井上文宏, 自動化のニーズとパワーアシストスーツの役割, 日本建築学会大会講演会2016, パネルデスカッション資料集(2016-07), pp.1–6.

 

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