2017年も引き続き,CO2排出による地球温暖化が環境問題の中心となっていた.我が国では,パリ協定締結後,2030年CO2排出量26%削減に向けて多大なる努力がなされている.また,海外でも多くの国々が本格的に動き出している.特に中国をはじめとしてこの問題に消極的であった発展途上国もビジネスチャンスとすら捉え,積極的に動き出しているのが今回の協定後の特徴である.
今年は科学技術としては,AIが大いに再注目された年であった.今後,AIのさらなる進化により,車の自動運転や単純作業の軽減等,この技術を人類は今後大いに謳歌することだろう.一方で,産業界からの機械学会会員が減少している.これは,基礎教育や基礎研究軽視の表れである気がしてならない.新幹線台車の破断トラブルがあったが,高度な技術的判断が求められる緊急事態への技術者としての対応力が低下することが懸念される.AIへの過度な依存や学術軽視が続けば,日本のさらなる技術力低下を招くのではないだろうか.
しかし,決して悲観することばかりではなく,気候変動への取り組みも確実に進展している.アメリカ政府がパリ協定の脱退を宣言したにもかかわらず,政府の方針に反対するアメリカ企業も続々とでてきている.
環境先進国としてこれまで世界をリードしてきた日本がその技術力を維持し,世界の持続的発展に貢献するためにも日本機械学会の環境工学部門の役割は引き続き重要だと改めて実感した一年であった.
騒音・振動に関する学会活動では,2017年7月10日から12日まで,日本機械学会第27回環境工学総合シンポジウムが浜松市のアクトシティ浜松研修交流センターで開催された.7月10日には都田町のオムロン フィールドエンジニアリング(株)の見学があり,11日と12日の2日間に講演会が行われた.特別講演2件と一般講演96件があり,そのうち騒音・振動の評価・改善技術分野のオーガナイズドセッションでは32件の講演発表があった.騒音・振動の実験・解析技術が17件,騒音・振動の改善技術が8件,音色・音質の評価と改善が4件,低周波音・超低周波音の評価・改善技術が3件であった.鉄道関係の騒音・振動の制御や解析,処理を施した固体壁の騒音制御の解析などが報告された.
そのほか,音響学会研究発表会が,それぞれ春季(2017年3月15–17日)と秋季(2017年9月25–27)に開催された.そのうち工学に関するものは,両方あわせて345件で「騒音・振動」が78件や「建築」関係が65件,「音響信号処理」が65件,「超音波」が医療用を中心に51件などとなっている.
海外では,2017年7月24日から27日まで,第24回International Congress on Sound and Vibration(ICSV24)が,イギリスのロンドンで開催された.16のテーマについて94のセッションが組まれ,797件の講演論文と135件のポスター発表が報告された.静穏化材料や表面処理関係が75件,アクティブ制御関係が45件と静音化への新たな取り組みが示されている.音響解析に関しては,音・振動の計測などの実験解析が70件,音響シミュレーション関係が40件となっている.実験解析では,音源探査のさまざまな応用への取り組みの可能性が示された[1].車や鉄道などを対象とした騒音・振動が52件となっている.また,熱音響や燃焼音・マフラーなどダクト内の音響解析が41件と前年度までよりかなり増えている.熱音響では,不安定性についての解析[2]など応用への取り組みがなされた.2018年は広島で7月に行なわれる.
2017年8月27日から30日まで,第46回国際騒音制御工学会議(Inter-Noise 2017)が香港で開催された.今回のテーマは「NOISE CONTROL ENGINEERING TAMING NOISE AND MOVING QUIET」であり,92のセッションが組まれ,704件の講演論文が報告された.都市の環境騒音と音場が82件,都市騒音の具体的な音源解析関係が45件,ロードノイズなどの交通騒音が47件,航空機関係が35件など都市を中心とした音環境の問題と影響などが全体の3分の1程度を占めた.そのほか,空力音や機械音などの音源の解析や低騒音化が77件,建築音響関係が65件,アクティブコントロールが45件,音源分布解析が47件,低騒音材と防音壁関係が43件などとなっている.また,acoustic black hole(ABH)についても発表件数が増加し,これまでの研究成果や特性の総括もなされた[3].特別講演として,音環境や騒音のマネジメント[4],音響シミュレーションの最近の動向や,騒音・振動の面から見た車の発達の様子[5]などが紹介された.2018年はシカゴで8月に開催される.
持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定,その実施を見据えた富山物質循環フレームワークの採択など,国際社会は協調して資源効率性や3Rへ取り組む意思を示し,持続可能な社会の実現に向けて大きく動き出している.12月に決定したSDGsアクションプランでは,食品廃棄物・食品ロスの削減,再エネ・省エネの導入,防災に資する廃棄物処理等の整備なども課題として挙げられている.
食品廃棄物に関しては,2016年1月に発覚した食品廃棄物の不正転売などの問題の発生を受けて,食品リサイクル法の省令等の改正及び食品関連事業者向けガイドラインの策定が1月に行われ,あわせて廃棄物処理法の改正も6月に公布された.
廃棄物処理法の改正では,雑品スクラップによる火災の発生や輸出先を含めた健康や環境への影響懸念などがあることから,雑品スクラップ等の有害な特性を有する使用済みの機器(有害使用済機器)についても改正され,ガイドラインの整備も行われている.同時に特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律(バーゼル法)の改正も6月に公布され,対象物の明確化,輸入手続きの緩和などが行われている.
中国は,世界中から輸入していた廃プラスチック・古紙等の輸入を2017年末までに禁止することをWTO(世界貿易機構)へ7月に通告した.これにより各国での対応が必要になっている.日本においても廃プラスチックの処理などが課題となっている.
ポリ塩化ビフェニル(PBC)廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法に基づき進められてきたPCB廃棄物の処理において,北九州事業エリアでは,2018年3月末に高濃度PCB含有の変圧器・コンデンサーの処分期間の末日を迎えた.各地域でも順次,処分期間を終えることから,未処理のPCB廃棄物の調査や処理が急がれている.
廃棄物処理分野における地球温暖化等の対策として,廃棄物発電の導入が引続き進められている.一般廃棄物焼却施設において,施設の総数は減少しているが,発電施設は2015年度の348施設から2016年度の358施設と増加しており,発電効率も2015年度の12.59%から2016年度は12.81%に増加している.ごみ処理量当たりの発電電力量としても2015年度の241 kWh/トンから2016年度は260 kWh/トンに増加している[1].発電施設の比率が増加しており,廃棄物発電の導入,高効率化が徐々に進んでいる傾向がみられる.
発電効率を増加させるために,ボイラ蒸気条件を従来の4.0 MPa,400℃から,さらに高い圧力,温度とする取組みが進んでおり,稼動を開始した施設も出てきている.高効率化に関連する技術として,過熱器管の高温腐食の調査や評価,圧力波によるボイラダスト除去,排ガス再循環などによる低NOx燃焼,各種薬剤を使用した乾式排ガス処理の高度化などが学会等で報告されている.また,バイオマス発電やメタン発酵と焼却の組み合わせによる発電への取組みも引続き行われている.
廃棄物施設の運転,維持管理の安定化,最適化を図るために,情報通信技術(ICT)を利用した遠隔サポートセンター等で各施設を支援するシステムの導入が進められており,さらに人工知能やビックデータ等を活用したシステムの導入も始まっている.
廃棄物焼却施設は,エネルギー拠点としての性格を併せ持っており,地域のエネルギー政策の核とできる施設である.市町村等が廃棄物焼却施設から得られるエネルギーを地域の自立・分散型エネルギーとして利活用できるよう「廃棄物エネルギー利用高度化マニュアル」が策定された.さらに,廃棄物エネルギーの計画的な利活用推進のための「(仮称)廃棄物エネルギー利活用計画策定指針」も作成中である.廃棄物処理施設にエネルギー拠点や防災拠点の役割を担わせる取組みが進められおり,その事例も出てきている.
水俣条約の締結国が50か国に達し,条約が8月に発効となり,水銀による環境の汚染の防止に関する法律も施行された.9月には水銀に関する水俣条約第1回締約国会議が行われ,10月には法に基づき「水銀等による環境の汚染の防⽌に関する計画」が策定されている.水銀廃棄物対策については,適正な処理を確保することを目的とした水銀廃棄物ガイドラインが6月に策定され,廃棄物処理法施行規則の改正が10月に施行となっている.大気への排出基準等については,2018年4月より施行される.この動きにあわせて,排ガス中の水銀の挙動や除去に関しての調査・開発の取組みが行われている.
災害廃棄物処理について,東日本大震災に伴う福島県内の災害廃棄物等の仮置き場への搬入は,2017年12月末で約185万トンが完了(約33万トンが焼却処理済,約97万トンが再生利用済).仮設焼却炉は,福島県内9市町村10施設に対し,7施設が稼動,2施設は処理完了,1施設が今後着工予定である.今後の最終処分を行うまでの中間貯蔵施設整備に向けた調整も行われている.熊本地震では,約289万トン(当初推計は約195万トン)の災害廃棄物が発生,2年間での完了を目指して処理が進められ,一部を除き,目標どおりに処理を完了できる見込みとなっている.環境省では,大規模災害発生時に備えた災害廃棄物処理システムを構築できるように,全国レベル,そして地域レベルでの検討を進めている.
2017年5月,「水銀に関する水俣条約」に関する締約国が50カ国に達し,既定の発効要件が満たされたとして,その3カ月後の2017年8月16日,ついに本条約は発効となった.これを受けて日本国内では水銀汚染防止法が新たに制定されたことにくわえて,大気汚染防止法の改正がなされた.水銀の製造・使用・貯蔵等のマテリアルフローを広くカバーするのが前者であるのに対して,大気環境保全分野にかかわるのは主として後者になる.水銀化合物の大気への排出に係る発生源としては,石炭火力発電所,産業用石炭燃焼ボイラー,非鉄金属(鉛,亜鉛,銅等)製造に用いられる製錬及び焙焼の工程,廃棄物の焼却設備,セメントクリンカーの製造設備が指定されており,表1に示す排出基準が個別に定められている[1].これらの値は水俣条約を踏まえて「利用可能な最良の技術に適合」するように,現実的に排出抑制が可能なレベルで設定されている.よって,この改正大気汚染防止法の施行によって,各水銀排出施設がただちに水銀排出防止設備の大幅な改善を必要とする可能性は低い.しかし,排出される水銀濃度の測定・記録・保存等が義務付けられるなど,排出基準を継続的に遵守するためのシステム構築が課されることになる.
水環境への水銀排出抑制に対する水俣条約の影響としては,廃棄物処理法の改正が挙げられる.廃棄物として回収された廃水銀はその固定化のため硫化等の中間処理を施された後,管理型最終処分場にて埋め立て処理されるが,この際に環境庁告示13号による水銀溶出試験の結果が0.005 mg/L以下でなくてはならないとする基準が定められている.これを超える場合には遮断型最終処分場にて自然から隔離される[2].一般的な水域への排出については,日本国内ではすでに水質汚濁防止法で担保済であるとして,水俣条約発効にともなう影響は小さい.
近年の大気保全に関するもう一つの大きな動きとしては代替フロンの規制が挙げられる.1987年「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」の採択を受けて,オゾン層保護法に基づきCFC,HCFC等の特定フロンの製造・輸入が規制され,オゾン層破壊効果のないHFC等の代替フロンへの転換が進められてきた.しかし,この代替フロンに温暖化効果が存在することがわかり,2016年にモントリオール議定書に代替フロンが追加され(キガリ改正),その生産量・消費量の削減義務が課されることとなった.代替フロンの温暖化係数は二酸化炭素の100倍~10 000倍であり[3],微量の排出量であっても温暖化ガス放出への寄与は大きい.国内ではフロン排出抑制法(2015年施行)による代替フロン削減対策(生産量削減,低温暖化係数製品への転換,漏洩量削減,充填の適正化,回収の義務化,再生・破壊処理の適正化)が世界に先駆けて開始されているが,前述のキガリ改正を受けてオゾン層保護法の改正法が制定され,2019年1月1日からのその施行される予定である.これにより特定フロンと同一の枠組みで,代替フロンの製造及び輸入が規制されることとなる[4].
PM(粒子状物質)排出に関して,2017年に国内での大きな動きは特になかった.しかし,中国では都市部の深刻な大気汚染の元凶としてPM放出削減が至急の命題となっており,その影響で中国では自動車のEV(Electric Vehicle)へのシフトが大きく加速している.世界最大市場でのこうした動向は各国の自動車業界に大きな変革をもたらしており,日本国内の自動車製造会社も2017年に入って次世代型車両の駆動形式としてEVに注力する方向に大きく舵を切った.今後,国内でもEVが普及するとすれば,各世帯のみならず街中に蓄電池があふれることになる.各車両において走行時間より充電時間のほうが長いことを考えれば,昨今問題となっている太陽光発電や風力発電など,気象条件で出力が変動する電源(変動電源)の導入にともなう電力需給ギャップの問題も,EV搭載蓄電池の系統連系によって解決の方向に動く.これにより,2000年代から注目されているスマートグリッド等の自律分散型電力網の拡大がいよいよ本格的に進む可能性がある.諸外国の環境問題が間接的なトリガーとなって,国内の社会インフラの構造をも大きく変える事例となるかもしれない.
2020年以降の地球温暖化対策を定めたパリ協定(我が国は2016年11月に批准)を受けて,2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年比で26%削減することが我が国の目標となった.また,2016年5月に閣議決定された地球温暖化対策計画[1]では,2050年までに80%の温室効果ガス排出を削減するという野心的な目標が提示された.加えて,オゾン層破壊物質に関するモントリオール議定書が2016年10月の第28回締約国会議(MOP28)で改正され,温室効果の高いHFC(ハイドロフルオロカーボン)も規制の対象となった(いわゆる,キガリ改正).キガリ改正におけるHFCの削減スケジュールでは,2036年に85%削減が先進国の目標値であり,極めて高い目標設定である.キガリ改正は20カ国以上の締結が発効の条件であるが,2019年1月の発効が確実視されている.以上のような大きな流れの中,二酸化炭素だけでなくHFCも含めた温室効果ガスの排出削減に向けて,多面的な取り組みを着実に進めていくことが環境保全型エネルギー技術分野の重要課題である.
エネルギー起源二酸化炭素の排出削減には,経済産業省の「長期エネルギー需給見通し」[2]で提示されている徹底した省エネ対策(対策前比13%削減),さらに再生可能エネルギーを最大限(22~24%)導入した電源構成の実現が目指すべき方向といえる.徹底した省エネを推進するためのいくつかの枠組みが2017年に始動している.節電に大きなインセンティブを与える「ネガワット取引」が2017年4月から本格的に開始された.「ネガワット取引」とは,需要家側の節電量を売買する仕組みである.例えば,夏期や冬期の電力需要がピークとなる時間帯に,電力会社が需要家に節電を要請する.需要家はその要請に従った節電を実施し,節電量に応じた対価を電力会社から受け取る.需要家側の節電方法には,例えばコージェネレーションシステムやガス空調への切り替え,また,蓄電した電力の利用等がある.需要家側で需要を調整する仕組みをデマンドレスポンスといい,電力会社と大口需要家との間の契約では従来から存在する仕組みであるが,2017年4月にネガワット取引市場が創設され,電力会社と需要家との間にアグリゲータとよばれる事業者が入って需要調整ができるようになり,企業だけでなく家庭もネガワット取引に参加しやすくなった.
2015年から段階的に進められている電力システム改革によって,電力の小売事業は2016年4月から全面的に自由化されている.2018年3月の時点で小売電気事業者の登録数は464件である[3].2017年11月のデータでは,大手電力会社以外の新規参入事業者が供給した電力量が全体の10%を超えている[3].2017年4月には,ガスの小売事業が全面的に自由化された.電気・ガスが一体となったエネルギーシステム改革によって,新たなサービスや革新的技術の創出が期待されている.また,水素社会の実現に向けて2050年を視野に入れたビジョンと方向性を示す「水素基本戦略」が2017年12月に決定された.同基本戦略では,2030年以降の水素導入量,コスト,利用技術等について実現へのシナリオが提示されており,今後の技術開発の指針となり得るものである.
再生可能エネルギーの導入に関しては,2012年に開始された固定価格買取制度(FIT制度)が重要な役割を担い,太陽光発電システムを中心に導入量の大幅増が実現されつつある.しかし一方で,設備認定量の9割を太陽光が占め,かつ,未稼働の設備が多いことや,買取量の増加に伴う国民負担の増大等,様々な課題が顕在化した.そこで事業の適正化を進めるための方策として,認定制度の変更,入札制度の導入,複数年度の買取価格設定等が盛り込まれた改正FIT法が2017年4月から施行となった.
一方,モントリオール議定書のキガリ改正は,エネルギー需要側である冷凍空調機器に与える影響が大きい.我が国では,地球温暖化対策を背景にHFC冷媒から温室効果(Global Warming Potential=GWP)の小さいフロン系冷媒(低GWP冷媒),および,ノンフロン冷媒への転換を既に進めており,2015年4月にはフロンの回収・破壊に加え,フロンの製造から廃棄に渡るライフサイクルにおける管理を適正化するための法律(フロン排出抑制法)が施行されている.しかしながら,キガリ改正の高い目標設定を達成するためには,低GWP化への取り組みを加速する必要があり,特に,現状のHFC冷媒に代わる代替冷媒を確立できていない家庭用エアコンや業務用エアコンは,その取り組みを強化する必要がある.冷凍空調機器の冷媒変更は,単純にGWPの低い冷媒に入れ替えれば良いというものではなく,冷媒の燃焼性や毒性,潤滑油との相性,圧縮機および熱交換器の特性,コスト等,環境性の他に,リスク,機器性能,経済性を総合的に検討する必要がある.特に,機器性能を悪化させてしまうと電力消費量が増加し,エネルギー起源二酸化炭素の排出を増やしてしまう.そのため,環境保全型エネルギー技術分野においては,冷媒および冷凍空調機器の開発・評価の重要性が一層増している.
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