
神戸大学大学院工学研究科
機械工学専攻 教授
浅野 等 |
コロナ禍がようやくおさまる様子であり、海外研究者との対面での交流も始められるかと期待していた中、この2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まり世界情勢が不安定な状況になっています。そのような中、この度、第99期久恒部門長(松本エンジニアリング)の後任として、第100期動力エネルギーシステム部門長を拝命致しました神戸大学 浅野等です。ご承知の通り、動力エネルギーは社会活動、日常生活の基盤であり、エネルギー資源が乏しい日本にとって、動力エネルギーシステムに係る技術の発展は重要課題です。この2年間、対面での会合を開くことができず、学術学会としての意義の一つである交流、意見交換の場を提供できなかった状況ではありますが、この2年間で整備されたオンラインの利便性を確保しつつ対面での会合を積極的に進めてまいりたいと思います。氣駕副部門長(IHI)、村川部門幹事(神戸大)、井上総務委員会幹事(IHI)、そして日本機械学会森本様の協力によって動力エネルギーシステム部門の発展に尽力する所存ですので、よろしくお願い申し上げます。
さて、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて再生可能エネルギーの導入拡大が求められていますが、電力の安定供給のためには再生可能エネルギー出力の大きな変動を他の電源でカバーし、電力需要とマッチングさせる必要があります。揚水、蓄電、水素やアンモニアを利用した蓄エネルギー、火力発電による調整が進められていますが、構成機器の効率向上、更なる省エネルギー、排エネルギーの回収などもこれまで以上に進めなければならないところです。ヴァーチャルパワープラント(VPP)やデマンドレスポンス(DR)の研究もすすめられていますが、その効果は対象とするエネルギーシステムの規模にも依存するでしょう。今後、導入コスト、システム全体でのエネルギー効率を見極める必要があります。加えて、今年2月のロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け、特に欧州でのエネルギー事情が大きく変わっています。日本では、円安によってエネルギーコストがさらに上昇する恐れもあり、原子力を含めたエネルギーベストミックスの見直しにつながる可能性もあります。エネルギーシステムに従事する技術者は個々の技術だけではなく社会全体を俯瞰できる素養も求められています。
冒頭にも述べましたが、学術学会としての役割一つは、学術や技術情報の提供だけでなく、参加者間の交流、意見交換の場の提供です。すなわち、講演会や講習会に参加することで情報を得るだけでなく組織を超えて多様な視点をもつ方々と意見交換することで新たな理解、価値観を見出せると思います。国内の部門活動では、動力・エネルギー技術シンポジウムを佐賀での3年ぶりの対面開催に向けて池上委員長(佐賀大)を中心に準備頂いております。動エネ部門の中心行事であるセミナー&サロンはIHI豊洲での対面開催に向けて中垣部門企画委員長を中心に準備頂いております。いずれも多人数での飲食を伴う交流が困難な状況ではありますが、密を避けながら密度の濃い議論をできる場が得られることを期待しています。一方、海外との交流ですが、動力エネルギー国際会議(ICOPE)は昨年神戸で開催する予定が残念ながらオンラインとなりました。ICOPEは隔年開催ですが、次回は2023年京都国際会議場において原子力工学国際会議(ICONE)と同時開催する予定です。現在、その準備が進められているところですが、動力エネルギー全般にわたる、特に再生可能エネルギーの大量導入を想定した場合の原子力、火力の役割を多面的に議論できる場として期待されます。また、福島廃炉研究国際会議(FDR)が本年10月に福島での対面開催を予定しています。海外研究者の来日に対する敷居が低くなり福島の地で実のある議論がなされることを願っております。
現在、機械学会では部門間連携活動が求められています。動力エネルギーシステム部門は熱工学、流体工学、材料工学、システム工学を基盤としており、さらに社会インフラとして考えれば、都市設計、電気工学、社会学の視点も求められています。つまり、分野横断型の部門であり、その活動が部門間連携に相当するものであることを本部に伝えていきたいと考えております。
エネルギー問題は社会情勢の影響を強く受け、その方向性については大きな変化が起きることも考えられます。学会活動としては、技術者間の交流、社会への情報発信、技術の継承と発展、多くの課題に直面しておりますが、大学、研究機関、産業界の委員の方々がバランスよく構成され多角的に議論・検討ができる部門の特長を活かして、様々なところで情報発信する場を作り世の中に貢献していきたいと思います。産業界の方々には若手技術者の教育の場としても部門活動を是非利用頂きたいと思います。今後とも皆様方のご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。 |