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機械工学年鑑2021

20. 産業・化学機械と安全

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章内目次

20.1 化学プラント,化学プラントエンジニアリング
 20.1.1 業界の現状
20.2 産業機械
 20.2.1 業界の現状

 


20.1 化学プラント,化学プラントエンジニアリング

20.1.1 業界の現状

2020年は新型コロナウイルス感染症の影響を受け,世界中が翻弄された1年となった.国際エネルギー機関(IEA: International Energy Agency)が発行している「World Energy Investment」の年次報告書によれば,2020年度のエネルギー消費額は前年比で-16%と大きく落ち込むと予測している(図20-1-1).

図20-1-1 世界のエネルギー消費額(1)

この落ち込みで一番大きいものが2019年度には全体の消費量の約半分を占めた「石油」で,その減少率は31%にも上る.一方で電力の減少率は10%弱にとどまっている.これはコロナ禍による都市のロックダウンなどで人々の移動や行動が大幅に制限されたことにより,交通機関を動かす燃料としての石油消費が大幅に落ち込んだ一方,在宅勤務やリモートワークの増加とともに遂行に必要な情報通信や情報機器に関するインフラ整備も進み,これらの機器,設備を動かす電力が必要になったことから,電力需要は石油ほど落ち込むことはなかったと考えられる.

このようなエネルギー消費傾向を受け,世界のエネルギー投資も前年比で約20%減(4000億ドル減)の1.5兆ドルになると予測している(図20-1-2).

図20-1-2 世界のエネルギー設備投資額推移

この設備投資でも燃料系の前年比減少率約30%に比べると,電力系は約10%減に踏みとどまることが予測されている.この先の新型コロナウイルス感染症の終息状況にもよるが,このように世界のエネルギー消費の内訳が変わることにより,世界のエネルギープラント建設動向にも変化が出てくるものと考えられる.

電力インフラは2016年に発効したパリ協定によりCO2排出量削減の流れに沿って,再生可能エネルギーを用いた発電所の需要が先進国を中心として一層高まっていく.また,従来型の燃料を燃やすことで電気エネルギーを生み出すタイプの発電所についてもより高効率,省エネ運転を可能とし,加えて環境にやさしい設備が求められる.

このような時代背景において,我々機械エンジニアに求められることは何であろうか.機器や設備設計における機械工学に基づく諸設計を基盤とし,機械安全,高効率化のための部品設計,機能設計,環境を配慮したシステム設計に加え,製造過程においてもこれらを実現するための広範な技術分野に跨る設計最適化が求められる.最適化にあたっては最新のITツール,AI技術の活用もしていくことになる.言い換えればこれからの機械エンジニアは,設備の安全はもとよりこれまで以上に多様な分野において,幅広い技術,知識を用いてエネルギー設備の設計,建設に貢献できる場があるといえる.我々機械技術者にはこういった幅広い技術分野に興味を持ち,その技術を貪欲に習得していく姿勢が求められる.

〔上田 毅 千代田化工建設(株)〕

参考文献

(1)資源エネルギー庁ウェブサイト, https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/world_energy_investment2020.html

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20.2 産業機械

20.2.1 業界の現状

 内閣府の2021年1月機械受注実績報告(1)は,「機械受注は,持ち直している」である.2020年の報告同様,図20-2-1に同HPの統計データをグラフ化したものを示す.本稿執筆時点で2021年4~6月期の受注総額見通しは出ていないが,IMFの4月経済見通し(2)は,世界のGDP成長率を2020年の-3.3%から2021年は6.0%へV字回復すると予測している.また,(一社)日本電機工業会(JEMA)の出荷実績報告(3)では,産業機械の先行指標となるサーボモータの出荷実績が,国内は3ヵ月連続,輸出は8ヵ月連続と,対前年同月を上回っている.同じく,2021年度は2020年度比7%(私見では10%以上)のサーボモータ出荷増を見込んでおり,産業機械の売上回復への期待は確かなものとなっている.

図20-2-1 機械受注推移

一方で,国内の「ものづくり」は少子高齢化など構造的な人手不足や,次々と寿命を迎えるインフラ関連装置・設備のメンテナンスなど,大きな課題にも直面している.製造業のDX(Digital Transformation/デジタル化)が加速する中で,わが国の強みは,SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)を体現する「人間中心のものづくり」であると考えている.「人,技術,現場のつながりを,組織の枠を超えて強化していくエコシステム」が,日本の強みを生かすコンセプトと言える.企業・大学・個人が,「ものづくりの競争領域・独自技術」を強化していくことが必須である.加えて,「ものづくりの協調領域・共通技術」であり,安全,保守・保全,セキュリティなど当部門が担う機械工学分野については,部門活動を通じてさらに普及・深化・継承を図り,わが国産業機械の付加価値向上に貢献していく.

〔戸枝 毅 富士電機(株)/JEMAサーボ業務専門委員会委員長〕

参考文献

(1) 令和3年1月実績:機械受注統計調査報告,内閣府
https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/juchu/2021/2101juchu.html (参照日 2021年3月31日)

(2) 世界経済見通し (WEO) 2021年4月,IMF
https://www.imf.org/ja/Publications/WEO/Issues/2021/03/23/world-economic-outlook-april-2021 (参照日 2021年4月7日)

(3) 産業用汎用電気機器の出荷実績 2021年2月度,(一社)日本電機工業会
https://www.jema-net.or.jp/Japanese/data/2021/21.02/2102jds-comment.pdf (参照日 2021年3月31日)

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