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機械工学年鑑2019
-機械工学の最新動向-

9. エンジンシステム

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章内目次

9.1 エンジンシステムにおける研究の動向
9.2 各種エンジン
 9.2.1 乗用車用エンジン
  a.全体概要/b.日本の動向/c.ヨーロッパの動向/d.北米の動向
 9.2.2 トラック・バス用機関
  a.市場動向/b.国内の動向/c.海外の動向
 9.2.3 オートバイ用機関
 9.2.4 建設機械および鉄道車両用機関
  a.建設機械の市場動向/b.建機用機関の技術動向/c.鉄道車両用機関の技術動向
 9.2.5 舶用および発電用機関
 9.2.6 ガスタービン
 9.2.7 燃料電池


9.1 エンジンシステムにおける研究の動向

 自動車用エンジンで熱効率50%を達成するという目標に対して,エンジン研究分野でこれまで見られなかった大規模かつ組織的な産産学学連携のもとで5年間にわたり取り組まれてきた戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のひとつ「革新的燃焼技術」が2018年度末をもって終了した(1)ガソリンエンジンでは超希薄燃焼の実現と機械摩擦損失の低減により正味最大熱効率51.5%,ディーゼルエンジンでは高速空間燃焼の実現,機械摩擦損失の低減,排気エネルギーの有効利用により正味最大熱効率50.1%が達成された.極めて高難度と思われた目標を達成するためにはサイエンスに立脚した現象の解明が重要とされ,各種先端の計測技術,数値解析技術,専門知識を有する研究者の連携により多くの有用な知見が蓄積された.科学的理解にもとづく現象のモデル化,膨大な情報のデータベース化,純国産の三次元エンジン燃焼解析ソフトウェアHINOCA(火神)の開発といった,成果を産学全体で共有し今後のエンジン開発に活用する体制の構築も進められた.この数年間,国内の学術講演会はこのプロジェクトの成果を公表する主要な機会となり,役割が決められた研究の成果と進捗について活発な議論がなされてきた.
 2018年度,日本機械学会のイベントとして年次大会(9月9日~12日,関西大学千里山キャンパス),第21回スターリングサイクルシンポジウム(12月1日,国士舘大学世田谷キャンパス),第29回内燃機関シンポジウム(11月26日~28日,同志社大学新町キャンパス)が開催された.年次大会ではエンジンシステム部門企画として市民フォーラム「温めて動く機械スターリングエンジン」(技術と社会部門と共同企画),基調講演「燃料噴霧内の蒸気相・液相濃度分布の分離計測」,先端技術フォーラム「エンジンシステムの排熱回収に関連するフォーラム」,ワークショップ「エンジンシステムにおける振動の発生とその抑制」が持たれた.部門企画の一般講演「省エネルギーに貢献するエンジンシステム技術(1)~(5)」では多岐にわたる技術について合計27件の発表が行われた.
第21回スターリングサイクルシンポジウム-スターリングサイクル機器を含む外燃機関の展望-では特別講演「タイにおけるものづくり企業の現状と展開~今ある技術・必要な技術からスターリングへ」が持たれるとともに,一般講演「スターリングサイクル機器等の外燃機関及び関連要素と応用システム(1)・(2)」と「冷凍機,熱音響機器及び関連要素と応用システム(1)・(2)」で合計13件,ショートプレゼンテーション「トピックス(研究速報,技術ノート,用途開発など)」と「模型エンジン・冷凍機並びに教材用熱音響機器」で合計8件の発表が行われた.
 第29回内燃機関シンポジウム-サステイナブルエンジンシステムを目指して-ではふたつの基調講演「風力・太陽光発電大量導入時の電力構成・コスト・CO2量変化と運輸部門内電力利用の効果解析-EVおよびFCVの望ましい導入形態と水素供給インフラ-」と「次世代に向けての内燃機関の革新-可変圧縮比エンジンの開発-」,ふたつのフォーラム「エンジン燃焼技術の進展を支えるモデリング技術」と「ガソリン/ディーゼル燃焼技術を振り返って今わかること」が企画された.一般講演としてはSI機関(1)~(3),CI機関(1)~(5),ガス・水素エンジン(1)・(2),ガソリン噴霧,ディーゼル噴霧,点火,着火・燃焼,燃料影響,後処理技術,潤滑(1)・(2),エンジン制御(1)・(2),計測診断(1)・(2),数値計算(1)・(2)といったエンジン技術全般にわたるセッションが設けられ,合計91件の発表が行われた.
 パワートレインの電動化が自動車技術のトレンドではあるが,SIP革新的燃焼技術では電動化に対してエンジンが総合的に優位を保ち続け得るポテンシャルを有することが確認された.次世代の自動車技術のあらゆる可能性に備えて活発なエンジン研究の継続が求められる.

〔桑原 一成 大阪工業大学〕

参考文献

(1)SIP革新的燃焼技術研究成果,国立研究開発法人科学技術振興機構ホームページ
https://www.jst.go.jp/sip/k01_seika.html(参照日2019年7月19日)

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9.2 各種エンジン

9.2.1 乗用車用エンジン
a.全体概要

 2018年の世界市場は,2017年比で0.5%減の9479万台となり,2009年より連続していた増加傾向が初めて減少に転じた(1).中国市場は,米中貿易摩擦の影響もあり-3.1%と大きく減少した.また欧州市場は未だ方向性の見いだせないイギリスのEU離脱(Brexit)や,フランスの環境増税に対する大規模な抗議運動が起こるなど不安要素が多く,ヨーロッパの大部分で経済が減速したことに起因し市場減少傾向が続いている.このような中でもパワートレーンの電動化を推進する動きは強く,引き続きBEV,PHEV,HEVの販売拡大がアナウンスされている一方,RDEなどの規制強化に対応するためにエンジン本体の高効率,低エミッション化の開発も並行して進められている.

 

b.日本の動向

 日本の2018年販売実績は2017年と同様の439万台であった.普通車は2.2%増,軽自動車は3.6%増であったが,小型車は5.9%減となり上級車と車格のダウンサイジング化に乗り換えたとみる事が出来る(2).各社の主力車種の販売は好調で,燃費を重視するHEVの他,ダウンサイジング過給エンジンと車体・足回りを強化した,より走りを楽しむための車種も増えた.技術的トピックスでは日産から世界初の量産型可変圧縮比エンジンが2018年3月に北米で発売(国内未定)された他,マツダから世界初のSPCCI(火花点火制御圧縮着火)燃焼を行うSKYACTIV-Xの2019年秋の発売が待たれる.また2014年にスタートした産官学プロジェクトSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)革新的燃焼技術では今期5年目の最終成果としてガソリン,ディーゼルエンジン共に正味熱効率50%を達成し,研究段階ではあるが乗用車用内燃機関のさらなる熱効率向上の可能性を示した.

 

c.ヨーロッパの動向

 2018年の欧州市場はWLTCが導入された9月から4か月連続で登録台数は減少している.通年では前年比+0.1%の1,520万台でほぼ同等であった(3).WLTC,RDE対応などEM強化や,さらなるCO2低減が求められる2021年導入のEURO7に対し各社対応技術の開発を行っている.BEV,PHEV,HEV車など電動化も加速しているが,再生可能エネルギから作られる水素とCO2を合成し内燃機関の性能向上やEM低減にも寄与する液体燃料e-fuelについても研究が精力的に進められている.新エンジンではMercedes Benzが2017年から採用している3.0L L6ガソリン過給エンジンに,シングルターボ+電動コンプレッサ,ISG(Integrated Stater Generator),電動ウオータポンプ,電動エアコンなど補器ベルトレスの48V系マイルドハイブリットシステムを採用し,前モデルのV6 3.0Lエンジンから約20%のCO2排出量削減と,15%以上の出力向上を実現した.

 

d.北米の動向

 北米のトピックスとしてはトランプ政権がCO2規制緩和方針を打ち出し,これをEPAが支持しているが,カリフォルニア州規制と対立するなど今後のCAFE動向が注目されている.自動車販売ではライトトラックのシェアが増加し乗用車が減少する傾向が加速し,GM・Fordの両社がセダンモデルの大半の生産・販売を中止発表した.新エンジンではGMからツインスクロールターボ,可変バルブリフト,気筒休止,電動ウオータポンプなどを備え低燃費・高出力を両立した2.0L過給ダウンサイジングエンジンが発表されキャデラック(SUV)等へ順次搭載が予定されている.

〔浦田 泰弘 本田技術研究所〕

参考文献

(1)MARKLINES社発表値:LMC Automotiveによる2018年世界自動車販売台数速報.
(2)https://www.marklines.com/en/report_all/global_report_201812#report_area_2
(3)日本自動車工業会, http://www.jama.or.jp/stats/stats_news.html
(4)European Automobile Manufacturers Association, http://www.acea.be/

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9.2.2 トラック・バス用機関
a.市場動向

 2018年の小型四輪車,軽四輪車も含めた国内トラック販売台数は,2017年比4.2%増の86万7205台であった.車型別としては軽四輪車は2017年比7.1%増の42万8418台,小型車は同1%増の25万8521台,普通車は同2.2%増の18万266台であった.国内バス販売台数は同12.1%減の1万3702台で,2013年以来の減少傾向となった.大型バスが同22.3%減となったことが大きく影響している.輸出車はトラックが同5%減の35万91台,バスが同7.9%減の 10万9597台であった.中近東ではトラックが同32.1%減,南米ではバスが同30.8%減と大幅に減少した一方で,アフリカではトラックが同28.5%増,北米ではトラックが同14.8%増と大幅に増加した地域もあった.

b.国内の動向

 2017年に引続き「平成28年排出ガス規制」に適合した車両の拡大が進んだ.またダウンサイジングによりエンジン重量を軽減させて,積載量を増加させる傾向が見られた.三菱ふそうトラック・バス(株)は中型トラックにおいて4V20を新規設定して,従来の6M60に比べて大幅に軽量化した.また発進性アシスト,アイドリングストップ&スタートシステムを標準装備し,全車で「平成27年度重量車燃費基準」+5%を達成した.大型バスにおいても小排気量,軽量化した6S10を採用した.UDトラックス(株)も大型トラックにGH8を搭載し,従来のGH11に比べて大幅に軽量化した.燃費基準においても全車で+5%を達成した.日野自動車(株)は大型ハイブリッドトラックにおいて,AIを活用した勾配先読みハイブリッド制御を採用した.地図情報などをもとに走行ルート上の勾配を先読みして,走行負荷を予測し,燃費の最適化及びバッテリーマネージメントを行うことで低燃費化した.いすゞ自動車(株)は小型トラック用4JZ1を改良した.燃料噴射量フィードバック制御,排気位相可変バルブ,モデルベースEGR制御を採用し,燃費基準+10%を達成した.また大型トラックにおいて6WG1の冷却系を改良し,燃費基準+5%を達成した.

c.海外の動向

 MANはシティバスのモデルチェンジにおいてD15を改良した.NOx低減装置はEGRを使用せず尿素SCRのみ,最高噴射圧力250MPaの燃料噴射系,冷却水ポンプには可変容量ポンプを採用し,EuroVI-D規制に適合させた.またハイブリッド車もオプションで追加された.VOLVOはD11,D13でフリクションの低減,排ガス後処理装置やソフトウェアの改良により低燃費化し,EuroVI-D規制に適合させた.またターボシステム,ピストン形状を改良して燃費を7%改善させたD13TCを発表した.また,更なるCO2低減の動きとしてCNG/LNGエンジンが発表された.

〔島﨑 直基 いすゞ中央研究所〕

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9.2.3 オートバイ用機関

 2018年の国内二輪車生産台数は,2017年比で小型二輪車3.5%減,軽二輪車 21.9%減,原付一種8.3%増,原付二種76.6%増で,全体では0.8%増の65.2万台となり,3年連続の増加となった(1).日本二輪車メーカー4社(以下,ホンダ,ヤマハ,スズキ,カワサキと表記)が2018年に発売したエンジンについて簡単に紹介する.

 ホンダは,新設計の998cm3・水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ・直列4気筒エンジンを搭載した新モデルを発売した.燃焼室形状と鍛造ピストンの頭部形状を見直すことで圧縮比を11.6に設定.吸気効率を向上させる為,エアクリーナボックスの新設計とスロットルボディボア径をΦ44mmに設定し,低回転域からのスロットルレスポンス向上と力強い出力特性を実現した.最高出力は107kwを出力する(2)

 ヤマハは,一部仕様変更を施した845cm3・水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ・直列3気筒エンジンを搭載した新モデルを発売した.最高出力は85kwと変更は無いが,クランク慣性モーメントの最適化,およびFIセッティングにより,スポーティかつマイルドな操作性を実現した.また,トランスミッションには強度に優れた素材を採用し,スポーティな走りに応えることができる耐久性を確保している(3)

 スズキは,新設計の124cm3・水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ・単気筒エンジンを搭載した新モデルを発売した.エンジン性能のに対して最も効率的なボアストロークの選定と圧縮比を最適化し,力強い加速と燃費性能48.2km/ℓを両立させた.また,吸入効率の向上と6つのセンサーを用いた正確な燃料噴射制御により高回転域の出力を向上させ,最高出力11kwを実現した(4)

 カワサキは,新設計の398cm3・水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ・並列2気筒エンジンを搭載した新モデルを発売した.大容量エアクリーナボックスとダウンドラフト構造の吸気レイアウト採用による吸気効率の向上と,吸気管長の最適化により,低中速での扱い易い出力特性と最高出力35kWを実現した.また多岐にわたる部品の軽量化により,車両全体で43kgの軽量化を実現した.

〔水川 照章 川崎重工業(株)〕

参考文献

(1)自動車統計月報VOL.52 No.11 一般財団法人 日本自動車工業会
http://www.jama.or.jp/stats/m_report/pdf/2019_02.pdf
(2)ホンダ CB1000R
https://www.honda.co.jp/CB1000R/powerunit/
https://www.honda.co.jp/CB1000R/spec/
(参照日 2019年5月10日)
(3)ヤマハ NIKEN
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/lineup/niken/feature.html
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/lineup/niken/spec.html
(参照日 2019年5月10日)
(4)スズキ GSX-R125 ABS
http://www1.suzuki.co.jp/motor/product/gsxr125xal9/top
http://www1.suzuki.co.jp/motor/product/gsxr125xal9/spec
(参照日 2019年5月10日)

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9.2.4 建設機械および鉄道車両用機関
a.建設機械の市場動向

 2018年度の建機は,北米,欧州,アジアの3大輸出先を中心とした需要が好調に推移した結果,本体出荷額は前年度比7%増の2兆4359億円の見込みである.主要建機の2018年売上台数は,油圧ショベル82479台(前年度比5.6%増),ミニショベル109651台(前年度比8.7%増),ホイルローダ12099台(前年度比5.6%増)である.2019年度は引き続き需要が堅調に推移し,出荷額は2兆4902億円(前年度比2%増)となり過去最高になると予想されている.ただし伸び率自体は鈍化する見込みであり,中国市場の先細りが不安視されている.

b.建機用機関の技術動向

 建設機械用機関の排気ガス規制は,2014年から日米欧で第四次排出ガス規制が実施されているが,欧州では2019年からStageVが実施される.第四次規制に対してNOx規制値は同様であるが,PM規制値が0.015g/kWhとなりPN(粒子数)規制も導入される.
 日米欧以外の地域では,カナダ,韓国,オーストラリア(New South Wales州)ですでに第四次規制が導入され,トルコ,インドも2019年~2020年頃の導入が予定されている.また中国では,現在中国四次規制の検討が進められており,規制レベルは欧州StageIIIbに加えてPN規制が導入される見込みである.実施時期はまだ確定していないが2020年の後半になると見込まれている.
 技術動向として第四次規制対応エンジンが各国で普及しており,欧州StageVもDPFが装着された機関については第四次規制対応機関をそのまま導入する場合が多いと推定される.ただし一部の機関では,StageV対応と同時に高出力化・簡素化した新しい機関が導入される見込みである.キャタピラー社はC9.3B(9.3リッター機関)を発表しているが,従来のC9.3に対してEGRを廃止して機関の簡素化を図るとともに出力を従来機に対して18%アップしている.またカミンズ社は3.8リッターから8.9リッターまでの機関でEGRを廃止し,DPFからSCRまでを一体化した後処理装置(Single module)を導入する.小型機関ではヤンマー社が4TN107(4.6リッター機関)を発表しているが,2ステージターボを搭載して比出力34kW/Lの高出力化を実現している.

c.鉄道車両用機関の技術動向

 鉄道車両用機関については,ハイブリッドシステムの営業運転が開始されて以降,更なる開発の促進と共にハイブリッド車両の営業エリアが拡大している.また国鉄時代に製作した一般気動車の老朽取替用として,新型一般気動車の新製が計画されている.JR北海道,JR東日本,JR九州では,車両および機関を一新させて電気式気動車として,走行試験を実施している.またJR貨物でも電気式機関車の走行試験を実施している.

〔飯島 正 (株)IPA〕


9.2.5 舶用および発電用機関

 舶用ディーゼル主機関を生産している国内主要ディーゼルエンジンメーカー10社の2018年1月~12月の生産実績は,690台,720万馬力であった.2017年の703台,747万馬力に比べて台数,生産馬力とも若干の減少となった.また,2018年末時点の手持ち工事量は10社合計で729台,889万馬力で,2017年末の628台,883万馬力から,台数は増加したものの,生産馬力では同水準となっている.低迷していた中小型のバルカーの発注が進んだことで,搭載される主機関が小型化したことが理由の一つとして挙げられる.
 2018年の新造船マーケットは,緩やかな回復基調にはあったものの,依然として船腹の需給ギャップは解消されておらず,厳しい状況が続いている.一方で,大幅に遅れていた三次規制対応船の商談は,2018年後半から徐々に増えつつある.

 2018年には三次規制対応船向けにNOx低減技術を採用した主機関が相次いで製造された.三井E&Sマシナリー(旧三井造船)では,商用では国内初の高圧EGR(排気ガス再循環)技術を採用した機関の工場運転を行い,NOx三次規制をクリアすることを確認した.日立造船では,国内向けでは初となる高圧SCR(選択的触媒還元)技術を採用した機関を製造し,出荷した.
 ジャパンエンジンからは,中国のライセンシー向けに低圧SCRシステムを納入したとの発表があった.さらに,同社からは,世界初となる低圧EGR技術を採用した三次規制対応機関を国内向けに受注したとの発表があった.

 一方,2020年から実施される一般海域のSOx規制に対して,2018年に入り新造,就航船へのSOxスクラバー適用が本格化し,スクラバーメーカーでは需要に対応しきれない状態となっている.
 さらに,地球温暖化に関する世界的な世論の高まりを背景に,IMO(国際海事機関)では海運業界におけるGHG中長期削減目標として,2008年比で,2030年までに燃費効率の40%以上改善,2050年までにGHG総排出量の50%以上削減を目指すことで合意した.今後,低炭素・脱炭素に向けて,国際的な規制強化や仕組み作りなど,世界的な議論が本格化していくこととなる.

 2018年4月に旧三井造船が分社化して発足した三井E&Sマシナリーのエンジン生産が,三井造船時代も含め累積1億馬力に到達した.1928年に初号機を製造して以来90年をかけ,2018年6月に6555台目での達成となった.

〔東條 温司 (株)三井E&Sマシナリー〕


9.2.6 ガスタービン

 低炭素社会に向けて,再生可能エネルギーの導入が進む中,海外では再生可能エネルギーのコストが著しく低下するケースが見られ,Power-to-gas(P2G)やPower-to-hydrogenとして水素や水素キャリアへの関心が高まっている.我が国でもエネルギー基本計画において水素社会実現に向けた取組の抜本強化が謳われた(1).オランダでは出力132万kW級の天然ガス焚きガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)発電所を水素焚きに転換するプロジェクトが進められており,M701F形ガスタービンを中核とする発電設備3系列のうち1系列が2023年までに100%水素専焼の発電所へと切り替わる(2).また内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で取り組まれているガスタービンでのアンモニア燃料利用技術の研究開発では,2MW級のシステムで混焼による発電が成功し(3),50kW級のアンモニア専焼発電で低NOx燃焼器の開発が進んでいる.一方,CO2回収を目的とする超臨界CO2タービンとして,米国テキサス州にAllam Cycleの実証プラント(50MW)が完成し,点火に成功した(4).また,最新の天然ガス焚きガスタービン・コンバインドサイクルでは,西名古屋火力発電所7-1号が世界最高の発電効率63.08%が達成される(5)一方で,Additive Manufacturing(AM)部品の発電用ガスタービンへの適用が始まり,既設のガスタービンに対して効率,発電容量を増加できるアップグレードで年間2百万ドルの燃料費削減の可能性が示された(6).再生可能エネルギー増大に伴う需給ギャップへの対応策として,機動性に優れる広負荷帯高効率ガスタービンについてNEDOプロジェクトが開始された(7)
 航空機エンジンでは,発電用ガスタービンに先行して,AM部品の適用,セラミック複合材適用が進んでいる一方で,将来の航空機のCO2排出削減技術としてバイオ燃料とともに航空機電動化が期待され,海外の機体メーカー,ジェットエンジンメーカーだけでなく,国内でもJAXAでコンソーシアムが立ち上げるなど関心が高まっている(8).旅客機の電動化として,まずはMore Electric Aircraft (MEA)の技術適用が進むと見られるが,さらにハイブリッドエンジンジェットエンジン+電動)の構想が検討されている.
 学術分野では,ASME Turbo Expoがノルウェーで開催され,今回は3テーマ(Maintenance, Repair and Overhaul in the light of Digitalization(MRO/Digital),Additive Manufacturing(AM),Pressure Gain Combustion(PGC))に焦点を当てるなどプログラムに工夫が見られた.一方で,Global Power and Propulsion Societyの国際会議も定着しつつある.

〔壹岐 典彦 産業技術総合研究所〕

参考文献

(1) エネルギー基本計画,https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/(参照日2019年5月7日)
(2) オランダで天然ガス焚きGTCC発電所の水素焚き転換プロジェクトに参画年間130万トンのCO排出削減に向けてFS(実現可能性調査)を実施,https://www.mhps.com/jp/news/20180308.html(参照日2019年4月22日)
(3) 2,000kW級ガスタービンで世界初のアンモニア混焼を実証,https://www.ihi.co.jp/ihi/all_news/2018/technology/2018-4-18/index.html(参照日2019年5月7日)
(4) Toshiba Successfully Achieves First Fire of 50MWth Commercial-scale Combustor at the NET Power Demonstration Plant,https://www.toshiba-energy.com/en/info/info2018_0615.htm(参照日2019年4月23日)
(5) 西名古屋火力発電所,発電効率世界一の金字塔,https://gereports.jp/ha-chubu-nishinagoya-guinness/(参照日2019年4月23日)
(6) 金属3Dプリンティングでガスタービンが新たな境地に,https://gereports.jp/hot-off-press-3d-printing-pushed-turbine-new-highs/(参照日2019年4月22日)
(7) 機動性に優れた高効率ガスタービン複合発電の要素技術開発に着手,https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100996.html(参照日2019年5月7日)
(8) [開催報告] 航空機電動化の将来ビジョンを「見える化」〜ECLAIRコンソーシアム第1回オープンフォーラム開催,http://www.aero.jaxa.jp/publication/event/event181221_rep.html(参照日2019年5月7日)

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9.2.7 燃料電池

 日本が有する先進の水素エネルギー技術を2020年オリンピック・パラリンピック競技東京大会で世界に発信することで水素社会実現の契機にする方針により,燃料電池自動車などの水素利用システムの普及のための活動が各方面で進められている.東京都では,2020年までに100台以上の燃料電池バスの導入を目指す計画であり,2017年3月に乗車定員77名の燃料電池バスを使用して路線バスでの営業運行を開始し,2018年3月には量産型の燃料電池バスを新たに導入している.これはトヨタ自動車が開発した量産型燃料電池バスSORAであり,燃料電池バスとして国内で初めて型式認証を取得したものである.車両サイズは10525×2490×3340mmで,定員は79名である.車両のルーフ部分に総容積600Lの70MPa高圧水素タンクと合計出力228kWの固体高分子型燃料電池スタックを搭載し,ニッケル水素バッテリーを組み合わせて,最大出力113kW,最大トルク335N・mの交流同期モーターを2基駆動している.また,この燃料電池バスは外部給電システムを搭載しており,災害時などに最高出力9kW,電力量235kWhの供給が可能である.
 乗用車については,2014年12月にトヨタ自動車からMIRAI,2016年3月に本田技研工業からCLARITY FUEL CELLという固体高分子型燃料電池を搭載する自動車が発売され,2016年8月には日産自動車からエタノールの改質による水素を燃料とする固体酸化物型燃料電池を搭載した自動車のプロトタイプが発表され現在に至っている.MIRAIとCLARITY FUEL CELLが搭載する燃料電池スタックの体積出力密度は何れも約3.1kW/Lであり,ガソリンエンジン出力密度に匹敵しうるレベルに達している.70MPaの高圧水素を122.4Lまたは141Lのタンクに充填することでバッテリー電気自動車を十分に上回る航続距離を実現しており,水素ステーションの整備が進めば従来のガソリンエンジン乗用車と同様の使い方が可能となると考えられる.MIRAIの国内販売台数は,2018年12月末時点で2700台を超えている.
 二輪車では,スズキが2016年8月にスクーター型の燃料電池二輪車BURGMAN FUEL CELLの型式認定を受けている.2017年3月に18台の車両のナンバーを取得し,2019年3月まで公道走行試験が行われた.この燃料電池スクーターは,排気量200ccのガソリンエンジンスクーターの車体を基に開発されたものであり,最大発電出力3.5kWの固体高分子型燃料電池スタックと2.4V/2.9Ahのリチウムイオンバッテリーが搭載されており,最大出力4.5kW,最大トルク23N・mのモーターを駆動する.10Lの70MPa高圧水素を搭載し,一回の燃料充填により60km/h定地走行条件で120kmの走行が可能ということである.燃料電池スタックの冷却に強制空冷方式を採用している点が特徴のひとつであり,燃料電池搭載による車両の重量増を抑えるうえで有利であると考えられる.基となったガソリンエンジンスクーターの装備重量163kgに対して,この燃料電池スクーターの車両重量は199kgであり,重量増は比較的小さく抑えられている.
 フォークリフトでは,従来から実証実験が行われてきたが,2016年11月に豊田自動織機から2.5トン積の燃料電池フォークリフトが市販され,またニチユ三菱重工業が開発した燃料電池フォークリフトの試作車が2016年9月に発表された.いずれの燃料電池フォークリフトも固体高分子型燃料電池を搭載しており,水素の充填圧力は35MPaである.燃料電池フォークリフトには,充電時間の長い従来の鉛バッテリーフォークリフトに比べて連続稼働が容易で作業効率が向上するという利点があり普及が期待される.海外では,物流倉庫への大量導入の動きもある.
 経済産業省では,水素基本戦略や水素・燃料電池戦略ロードマップに基づいて,水素ステーションの整備などを進めてきたが,世界に先駆けて100か所を超える商用水素ステーションが国内に整備されている.また,2019年3月には新たな水素・燃料電池戦略ロードマップが策定され,2030年までに燃料電池自動車80万台,水素ステーション900箇所,燃料電池バス1200台,フォークリフト1万台という普及目標に向けて,燃料電池自動車とハイブリッド電気自動車の間の価格差の縮小,燃料電池自動車用の燃料電池スタックや水素貯蔵システムのコスト低減,水素ステーション構成機器のコスト低減,燃料電池バスの車両価格低減などに関する目標値が新たに設定されている.さらに,トラック,船舶,鉄道分野においても水素利用拡大に向けた指針策定が進められることになっている.これらに向けて様々な技術開発が求められる.

〔首藤 登志夫 首都大学東京〕

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